既存技術+既存技術=付加価値で顧客ニーズに応える

既存技術+既存技術=付加価値で顧客ニーズに応える

貴社では、既存技術を生かして新たな付加価値を創出できますか?

1. 摩擦撹拌接合+切削加工

摩擦撹拌接合は摩擦熱で軟化した材料を攪拌して固相接合する技術です。

アルミ合金と鋼、アルミ合金と真鍮のように溶接では健全な接合が困難な異種金属の接合ができます。

塑性流動による固相での接合です。溶接などの溶融接合とは異なり、接合部分の熱による歪の影響が少なく、金属間化合物の生成も抑制されます。

 

さらに、接合部分は金属組織も微細化され、機械的性質も優れています。

こうした摩擦撹拌接合技術を活用するとき、既設の製造工程では対応できません。

摩擦攪拌接合の設備を導入するか、外注加工で対応するか、などを進めます。

 

設備投資や外注管理が新たに必要であり、手間が増えそうです。

そこで、ヤマザキマザックは、ユーザーの不満を解消できる工作機械の開発を進めています。

 

摩擦撹拌接合+切削加工の機能を有するマシニングセンターです。

くっつけるのと削るのを1台でやってしまおうという工作機械です。

航空機の機体補強部品や自動車のボディーパネル、半導体製造装置の冷却板の加工を想定しています。

 

摩擦撹拌での異種金属接合では、

  • アルミ合金と鋼
  • アルミ合金と銅
  • アルミ合金と真鍮
  • アルミ合金とマグネシウム合金

が想定されています。

 

摩擦撹拌接合の設備。

切削加工の設備。

こうした単独の機能を有した設備は、すでに世の中に存在しています。

 

ですからヤマザキマザックが開発している複合装置のコア技術は既存技術です。

それ自体に真新しさはありません。

摩擦撹拌接合と切削加工を組み合わせて、新たな付加価値を生み出しました。ベースはマシニングセンターです。

 

摩擦撹拌接合ツールを、ACT(オートツーチェンジャー)によって、切削工具と自動的に交換できるようにツールマガジンへ収納できるように工夫する必要があります。

ヤマザキマザックでは、摩擦撹拌で接合部へつき当てる先端のピン部分とピンを支えるショルダー部分を別部品で構成させました。

こうした工夫の結果、接合部への押し付け力を従来対比で2〜3割低減できます。

 

その結果、外力による歪を小さく、接合部幅も狭くできるので良好な仕上げ面が得られました。

摩擦撹拌接合ツールをマシニングセンターのツールホルダーに取り付けなければならない。

従来は制約条件になっていた課題を、技術的に解決しました。そして、開発装置独自の付加価値を創出しています。

(出典:『日経ものづくり』2015年11月号)

2. 金属光造形(3Dプリンティング)+切削加工

松浦機械製作所は資本金9000万円、従業員数約300名の工作機械メーカーです。福井県福井市に本社があります。

松浦製作所では、金属の粉末を固めて短期間で金型を製作する装置の海外販売に力を入れています。

金属粉末をレーザーで固め、積み重ねて成形する「金属光造形」と仕上げの「切削」を一台でこなします。

 

マシニングセンターに3Dプリンターを組み込んだわけです。

従来は、鉄の部材を切削加工や放電加工で削り出して金型を製作していました。

従来工法に比べて、製作期間が大幅に短縮されます。

 

HPでは下記のように説明されていました。

金型を分割することなく一体加工できるため放電加工や組み立て・調整作業が不要。

設計やCAM処理時間も大幅に短縮できます。

多数の深リブを有する金型であっても、設計時間では約53%、CAM処理時間は83%、加工時間は80%削減。

 

従来加工法と比べてトータル38%の金型製作時間削減を実現しました。

(出典:松浦機械製作所HP)

金属光造形は金属3Dプリンターのことです。

 

金属粉末を溶融させるのにレーザービームを用いる方式と電子ビームを用いる方式があります。

松浦機械製作所の装置は、レーザービームを用いています。

2003年に販売された装置とのことで実績は長いです。

 

マシニングセンターのみに依存していては業績が景気に左右されると同社では考えました。

経営の安定のために、もう一本の柱を育てることが必要であると判断をしました。

開発のきっかけは取引先の松下電工(今のパナソニック)からの依頼です。「金型の製作期間を短縮したい」との相談が持ち掛けられました。

 

一方、松浦機械製作所は、1990年代からレーザーの研究を進めていました。

こうした研究実績があったので、松下から相談先に選ばれたようです。

なぜ、切削メーカーがレーザーの研究を進めていたのか? 松浦勝俊社長は次のように語っています。

 

「マシニングセンターの切削とレーザーは金属を削る点では共通する」

この装置で製作できるのは、金型に限定されません。

3Dプリンティングの実力を如何なく発揮させれば、内部が空洞になった複雑形状の部品の加工もできます。

 

そこで、欧州の市場では、航空機や自動車部品の製造装置としても販売する計画です。

提案型の営業が重要になります。

2014年の金属光造形装置の売上高は8億円。欧米市場を開拓し、2020年までに20億円に引き上げるのを目指しています。

3. 既存事業をベースにした付加価値拡大戦略

ヤマザキマザックも松浦機械製作所も構成されている技術は既存技術です。

単独の設備は、すでに世の中に出ています。既存技術を組み合わせて、新たな付加価値を生み出しました。

既存技術 + 既存技術 = 付加価値

 

どちらも、顧客の声に応えての結果です。

改めてニーズをお客様に聞くことの大切さが理解できます。

既存技術が単独ではコモディティー化されていても、組み合わせることで付加価値を生みます。

 

既存技術 + サービス = 付加価値 というのもあります。

お客様の要望に応える手段として、この「組み合わせる」も考えます。

4. コア技術の捉え方

松浦社長の言葉は、自社が持つコア技術の捉え方のヒントを与えてくれます。

コア技術を、“切削”すること、と捉えるとレーザーという発想は出てきません。

金属を、“除去”すること、と考えることで、発想が広がります。

 

金属を、意図した形で“除去”できれば、顧客が希望する“コト”を提供できます。

コア技術を要素技術の視点ではなく、顧客に届けるコトの視点から表現すると、新たな付加価値を生み出す技術へつながりやすいです。

コア技術と顧客に届けるコトから新たな付加価値を創出します。

 

コア技術を何かと組み合わせて顧客のコトを生み出すことはできないでしょうか?

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)