昔のトヨタもそうだった! 人財確保の苦労から学ぶコト
現場を大いにほめて、その気にさせていますか?
どうしても悪いトコロへばかり目がいってほめることって少ないかも。
前回、現場をほめたのはいつだっけ?
収益出ないから、ついついガミガミいうことが多いかなぁ?
やる気に火をつけるために現場を上手くほめることができるだろうか?
まずは、現場の行動に大きな関心を抱くことです。
そして、可能な限り具体的な事項を取り上げ、数字も含めてほめます。
ほめることも、それを意識することで上手くなります。
1.モノづくり工場は地域に欠かせない企業として頑張っている
今、赤字であろうが、黒字であろうが、地元に根差して頑張っているモノづくり工場は、存続し成長しなければなりません。
2015年版中小企業白書では1986年と2012年における従業者数で見た地域の中心産業(市町村単位)を比較し、次のように指摘しています。
1)1986年時点では、北海道を除く全国のほとんどの市町村において、地域の雇用を担う中心産業が製造業であった。
2)2012年時点では、製造業の従業者数の減少に伴う他業種の浮上や、地域ごとに異なる社会構造の変化により、地域の雇用を支える産業の多様化が進行している。
地域の雇用を支える産業の多様化が進んでいるものの、現在でも製造業が雇用の中心産業である市町村は多いです。
今でも、地域活性化の役割を製造業が担っている地域が多いわけです。
モノづくり工場は、地域に欠かせない企業として、本当に頑張り続けてほしいです。
2.赤字で苦戦している工場の最優先課題について
赤字で苦戦している工場の最優先課題は人財活性化です。
そもそも、低収益企業では、積極的な未来投資を決断しにくいです。
固定給を上げたり、将来の飯のタネを探索したり、見込み客へ積極的に接待攻勢かけたり……等々。
通常の生産活動に加えて、将来のための活動へ資金を投入する余裕がないというのが現状であると推測されます。
しかしながら、それでも、やはり付加価値を拡大していかねばなりません。
そして、付加価値を拡大するには、
- 材料費や外注費、残業費を削減し、直接的な利益を積み上げるか
- 従来にない付加価値を実現し、製品単価をアップさせるか
- 販路を開拓して販売数量を増やすか
基本的にこれしかありません。
お金がなければ知恵を絞って、アイデアを創出し、実行するまでです。
現場にある知恵こそが、モノづくり工場における最大の財産です。
ですから、知恵が生み出されやすい環境を整備することが重要です。
そこで、どのような環境にあれば知恵が生まれやすいか?
自社工場にあてはめて考えます。
「やらされ感」タップリの現場では作業こなすだけだろう。
だから、自主的で前向きな気持ちがないと、あえて知恵を生み出そうとはしないだろう。
そこで、やる気を引き出す工夫が、どうしても必要になってきます。人財が活性化され、自律性・自発性が発揮されてこそ、現場は知恵を絞ります。
3.「心遣い」と「ほめること」で仕事のやりがいを与える
ここで注目すべきことは「お金」以外のコトです。(低収益で苦労している工場は、そもそも無い袖を振れません)
現場の「心に響くコト」に注目します。「心遣い」であり、「ほめること」です。
管理者がこうしたことを実践します。
現場では心に響くコトに触れることで共感が生まれ、一体感が醸成されます。
その結果、行動が変わります。
赤字で苦戦している現場では、早く負のスパイラルから抜け出したいのです。
下記に2015年度新入社員を対象に意識調査をした結果があります。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが東京・名古屋・大阪で開催したセミナーを受講した、2015年度の新入社員、男性894人・女性488人が対象です。
グラフ中の選択肢において、会社に最も望むこと上位3つを順位付けしてもらい、1位を3点、2位を2点、3位を1点としてポイント化しています。
