柔軟性で儲ける

柔軟性で儲ける

現場の柔軟性は高いですか?

 

1.「顧客視点」は新規事業を展開する際のキーワード

 

付加価値額拡大を目指す中小モノづくり企業が注目すべき2つの観点とは下記です。

  • マスカスタマイゼーション
  • 超短納期

そして、同時に求められるのが「顧客視点」となります。

 

具体的には、次の2つを探ることです。

  • 顕在的ニーズ
  • 潜在的ニーズ

 

顧客は

「欲しいと感じているモノ・コト」

「欲しいということに気が付いたモノ・コト」

のどちらかに興味を抱きます。

 

経済が高度成長期でモノが市場に行きわたっていない時代なら、供給側の論理も通じるでしょう。

しかし、現在は成熟社会です。

供給側の事情に合わせてくれる顧客はまれではないでしょうか?

つまり、顧客に選ばれて初めて、儲かる工場経営が成立するのです。

「顧客視点」は現場を進化させるきっかけを与えてくれます。

 

2.顧客ニーズから考えた技術開発と製造ライン設計

 

自動車部品の製造工場に勤務していた頃の話です。

新技術開発と生産ライン設計のプロジェクトの責任者を担ったことがあります。

 

自動車メーカーから、燃費向上を目的とした部品の軽量化が課題として提示され、競合先との技術競争が激しくなりつつある頃でもありました。

顧客である自動車メーカーの設計担当者から、新規開発車種での部品仕様に関して、サイズの大型化と軽量化の要望を耳にする機会が何度もありました。

 

繰り返し話を聞くことで、その自動車メーカーに限った話ではなく、他の自動車メーカーでも、同様な課題を抱えていることに気付きます。

従来にはなかった顧客ニーズが顕在化され、今後強まることが予想されました。

そこで、対象となる自動車部品の大型化と軽量化を実現させる新技術開発を進める必要が出てきたのです。

 

当時の加工方法では、一般的に生産リードタイムがサイズ大型化に伴い、長くなる傾向にありました。

対象部品は、サイズは大きくなるものの、従来品と同一納期が求められたので、「大型部品加工技術による生産タクト短縮」が技術課題のひとつでした。

また、大型化と軽量化を両立させる加工技術開発もブレークスルーを必要とする技術課題でした。

 

つまり、ありとあらゆる技術課題の解決策は、従来の技術の延長線上には存在していなかったということです。

新たなことに挑戦することが求められました。

 

その時、開発プロジェクトを支援してくれた上司から次のような言葉を掛けられことを今でも覚えています。

「顧客の要望に徹底的に対応して、世界トップレベルを維持する必要がある。現場を大きく変えて、新たなやり方を定着させるには、絶好のチャンスだ。従来技術にこたわらず、ゼロベースで思いっきりやってみよう。」

 

技術動向をにらんで、工場は変化し続けなければならないと語っていた方でした。

そうした言葉にも励まされ、やり切ることができたプロジェクトです。

 

当時開発できた大型で軽量化された部品の収益率は高かったです。

営業部門の努力もありましたが、従来品とは異なりプレミアムを獲得しやすかったのは事実です。

顧客満足度を高める製品では、コスト以外の観点からも価格を決定できることを実感した次第です。

 

また、現場も変化に対応してくれました。

付加価値額を積み上げる意識が動機付けにもなり、現場を確実に進化させたのです。

 

3.「顧客視点」を実現させる柔軟性

 

弊社では、顧客視点からQCDを表現すると下記になると考えています。

 

Q:顧客が欲しいと感じる「コト」をピンポイントで提供できる。

C:顧客満足に見合う価格を設定できる。

D:顧客が欲しいと感じた時に届けられる。

 

QCDを顧客の立場で表現すると、目指すべき状態を設定しやすくなります。

生産3条件QCDは構成要素であり、現場の競争力を計る指標です。

そして、顧客の要望には変化がつきものであり、それは顧客ニーズの多様性へ繋がります。

 

この多様性への対応は、片手間でできることでないですが、ここにこそ、大手にはできない中小ならではの強みを発揮できる領域があるのも事実です。

ですから、その多様性に引っ張られて、QCDの質を劣化させてはなりません。

競争力が低下します。

 

ここで、現場で欠かせない特性に注目しましょう。

それは、「柔軟性」です。

外部環境の変化とその結果から生じる顧客ニーズの多様性に応えるためです。

 

