改善をすると労働強化や首切りにつながるという無言の抵抗がある?
筆者も「改善=リストラ?」という質問や相談を受ける例があります。
この問題は歴史的にも常に管理者と従業員の関係で起きる問題で、労使相互の信頼関係に次のような対策を必要とします(下記に示した八起会の野口会長が示された経営破綻を来した倒産企業の用件と大きく関与する問題です)。
第1位:経営者の傲慢と思い上がり
第2位:人材育成の不備(人を大切にする対策の欠如)
第3位:新製品の欠如と顧客志向への対応不備
この内容から判断して、人を大切にしない会社、顧客志向で製品のライフサイクルに追従した新製品の対応を図らない会社が経営危機になることは当然の理となります。
なお、この種の対策を無視した例に『卑劣なリストラ問題』があるわけですが、省力化にあたっては従業員の方々に下に記載した内容をよくご理解願うと同時に、着手前に「省力や改善計画の前に従業員を育て、更に力を発揮していただけるような仕事を準備しておいて事に当たる対策」を取る、というご準備を願う次第です。
私は後述するC氏とF氏の話も参考に、「余力管理」と名づけ、多くの企業で省力化を進めてきました。
このため、私が関係する企業では問題は起きないで仕事が進んでいます。
また、企業によっては「省力を早く推進して、待っている仕事に投入したい!」と言った呼びかけが常に従業員になされていて、積極的な改善が進んでいる例もあります。
省力の有無に係わらず、企業の経営原理を従業員によく理解していただく対策
- 顧客の要求する新製品開発のない会社は歴史的に滅ってきたという事実
- 生産性向上を中心とする技術改善がなされない企業は赤字になるという事実。競合他社との競争に負ける
- 社会的に害毒を出す企業だけでなく評判を落とすような行為を続け、対策を行なわない企業はやがて顧客からの信頼を落とし、没落するという実態の多いこと
- 企業はトップの行動も大切だが、従業員一人一人が所属する会社を愛し、提案や日々の改善が信頼ある活動によって進められている。逆に、全体的に相互が会社を良くし、自分の人生の中で価値ある夢・目標づくりと共に下から支える活動がなければ、やがてあなた任せの活動が会社を滅ぼすことになるという事実
では、C氏から得た「余力管理」を行なう際に必要な考え方を紹介することにします。
「企業活動の基本は『企業は人なり』とされる。この内容は人と物の見方、技術や技量が世界一流になる努力と共に程度の低い問題は早期解決がなされ、夢の実現にベクトルが合ってくることをいったものです。
企業で働く人々が製品を伸ばし、原価を下げ、品質を高め、設備生産性を高め、環境・福祉・地域社会の諸問題解決の中心になるわけであるから、人を大切にしない企業はこれらの活動は起きない(自然発生的に起こる事を期待しても奇跡が起きない限り無理であろう)。
このような原則は企業存続の基本条件とみて、全社一丸となって前へ進む計画づくりが必要と考える。
俗に、企業にもライフサイクルがあり、若返り策を嵩じないかぎり30年で消失するといわれてきた。
人と共に、物の見方、考え方、行動が変わり、新製品創出やものづくりの革新につながらない企業はやがて滅びるという内容である。
人づくりも目的を持った育成が必要と考える。
以上の自然原理を参考にすると、聡明な皆様は『省力とは未来をつくるための余力を生み出す行動である!』と理解される。
企業活動はある意味、スポ-ツ競技と同じである。
企業の力を高めるのは練習にあたるわけで、練習の管理を『余力管理マネジメント』といい、当面の生産・販売という世界市場における試合だけで精力を使い果たしてしまってはいけない。
このように考えると、皆様も余力管理マネジメントが何故に大切かが判るはずである」
更に、下に示した余力の項目に加え、同じような仕事をするF氏の指導内容から、“余力を活用する場づくり”の例を紹介することにします。
