時間を適切に扱えるプロを育てる

時間を適切に扱えるプロを育てる

1.「時間」は権威の象徴だった時代

「時間」は権威の象徴だ。このように考える時代がありました。660年、中大兄皇子(なかのおおえのみこ)が初めて漏刻を作り、人々に時刻を知らせたと日本書紀に書かれています。

漏刻とは水時計のことです。階段状に並べた複数の水槽を、細い銅パイプでつなぎ、パイプを通じて水を最下段の水槽にためます。たまった水の量で時を測っていました。

当時、中大兄皇子らは天皇を中心とした新しい日本の国づくりをしようとしていました。漏刻は時間も支配しようとした統治者の権威の象徴だったようです。

 

2.時間を扱うプロを育てる

「時間」は最大の経営資源であると言われます。事業規模にかかわらず全ての経営者が一律に同じく持っていて、ここに差異はありません。

直ぐにはできないけれども時間を味方につければ実現できることは少なくないです。技術や技能の蓄積、人材育成などは時間を積み上げることでなし得ます。能力は不問、地道な積み重ね次第です。

失った時間は戻ってこないことを考えれば、日々の時間管理の大切さが分かります。時間を丁寧に扱わなければ、それは成長発展の機会損失につながるのです。時間管理の重要性を現場に知らせなければなりません。

生産管理3本柱のひとつ、工程管理は時間管理の手法とも言えます。リードタイム短縮の対象はまさにその「時間」です。お金の使い方には「浪費」「消費」「投資」の3通りあるのと同じように、時間の使い方にも「浪費」「消費」「投資」があります。

儲かるか儲からないかは「時間」の活かし方次第です。時間を扱うプロを育てなければなりません。

 

3.工程管理の体系

工程管理は生産計画と生産統制の2つで構成されています。貴社の工程管理は計画と統制が対になっていますか

計画のない統制はあり得ません。標準のない改善活動と同じです。また逆に、統制がない計画もあり得ません。言いっぱなし、やりっぱなし、現場丸投げです。計画と統制は対になっていなければなりません。まずは計画です。

生産計画は各種計画で構成されます。製品のアウトプットを決めるのは日程計画です。手順計画と工数計画でプロセスを定めます。さらにインプットを決めるのが材料計画、人員計画、設備計画です。

生産計画は日程計画に沿って考えます。お客様の要望が納期という形で表現されているからです。時間を扱う日程計画の役割を理解する必要があります。

 

4.現場の姿勢にイライラする経営者は少なくない

大日程、中日程、小日程の3つです。それぞれ役割があります。目標利益、必達利益を達成するための大日程、受注案件の隘路を検討するための中日程、日々の突発・特急に対応するための小日程です。現場が使いこなさなければならないのは中日程と小日程、2つの日程計画となります。

お客様からの問い合わせがあれば、是が非でも受けたいと考えるのが経営者です。詰めて、空けて、取り込まない限り人時生産性は高まらず儲かりません。つまり利益も増えなければ、給料も増えないのです。

経営者にしてみれば、お客様からの問い合わせはどんなことがあっても原則受けるものであり、断ることはあり得ません。「ウチは業界の駆け込み寺です!」と問い合わせがあった案件は全てやり遂げることを方針としている経営者もいらっしゃいます。

受注とは付加価値額を積み上げる最大最強絶好の機会です。コスト削減の比ではありません。経営者はそれを知っています。しかしながら、黙っていて、その思考回路が現場と共有されることはほとんどありのも事実です。

「どうして、現場は、“予定が既に決まっているので、出来ない、入らない、やれない、無理だ。”ということしか言えないのだ!」と現場の短絡的(?)な考え方にイライラしている経営者は少なくないようです。「利益アップ、給料アップを実現させる気はないのか!」そんな声も聞こえてきます。

 

5.現場は現場で一生懸命

経営者イライラの原因は次のようなものでしょうか……。
・現場が納期遵守にこだわりすぎて、保守的な仕事のやり方になっている。
・現場が人時生産性向上の論点を理解できていない。
・そもそも、現場に人時生産性を高めようという経営者の想いが伝わっていない。

貴社で該当することはありませんか?現場は現場で一生懸命です。ただ、納期遵守だけでは儲からなくなった時代変化を知りません。まずはそのことを知らせる必要があります。

そして、人時生産性の大切さを理解してもらうことです。人時生産性向上のために、現場がやれることはいくつかあります。中でも成果が出るやり方は「詰めて、空けて、取り込む」です。今や納期遵守だけでは儲からないのです。そのことを教えなければ現場も経営者の想いに応えられません。