「人間関係がよい」が最も高く、次いで「自分の能力の発揮・向上ができる」となっています。
また、「給料が増える」は3位であり、2位の半分以下のポイントです。
この結果は2004年以来、変わっていないそうです。
若手人財が望んでいるコトは「お金」以外にある。
こうしたことが、各種の調査で証明されています。これは注目に当たりする事実です。
改めて次のことを強調します。
やる気を引き出すために、働く目的や仕事のやりがいに注目する。
経営者が考えているほどには給料のことは気にしていなく(多いに越したことはないですが……)、それよりも「やりがい」「達成感」「成長」という無形のコトを求めている。
若手の人財が「やりがい」「達成感」「成長」を感じる機会をドンドン増やす。
若手人財のやる気が引き出され、その活気が工場全体へ波及します。
まずは「心遣い」と「ほめること」です。
4.あのトヨタ自動車も昔は人財集めに苦労した
トヨタ自動車には、部下を気遣う心のマネジメントを重視する風土があるそうです。
その背景について、HY人財育成研究所所長の肌附安明氏は次のように述べています。(出典:『日経ものづくり』2015年4月号)
かってトヨタ自動車が「弱小企業」だったからでしょう。
その昔、トヨタ自動車が「田舎の鍛冶屋」などと揶揄されていたことは有名な話です。
そんな会社に優秀な人材はなかなか集まってきません。
それでも、自動車を造るために、大きなプロジェクトを次々と立ち上げて進めていかなければならない。
すると、限られた人材の中で、いかに能力を引き上げていくかが大切になります。
試行錯誤をする中で、部下を気遣ってやる気を高めることが、結局は能力を最大限に引き上げる確率が高いということにトヨタ自動車の管理者は気づいたのではないでしょうか。
経常利益2兆円越えのスーパー大企業トヨタ自動車にも「弱小企業」の時代、優秀な人財が集まらない時代があったとは想像できません。
けれど、考えてみると当然のことです。
最初から“大企業”の会社はありません。
本田宗一郎も20人から、松下幸之助も3人からのスタートです。
肌附氏のコメントでなるほどと思ったトコロは、
- 経営資源に制約があるからヤレナイとは考えない。
- 制約がある経営資源の中でヤレナイことをヤレルヨウニする。
と、かつて「弱小企業」であったトヨタの経営者は考えていたことです。
経営者の熱い思いがそうさせた、経営のコペルニクス的回転です。
そのような「弱小企業」に集ってくれた仲間たちに管理者はどう接するべきか、そのために経営者は何をするべきなのか。
謙虚な気持ちで人間の本質を追及していくと、誰でもこのような結論に至ります。
つまり、やるべきことは、皆さん、わかっている。
だが、わかっているが、それを実際の行動に移す方が意外と少ない……。
ですから、上手くいっている工場と苦戦している工場の違いは、ほんのちょっとしたことであることにも気づきます。
ただし、時間が経過すると共に、得られる成果の差は大きくなります。やる気を引き出す風土がある会社とない会社の10年後の差を思い浮かべてみると……。
経営者の想いが反映した組織文化や風土は一朝一夕にはできないモノです。
5.実は「ほめること」はカナリ難しい
周囲を見渡すと「心遣い」や「ほめること」が上手な方とイマイチの方がいます。
上手な方とイマイチの方の差はなんでしょうか?
その方の性格?
今でこそ、自らの経験を通じ、こうした考えに至っていますが、部下を持ったばかりの頃は、違っていました。
自分の考えと違うトコロを指摘しては、あ~したらヨイ、こ~したらヨイと指示ばかりしていました。
「ほめること」からは程遠い状況でした。ほめられて気分を悪くする人はいません。
とある書籍で目にしましたが、アメリカ大統領でもほめられればウレシイのもです。
「ほめること」の大切さを、多くの方はわかっているけど……、実践できない。
なぜでしょうか?
