日本企業の強さの秘密|元トヨタマンの目
トヨタ系のある部品メーカーを見学したことがある。
その部品の工程は、粗材加工工程と組付工程の2つに大別できた。
粗材加工工程では細長い棒鋼を1個単位で切断し、長い長い1本の自働加工ラインで無人運転していた。
トラブルが発生すれば、機械は自動的に止まり、ランプを点灯するので、作業者はそれを見て急行する。
そしてその加工工程の終わりに粗材完成品置場を設置してあり、各種組付ラインが必要な物をそこから持っていく。
この粗材完成品置場も以前は、工場のスミッコにあったそうだが、鬼のトヨタ生産調査部の「自主研」が入って、今の形に変更させられたそうだ。
確かに動線が非常にスムーズな配置になっている。サスガ!
圧巻は組付ラインだった。
組付ラインは3種類ある。
①すべて人が作業するライン(設備投資額……小)
②機械化が容易な部分のみ機械に置き換え、あとは人が作業をするライン(設備投資額……中)
③すべて機械が作業を行ない、人はゼロのライン(設備投資額……大)
①のラインは海外の人件費の安いところで、かつ数量が少ないものに適用
②のラインは海外の人件費は安いが、ある程度数量があるものに適用
③のラインは人件費も高く、数量もある日本での生産に適用
③に至るのも、当然、①から②へと順次、経験とか失敗を積んで到達し得るものだ。
驚くべきことに、これらの機械化はすべて自社の生産技術部門が内製しているとのことだった。
まさに製造業とは販売製品を製造するのは当たり前だが、その生産設備や生産ロボットをも自ら設計し製造までしてしまうもののことをいうのだ。
このようなところまでいってしまえば、他の企業がマネをしようとしても到底ムリだ。
ところで、今回の病気療養中、長谷川慶太郎氏の「大上昇気流に乗る10の至言」という本を読んだのだが、その中に私の上記の経験を裏付ける記述があったので引用したい。
<日本企業の強さの秘密>
日本は現在、ロボットの生産台数において米国の20倍、生産金額においては約5倍の優位を占めている。
ロボット工業会の集計によれば、日本国内のロボット稼働台数は、2006年末で35万台をオーバーしている。
また生産台数も、2007年で10万台、金額にして1000億円を越えている。
一方、米国を含む北米全体では2006年末で15万台の稼働だから、いかに日本がロボットにおいて優位にたっているかがわかるであろう。
これはロボットのような新しい業種に対する日本企業と米国の企業の取り組み方の差である。
日本においては、現在ロボットの開発・生産にあたる企業は130社あるが、米国では7社にすぎない。
さらに米国ではロボットを作るのは専業メーカーだが、日本では130社のほとんどがユーザーでもあり、ユーザー自らロボットを作っているのである。
ユーザーはまず自社生産したロボットを使って自社の生産能率、労働生産性を高めることができる。
その上で開発、実用化したロボットを市販していく。
自分の会社の生産部門が、ロボットの試用部門となっている。
ここが米国と日本の大きな違いである。
つまり日本の場合は、それだけ開発に必要な情報のフィードバックが迅速かつ的確にできる。
さらに技術革新の成果が、そのまま自社の業績にも直結する。
このように日本のロボット生産が、ユーザーによって推進されているという事実が強みとなって、今後とも優位を維持していくに違いない。
ところでロボット化もいいが、この部品メーカーのようにきちっとした生産理論の上に1つ1つ進めていくことが不可欠だと思う。
その意味でも、トヨタ生産方式の研究・修得はどうしても必要だと思う。
P.S.
この部品メーカーは世界に冠たる部品メーカーD社の子会社だが、トヨタ生産方式や現場の状況はD社より優れていた。
このD社はトヨタへの対抗意識が強いのか、トヨタからの役員(会長の受け入れはあった)の派遣やトヨタ生産調査部の指導を拒んでいた。
さぞかしすごい現場になっているのだろうと思っていた。
トヨタを辞めてから見学する機会を得たが、そう大した現場ではなく非常にがっくりした。
このようにトヨタグループの中でも優れた企業と大したことがない企業とが存在するのだ。
<優れた会社>
光洋精工、アラコ、オティックス、アスモ、岐阜車体、豊田鉄工
オティックスはトヨタ生産調査部とタイアップしてトヨタ工場に苦情を言ってくるので、こちらも動かざるを得なかった。
まさにヤクザの世界と同じで、バックがついていると怖いのだ。