新規事業開発がうまくいった要因といかなかった要因

新規事業開発がうまくいった要因といかなかった要因

技術開発と製品開発で技術イノベーションを起こすには、活動の土台に相当する手法や役割分担、トップの想いが欠かせない、という話です。

1. 技術イノベーション

中小製造業で技術イノベーションは成長に欠かせないものであることを、多くの経営者の方は理解されています。

モノづくりを生業としているならば技術開発と製品開発に挑戦します。

そして付加価値拡大を可能にする新たな事業を目指します。

 

工場の先輩技術者に言われたことがあります。

「工場の現場が3年間、変化なかったら技術者の怠慢だ」

毎年小規模の設備改善を積み重ねるか、3年に1度の周期で設備の更新を実施して、常に最上のパフォーマンスを発揮できるようにしなければならないことを、先輩技術者は伝えたかった。

 

20年以上も前の話です。

情報通信技術や人工知能を始め、自動車、医薬品分野などあらゆる業界の新技術が、当時にくらべるとムチャクチャ早いテンポで進化しています。

変化のスピードがものすごい。今日の勝者は、明日の勝者を意味しません。

 

昨今の技術の進化・進歩は早いので、立ち止まることは遅れを意味する。

という一方で、自社の事業に上手く技術を組み合わせると一気に状況を変化させられる。

それ程に激しくて早くて大きい技術の変化であり、会社の規模にかかわらず、チャンスでもあります。

 

付加価値拡大のための技術開発と製品開発を考え続けます。

そして、新規事業を成功させる要因を探ります。

2. 新規事業開発がうまくいった要因

『日経ものづくり』2016年3月号では新規事業開発がうまくいった要因、うまくいかなかった要因をアンケート調査した結果が報告されています。

下記のグラフは新規事業開発がうまくいった要因です。

新規事業開発がうまくいった要因はなにかと問うています。

 

自社での新規事業開発が「だいたいうまくいっている」「うまくいくものが多い」「うまくいく場合が半分くらい」と答えた回答者70名へ複数選択で質問しています。

1)顧客ニーズとの高い適合性

2)経営トップの意識・意欲が高い

3)技術力の高さ

ベスト3です。

 

お客様の困りごとを解決する問題解決型の事業形態が目指すべき状態のひとつであり、顕在化、潜在化に関わらず顧客ニーズへの適合性の高さが求められます。

耳を傾ける姿勢が大切です。そして、顧客の要望を実現させる技術力を常に磨き続ける必要があります。

コア技術です。とにかくコア技術です。

 

さらに、トップの強い想いも新規事業開発を成功させるために欠かせません。

経営者の新規事業にかける想いを現場へ浸透させる工夫も大切です。

3. 新規事業開発がうまくいかなかった要因

下記のグラフは新規事業開発がうまくいかなかった要因です。

新規事業開発がうまくいかなかった要因はなにかと問うています。

 

自社での新規事業開発が「うまくいくものは少ない」「うまくいくものはほとんどない」と答えた回答者180名へ複数選択で質問しています。

1)新規事業開発の進め方や方法が不適切

2)顧客ニーズに適合しない

3)販売力の弱さ

4)新規事業開発を推進する組織・体制の欠落

5)技術力の低さ

上位5つの要因です。

 

うまくいった要因で順位が低かった1)、3)、4)が、うまくいかなかった要因で、上位に位置しました。

興味深い結果です。

「顧客ニーズとの適合性」と「技術力」の2つは、うまくいく、いかないとの間で、見事に裏腹の関係になっています。

 

ただし、うまくいかなかった企業で因果関係が強いと思われている1)、3)、4)は、うまくいった企業ではそれほど強く思われていない。

一連のアンケートの回答者266名でそのうち営業関係者が10%程度で、残りは経営者や研究開発、設計、製造関係者であったことも回答結果に影響していることは考えられますが、たいへん面白い傾向です。

4. 技術イノベーションを成功させるには土台が必要

回答者には営業関係者は少なく、経営者や研究開発、設計、製造、つまり、モノづくりに直接携わる関係者が多かったので、うまくいかないのは、うまく販売してくれないからだ、と考えた方がたまたま多かったことはあり得ます。

モノづくりと営業は車の両輪のようなものですから、新規事業を成功に導くために販売力が重要な役割を担うのは当然のことです。

 

今回の結果で注目したいのは、

  • 新規事業開発の進め方や方法が不適切
  • 新規事業開発を推進する組織・体制の欠落

の2つです。

 

うまくいかなかった企業では重要視しています。

うまくいった企業ではそれほど重要視していません。

この差は何でしょう?

 

それは手法や土台が現場に定着し、浸透しているか、していないかの差……。

つまり、うまくいった企業では、技術開発や製品開発の手法や新規事業開発を推進する役割分担が、すでに定着し、浸透している。

 

あたりまえすぎて成功の要因と考えなかった。

成功の可否は、新規事業の中身そのものによると考える。

一方、うまくいかなかった企業には、そもそも新規事業開発や技術イノベーションを進める環境がなく、手法、手順もなければ役割分担も不明。

 

担当者にしてみれば、業務がやりにくくてしょうがない。

当然、新規事業の中身そのものも大切ではあるが、業務を進めるための調整や時間のやりくり、その他のことによる負荷が大きすぎる不満を抱えていた。

と、このような見方もできます。

 

経営資源に制約条件が多い中小モノづくり工場では起こり得ることです。

なにせ日常の生産業務が忙しいから。

したがって技術イノベーションは、既存業務の延長と考えることをやめます。

 

技術イノベーションを目指し技術開発と製品開発を推進するには、通常の生産活動とは異なる手法や方法論があることを理解します。

そして役割分担を明確にし、組織として技術開発と製品開発をやり切る雰囲気が欠かせません。

 

技術開発と製品開発は兼務できる業務ではありません。

専念する必要があります。

片手間で成功するほど楽な業務ではない。

 

たとえ成功したとしてもイノベーションの水準からは程遠いです。

技術イノベーションを起こすためには、それに専念して取り組むためのヒト・モノ・カネが欠かせません。

だから、既存の業務や既存の経営資源から、こうした未来投資のための原動力をひねり出す活動を並行して進める必要があります。

 

カイゼンです。

加えて経営者の想いも大切です。

まとめ

技術開発と製品開発で技術イノベーションを起こすには、活動の土台に相当する手法や役割分担、トップの想いが欠かせない。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)