実は「ほめること」はカナリ難しいコトだからです。
「ほめること」は、自身があえてそうすべきだと意識しないとできません。
なんとなくほめることは無理です。
つまり、訓練しないと上手にならない。
部下の悪いトコロは目につきやすいですが、良いトコロは、なぜか、意識しないと把握できません。
したがって、意識しないで言いたいことだけをしゃべっていると、あ~したらヨイ、こ~したらヨイとだけ話している自分に気付きます。
ほめようという意識を持って初めて、良いトコロが見えてきます。
6.心遣いとほめることはスキルなので学べば上手くなる
ですから「ほめること」はスキルや技能の側面があります。
また、他人への「心遣い」にも同じような一面が……。
「心遣い」も「ほめること」も学習によって上達できます。
そうして、学習に学習を重ねることで、無意識に自然な形でふるまえるようになります。
自然な形でふるまえると、その人の性格としてとらえられます。
そのような考えに至ってから、部下をほめる時には可能な限り具体的な事項を取り上げ、できれば数字を含めるようにしました。
相手の心に響きやすいと考えたからです。
エンジニアである部下に対しては、各人が取り組んでいる仕事を技術面から評価することへも注意を払いました。
モノづくりに汗をながしている人が持つ特質のようなモノで、自分の技術が認められることに最大の喜びを感じる。
かつての自分がそうでした。
効果的なほめ方として、筑波大学の外山美樹准教授は4点を指摘しています。(出典:『日本経済新聞』「やさしいこころと経済学」滋賀大学准教授 小野善生氏 、2014年11月28日)
1)誠実にほめる
2)特定の行為を具体的にほめる
3)努力したことをほめる
4)肯定的なフィードバックを与える
どの視点もほめる対象者の行動に大きな関心を抱いていないとできないことばかりです。
ほめることの難しさはここにあります。
一般的に言われていますが、相手に関心を抱くことが、イイ人間関係を築くための基本でもあります。
人に働きかけることが工場運営のキモであることを踏まえると、
「仕事の成果は厳しく求めつつ、現場への心遣いとほめることを実践する」
ことが、現場の人財を活性化するためのポイントであることに気付きます。
そして、心遣いとほめることはスキルでもあるので学べば上手くなります。
加えて、効果的な心遣いとほめることができれば、活性化が加速されます。
そして、自社工場の将来像、つまり見通しを示すのも欠かせません。
7.おまけの話
ところで、肌附氏のコメントに出てくるトヨタの“田舎の鍛冶屋”の話は、たまに耳にしていた表現ですが、歴史的な事実があったとは知りませんでした。
知っていましたか?
戦後の1950年、ドッジ・ライン不況でトヨタが倒産寸前に追い込まれたとき、三井銀(当時は帝国銀行)、東海銀を中心とする銀行団が緊急融資をした。
当時、三井・東海と共に主力銀行の1つだった住友銀行(当時は大阪銀行)は、
「機械屋に貸せても、鍛冶屋には貸せない」
と、にべなくトヨタの緊急融資の要請を断り、さらに貸出金の回収に走り、トヨタとの取引を打ち切った。
この交渉での心労がたたり、創業者の豊田喜一郎氏は1952年3月に急逝した。
トヨタの歴代社長は、この仕打ちを決して忘れなかった。
65年、トヨタは経営危機に瀕していたプリンス自動車の救済を、プリンスのメインバンクである住友銀の堀田庄三頭取から懇願された。
トヨタの石田退三会長は
「鍛冶屋の私どもでは不具合でしょうから」
と堀田頭取の要請を拒絶した。(出典:『くすぶるトヨタ出資の新銀行設立構想 トヨタ創業者を死に追いやった 住友への恨みと不信』2015年1月8日、live door’s NEWS から抜粋)
大きな会社も、昔はみなその規模小ささや知名度の低さで苦労していた!!
励みになる話です。
まとめ
やる気に火をつけるために現場を上手くほめることができるだろうか?
まずは、現場の行動に大きな関心を抱くこと。
そして、可能な限り具体的な事項を取り上げ、数字も含めてほめる。
ほめることも、それを意識することで上手くなる。
仕事の成果を厳しく求めつつ現場への心遣いとほめることで人財が活性化し、心遣いもほめることも学べば上手くなる。