連載小説『改善提案名人に挑戦!』イントロダクション

連載小説『改善提案名人に挑戦!』イントロダクション

※当コンテンツは『面白狩り』の提供でお届けいたします。

はじめに

古い資料の整理をしていたら、ちょっと面白そうな原稿が出てきました。『改善提案名人に挑戦!』という題名の小説モドキです。

このお話は、1990年から91年にかけて、私(『面白狩り』編集長)が勤めていた会社の社内報で連載して、けっこうウケた作品でした。

内容は当時を物語るイケイケコストダウンで、ちょっと時代遅れな感じもするんだけど、読み返しながら当時のことを思い浮かべると、自分の身近のどこにでも『プロジェクトX』があったんだなぁという思いがしてきます。

考え方は今でも十分通用すると思うんで紹介することにしました。

とはいえ、改善なんてちょっと硬そうな話なんで、とまどっちゃう人もいるかもしれません。工場で働いた経験のない人には、製造現場自体をイメージできなくて、まるでチンプンカンプンかもしれません。そういった問題はこの際無視します。

初歩的な経済のお話

で、まずイントロにごく初歩的な経済のお話。

だれでもみんな、どうせ買い物をするんだったら、良い商品を安く買いたいと思うでしょう。当たり前だよね。

ということは、商品を売る側から言えば、たくさんのお客さんに買ってもらうためにどんどん安くしようと考えるのも当然の話。でもね。よく売れるから安くするっていうだけじゃ、全然もうからないんだ。

なぜって、もし商品のコストが値段より高かったら全然もうからないないでしょう。

……え? コストってなにかって?

 

コストとは

商売をするためには、売る商品がなくちゃいけないよね。その商品を作るためにはどうしても、材料費だとか人件費だとかお金がかかっちゃう。そういうお金のことをコストとか原価って言うんだ。

つまり、もうけっていうのは〔商品の値段〕から〔コスト〕を差っ引いたお金っていうことなんだ。わかるかな。

だから、どの会社ももうけるために、なんとかして商品のコストを安くしようと一生懸命になるんだ。

コストを下げるための方法

今の時代は、商品のコストを下げるといったら、とにかく会社の従業員を減らしていくっていうのが常識になっているよね。いわゆるリストラっていうやつ。

それから、工場とか下請けといった生産拠点を日本から外国に移していくというのもさかんに行われている。人件費の安い外国で作って輸入した方がもうかるからね。

これって、特に難しい技術開発やプロジェクトなんかやらなくても、経営者が断固やると決断するだけで簡単にできちゃうし、しかも、ものすごいコストダウンになるんで、どの会社でもさかんにやっているんだ。

やりすぎると「デフレ」に

でもね。やりすぎるとちょっと問題なんだよ。

考えてごらん。どんどん従業員をクビにしていったら、そこらじゅう失業者だらけになっちゃう。仕事がないということは、つまり全然収入がないっていうことだから、みんな財布の中はカラッポということだ。

お金がなければ、どんなに商品が安くても買えないから、会社にとっても全然ものが売れない。ものが売れないから、どんどん会社が倒産していって、銀行も負債だらけ、国もどんどん貧乏になっていっちゃう。

これがデフレっていうやつだよ。悲しいことに日本はずっとこのデフレが続いているんだ。そして、そのデフレが回復しない内に石油などの原材料が値上りしたために、今度は逆に商品の値段が高くなり、ますますものが売れない最悪の事態になりつつある。

 

今の日本の状況

こんな簡単なことを無視して相変わらずリストラ人減らしに明け暮れているのが、今の日本の経済なんだ。石を投げればワーキングプアに当たる……こんなきびしい世の中で、キミのお父さんお母さんはホントに苦労して生活のヤリクリをしているんだよ。わかってる?

もっと危なっかしいのは、工場や下請けを外国に移すために、日本が世界に誇っていた技術も外国に持って行って、日本の技術力をどんどん弱くしているっていうことなんだ。経済は技術力が支えるものだからね。

これホントにヤバイんだよ。

つまり、自分の会社さえもうかれば、なりふり構わないというのが、今の姿なんだ。ま、そこまで日本の会社が追い込まれちゃっているとも言えるんだけど、こんな目先のコストダウンばかりやっていると、日本の将来もかなりヤバイんだけどね。現に国の借金は世界一になっちまった!

 

 

……もう本当にヤバイところまできているのかも知れない

21世紀に入り日本経済がどうも元気がなくなってきたとき、中島みゆきのおなじみのテーマソングに乗って『プロジェクトX』というテレビ番組がとてもウケた。
日本の経済力、技術力を支えてきた、時代のヒーローたちのエピソードを紹介したドキュメンタリーだ。

実は、そういったヒーローはかつてはどんな会社にもいた。

ところが、結局、銀行や資本家、経営者たち(政府もね)が目先のもうけに突っ走って、こういった名もなきヒーローたちを大切にしなかったために、その報いが今来ているんだ。今のままならたぶん将来もずっとね。

 

……あのさぁ、携帯ばかりいじってないで、少しは怒りが込み上げてこないかなぁ?

……そんなの関係ねーってか? うーむ……。

 

出典:『改善提案名人に挑戦!-だれもがプロジェクトXだった-』面白狩り(おもしろがり)


アペルザニュース編集部です。日本の製造業、ものづくり産業の活性化を目指し、日々がんばっています。