東京都墨田区中小製造業でのOJTの事例
人財育成は実践を通じて現場で学ぶOJTを優先する。OFF-JTや自己啓発はOJTの代替にはならない、という話です。
1.東京都墨田区の株式会社浜野製作所
株式会社浜野製作所は東京都墨田区にある資本金1,000万円、従業員34名の金属加工メーカーです。
開発から各種加工を駆使したモノづくりまで一貫した幅広いサービスを提供している中小企業です。
3次元CADを活用して顧客のニーズへ設計・開発から対応可能です。
さて、浜野製作所では設計・開発や加工の事業に加えて自社独自のプロジェクト「浜野プロジェクト」を展開しています。
「浜野プロジェクト」では多様な活動に取り組んでいます。
東京スカイツリーの開業に合わせ、墨田区の中小企業の産学官連携で環境に配慮した次世代モビリティの開発をした「電気自動車HOKUSAI」のプロジェクト。
2009年、東京下町の町工場が力を合わせ、8000メートルの深海を目指す深海探査艇を開発した「江戸っ子1号」プロジェクト。
などの特色ある活動を展開しています。
その中で、2014年4月にGarageSumida(ガレージスミダ)のプロジェクトを立ち上げています。
3Dプリンターやレーザーカッター、NC工作機械などのデジタル加工機を備えたものづくり総合支援施設です。
個人/企業の製品開発や加工を同社の熟練職人が支援するプロジェクトです。
モノづくりのプロによるモノづくりの問題解決型事業です。
同社ではこうした問題解決型事業を運営する中で自社の技術者を育成しています。
(出典:『日経ものづくり』2016年4月号)
大手企業と比較して経営資源に制約がある中小モノづくり企業でも情報通信技術(ICT)の進化や新技術には対応しなければなりません。技術で戦う世界は先手必勝です。
現場の技術者や技能者のポテンシャルを向上させる取り組みが欠かせません。大手とは違って、中小では制約を乗り越える工夫が必要です。
その意味で自社が運営するプロジェクトを通じて技術者や技能者を育成する浜野製作所の取り組みは、極めて効果的なOJTです。
ベンチャー企業者や研究機関や研究者などによる開発や試作を支援するほか、異業種が集まった共同開発プロジェクトのハブとしての機能も持ちます。
多様な業種の人が集まり、幅広い業務をこなす場になるので、学びの場としては理想的です。
GarageSumida(ガレージスミダ)のプロジェクトは設備の使用料などを受け取る事業として運営されていますが、そうした経済的な価値よりも、利用者の相談にのったり、加工を手伝ったりすることで得られる経験による資産的な価値の方が時間とともに高まります。
利用者のニーズに触れながら世界最先端の技術情報を具体的に知ることもできます。
また、金属加工以外の技術分野に接することで活躍するフィールドを広げることができます。
さらに大きいのは、製品をゼロから立ち上げて生み出し完成させるプロセスを経験できることです。
従来の請負型中心の事業展開では経験することはできないことでした。
中小製造業では、請負型事業が多いので取引先の業種や数が限定され、直接に関わる製品も限られていることが少なくないです。
その結果、関わっている製品や工程を離れた知識やノウハウは積み上がりにくい。
浜野製作所はGarageSumida(ガレージスミダ)のプロジェクトを通じて、幅広く自社製品を設計・開発できる技術者を着々と増やしています。
付加価値を拡大させる将来への布石です。
他社との協業を経験する中で視野を拡大して、自ら考えて行動する基礎体力をつける機会を技術者や技能者へ造っている事例です。
(出典:『日経ものづくり』2016年4月号)
ところで、HPには「事業概況」で「浜野プロジェクト」を下記のように紹介しています。
浜野製作所では、産学官連携による新しい事業への進出、地域の工場資源を活用した環境・社会貢献活動、将来のものづくりを担う子供たちへの体験学習、デザイナーとの異業種コラボレーションなど、従来の下請け仕事をこなす町工場のイメージを超えた様々なプロジェクトを展開しています。
こうした活動を通じ、プロジェクト単位での収益化はもちろんのこと、従業員教育や採用、メディア発信による企業PR、新規取引先の開拓、従業員満足度・モチベーションの向上など副次的なメリットも期待しています。
日本国内における中小企業のものづくりが縮小していく中で、将来的には浜野製作所から新しい町工場のビジネスモデルを創出し、日本の製造業の発展に少しでも貢献していきたいと考えています。
脱下請け型の事業展開を目指していることがわかります。
また、期待している副次的なメリットに「従業員満足度・モチベーションの向上」を挙げています。
対外的なプロジェクトへ、情報をオープンに、従業員参加で、積極的に取り組むことで仕事のやる気が引き出されます。
そうした積極的な活動がメディアにも取り上げられ、HPにもその旨、多数掲載されています。従業員の方々は、自社のことを誇らしく感じます。
また、プロジェクトのひとつ、ひとつに関わった従業員にドラマも生まれます。働きがいも自然に生まれます。
さらに、従業員を大切にし、やる気を引き出すことを重視する会社方針がHPの「スタッフ紹介」の内容からも伝わってきます。
極めて効果的なOJTが、どんどん加速されていきます。
従業員34名の金属加工を主業としたモノづくり企業ですが、会社の規模には全く関係なく、現場で技術と技量を上げた技術屋と技能者のチームがますます地域で頼りになる、力強いチームになると期待されます。
2.現場の技術者や技能者の育成
多くのモノづくり企業では現場の技術者や技能者の育成に知恵を絞っています。
教育形態は3つあります。OJT、OFF-JT、自己啓発です。
最優先はOJTです。他の2つも、もちろん重要です。
重要ですが、これら2つはOJTが機能して始めて効果があります。
逆に言うと、OJTを計画的に実践する仕組みが無い現場で、いくらOFF-JTや自己啓発にお金をかけても収益に結びつかない、ムダになる可能性が大です。
まずは、OJTの仕組み構築です。
若手人財は1日24時間のうち、8時間を工場で過ごします。
その現場で生きた技術や技能が展開され、生々しいでき事が起きているわけですから、この8時間に注目して育成計画を立案するのが合理的です。
内容的にも、時間的にも、しっかりとした育成が可能となります。OFF-JTや自己啓発は、OJTの代替には絶対になりません。
まとめ。
人財育成は実践を通じて現場で学ぶOJTを優先する。OFF-JTや自己啓発はOJTの代替にはならない。