かっての上司が語っていた

「工場は変化しなければならない。」という言葉は、「工場に大切なのは柔軟性である。」と言い換えられると感じています。

 

3-1.Q(品質)への柔軟性

顧客のニーズにピンポイントで応えてこそ、顧客満足度は最大になります。

具体的は、多品種少量、多品種変量。

最終的にはマスカスタマイゼーションです。

顧客ニーズにピンポイントへ応えながら、仕様への対応力では多様性を維持し、それを実現させる柔軟性の高い現場力を磨きます。

 

中小製造業は大量生産という事業形態で戦わない方が望ましいということです。

行き着くところは価格競争なので当然のことです。

 

市場全体のニーズは固定されていません。

顧客ひとりひとりのニーズが多様であることを背景にして変化します。

今日のヒット商品は、必ずしも明日のヒット商品ではありません。

今売れているモノをたくさん造っても、明日儲かる保証は無いわけです。

変化する顧客ニーズへ焦点を当て、現場を柔軟性良く対応させるに注力します。

そこで、発揮される貴社の強みはなんですか?

 

先の軽量化大型部品開発では新たな製造ラインを構築しました。

その結果、従来品への対応に加えて、軽量化大型部品への対応も可能になりました。

工場全体では、どちらの製品へも対応できるようになり、柔軟性が高まったわけです。

品質への柔軟性を高めれば、多様な製品を所定の品質で安定生産できます。

 

3-2.C(コスト)への柔軟性

値付けの基準を、C(コスト)ではなく、製品の価値に触れて顧客が感じた顧客満足としたいです。

 

コスト基準で商品の値付けをやっている限り、収益上のブレークスルーは起きません。

コスト面で、安く造ることよりも、単位コスト当たりの顧客満足を高めることです。

ですから顧客満足を高めるコストのかけ方に知恵を絞ります。

 

顧客満足を高めることができるならばドンドンお金をかけるのです。

そして、満足度の高まった顧客から、かけたお金以上の金額を回収して、次へ振り向けます。

 

コストで気にするべきことは、そこから得られる顧客満足ということです。

顧客へ耳を傾けます。

 

コスト削減の考え方しか持たない現場では、付加価値額を拡大させる意識が定着しにくいのではないでしょうか?

「投資」の考え方を理解できないからです。

 

先の軽量化大型部品の生産ラインでは、現場と一体になって、あらゆる技術的な工夫を試してみました。

収益率が高い製品であるという意識が現場のモチベーションを高めていたのは事実です。

コストを、単なる削減項目としてみるのではなく、顧客満足を高めるための費用と考える。

顧客満足は、多様なニーズへ柔軟性高く対応することで高められます。

ですから、柔軟性高く対応できる顧客ニーズを絞り込むことは、極めて大切なことです。

ここに強みの焦点を当てます。

 

コストよりも、顧客満足が高まる割合が大きくできれば、付加価値額の上乗せが進み、収益率は高まります。

 

3-3.D(納期)への柔軟性

先に開発した製造ラインでは、コア技術の深耕によって、製品サイズが大型化しても、従来製品の納期を維持できました。

納期では、こうした固有技術での対応がある一方で、管理技術での対応もあります。

 

圧倒的な納期、いわゆる「超短納期」の水準では、付加価値額の積み上げが期待できます。

文房具の翌日配達、すなわち「明日来る」から転じて、社名がアスクルになった事例もあります。

システムとしての現場力で納期への柔軟性を高めます。

 

納期の顧客要望は予想がつきません。

突発的な依頼もあります。

あるいは従来実績にはない短納期要望もあります。

超短納期の水準なら、プレミアムを獲得しやすいのではないでしょうか?

 

ここに商機があれば、現場力の動機づけも図りやすいです。

 

4.現場の柔軟性を高めて顧客視点の付加価値を高める

 

「顧客視点」でモノづくり事業を考える時、重視されるのは「柔軟性」です。

 

QCDの観点から、柔軟性を高めるのに、現場で何ができるかを考えます。

 

特にCの観点では、「プレミアムを獲得するためにコストをかける」プラス思考で考えるのがポイントです。

 

付加価値額を積み上げるには、顧客満足を高めることに焦点を当てます。

こうした狙いを現場へ伝え、動機付けを図ってください。

 

柔軟性を高める仕組みづくりを進めませんか?

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)