余力も作らず、無駄を抱えたままの生産第一主義と、現在余力を生み出し活動する内容は将来に大きな違いが出ることがご理解いただければ幸いです。
人を生かす場づくりの例
- 新製品を作るため多くの問題を事前対策するための優秀な人材の育成、確保
- 新製品のテ-マ発掘の調査研究
- TPM(全員参画・生産保全)の推進による機械故障時間の低減~スピ-ドアップ対策
- 不良ゼロ対策への人材の投入
- 専門改善班による小改善、改善提案の早期実現、改善活性化対策
- 事務所の作業の習得や高度な特殊技術の習得による各種テ-マ促進対策
- 新製品関連の各種試作要員の確保、立ち上げのための準備、対策
- 営業関連の仕事強化の対策
- アフタ-サ-ビスやリサイクル対策と言う新企画対策
- 関連会社の指導、援助
- いざ海外で製品を生産するという様なことになった場合のための指導要員づくり
- 多能化要員の養成による出勤率変動要素の撲滅
- 各種匿名プロジェクト(含む調査)
- その他
「このようなテ-マを事前に用意して進める余力管理マネジメントと、その場しのぎの人員配転計画や、さらに悪いケ-スは首切りを前提とした人員削減の場合とでは大きな内容の差が生じることは必定である。
人が省力されてから押しつけるプッシュシステムが後者である。前者の考え方はプル(後工程引き取り)の考え方である。
なぜなら、改善により人が育ち、製品やものづくりの技術が育つからである。
人材育成と『余力管理マネジンメント』の活動が結びつくと会社の将来が大きく変化してくる。
このような企画を扱えるのは時を得て業務を担当するマネ-ジャ-であり、その方々の責務である。
不況に伴い、生産量の縮減を余儀なくされたり、製品が生命を終わり生産量が低下したり、突然の円高で対応不可能な経営環境に陥ったケ-スは別として、ある程度の生産と経営状態を続けている状態で、もし、省力=レイ・オフに相当する首切りや配転のような暗い対策をとると、今までは改善に協力してきた従業員の好意を裏切ることは必定となる。
もしこの状況で、従業員に多くの改善を求めても、たとえ従業員の方々が改善しているふりはしても、中身は薄い活動になる。
管理者の方がご自身、またはご子息の方々が暗く夢や目標の無い配転やレイ・オフの場に置かれたとしたら? と考えると、少なくとも管理者の責務として上に書かれた内容で手を打つ“ゆとり”を持つべきである。
このような背景がない限り、省力は人員削減=“人べらし”の道具にすぎない。
改善合理化は諸刃の刃といわれる。
使い方によって大きく状況が異なることを知るならば、正しい使い方は人と企業を育てる方向でことに当たるべきではないだろうか?」
コメント
C氏とF氏の指導内容はSTカットという古くからある問題のひとつを『余力管理』という対策をする内容を示した例です。
STカット問題は、単に“管理側の搾取”にすぎません。
この対処は管理側と就業員の信頼性を欠く問題ですが、単に正社員を中心とした従業員だけが対象ではなく、パートさんや契約社員~協力会社との連携にも大きく作用する内容です。
従って、まずは①改善=ムダ排除 ②手抜き ③労働強化の3つの区分を正しく区分して、個々の仕事の改善に対して正しい方針を定めることが必要です。
特に、改善に当たってはインセンティブを明確にすることが重要ですが、この例として、納入先企業と契約会社との関連で取り決める例を図に示すことにします。
なお、『余力管理』は単にこの種の問題の防御だけではありません。
余力を生めば新製品、新技術だけでなく、塵も積もれば山になる小改善のスピード具体化にもなる。
これが、人材育成に大きく関係することを考えると、このためのテーマを管理者やスタッフ関係者が先に容易に余力を待つ体制づくりが、日常の生産活動の中に求められます。
読者の皆様には、この事例が「余力が生じたらすぐリストラでは、従業員・改善の育成には何も役に立たない」と「余力管理が未来をつくる人材マネジメント」という視点の参考になれば幸いです。