 

6.時間管理

そこで必要になってくるのが「時間管理」の考え方です。小日程と中日程の2つの日程計画を使いこなせるように現場を訓練することです。先述の通り2つの日程計画は目的が異なります。対で使わなければなりません。さらに時間軸と時間単位が異なります。

中日程計画:隘路を検討するために3ヶ月から6ヶ月の時間軸を1日単位で管理する。
小日程計画:特急・突発に対応するため1日~3日の時間軸を1時間単位で管理する。

これは業種業態にかかわらず概ね標準的な時間軸と時間単位です。なぜ、この時間軸と時間単位なのかを理解してもらわなければなりません。時間管理の重要論点です。

隘路を検討する目的はお客様から届いたお問い合わせを原則、全て受けることにあります。受けられるようにするはどうすればイイのか?まずは1日単位で考えることからです。

お客様、場内、外注など複数の調整先があります。万難を排するためにあらゆる手段を「ドラえもんのポケット」から繰り出すのです。貴社にはポケットにどれだけの手段が備わっていますか?

1週間以内の特急、突発への対応、ここから小日程計画です。時間単位が細かくなります。時間単位で調整する必要があるからです。ここでも「ドラえもんのポケット」に備わっている手段の数が問われます。

詰めて、空けて、取り込むために何ができるのか、現場と日頃から議論して、いろいろな手立てをポケットに入れておくことです。

 

7.ある現場での話

ご支援をしている企業の現場キーパーソンへ日程計画について尋ねたことがあります。新たに導入した小日程計画を確認したかったからです。

そのキーパーソンは時間軸1ヶ月、時間単位1日の表を見せてくれました。それまで統一した様式で管理したことがなかった現場です。新たな挑戦となります。現場の状況が見えるようになりました。

ただ、今後、時間軸と時間単位の見直しが必要です。新たに導入した日程計画は中日程と小日程を足して2で割った様式になっています。

これを小日程計画として使おうにも、時間単位がラフすぎます。1日単位です。小日程計画の目的は特急・突発に対応するために時間をやりくりすることです。

詰めて、空けて、取り込む検討は1時間単位となります。現場の柔軟性を高めるには時間管理の精度、つまり最小単位を細かくしなければなりません。

例えば小日程計画を現場の共有スペースに設置したホワイトボード上に示すとワイガヤがやりやすい環境ができます。大型モニターで表示する方法もありますが、変更の頻度が多い現場ではアナログ対応もあり得るのです。

小日程計画の最小単位は少なくとも1時間としたいところです。前職で勤務した現場では0.5時間単位でした。時間単位を細かくすれば時間管理の精度が高まります。仕事のテンポを決めるのが小日程計画の時間単位です。時間のムダを放置しません。

小日程計画の精度アップは人時生産性向上につながるのです。

 

8.「詰めて、空けて、取り込む」姿勢を強化する

ムダな時間を放置しないという思考回路の共有が「詰めて、空けて、取り込む」姿勢を強化します。人時生産性が高まる所以です。

現場管理者にとっての小日程計画は製品の管理ツールであると共に、部下の仕事ぶりを管理するツールでもあります。中小製造現場で多く見られる機能別レイアウトでは、詰めて、空けて、取り込むには、モノとヒトを連動させなければなりません。

また、事業モデルが「人工生産」であるなら作業者の仕事ぶりを時間単位でフォロー・評価する必要があるからです。「人工生産」のモデルでは、付加価値額の大部分が所要工数分の回収に当てられます。

中小製造現場の小日程計画はモノと人の動きを管理するツールなのです。したがって、先の現場のように時間単位が1日では部下に働きかけようがありません。そもそも、小日程計画は特急・突発に対応するための道具です。1時間単位で動きが見えていなければ、調整のしようもありません。

この企業の製品サイズは業界の中では”大型“に分類されます。納期が長めです。そのため納期の単位は日です。それに合わせた小日程計画になっています。先のキーパーソンは小日程計画で人の動きを管理することは知りませんでした。今後の課題です。

計画があってはじめて統制が機能します。統制の観点では時間単位がポイントです。その単位で統制します。儲かるか儲からないかは「時間」の活かし方次第です。

時間単位が細かくなればなるほど、精度が高まり、詰めて、空けて、取り込む機会を見つけやすくなります。貴社でも時間を適切に扱えるプロを育てませんか?

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)