改善の真髄|元トヨタマンの目
トヨタのエンジン工場の加工現場で40年勤められ、もうすぐ定年を迎えられるⅠさんからこんな話を聞いた。
「トヨタの現場の人間は自分の仕事にすごいプライドを持っている。私もそうだった。
私も若かったある日、駆け出しの技術員が『Ⅰさん、ラインをこんな風に変えてみたいんだけど協力してくれませんか』といってきた。
私は即座に『ここのラインのことはこの俺が一番分かっているんだ。そんなことやっても無駄だ』といって追い返した。
その後、何度も何度も頭を下げて頼んで来るし、上司やなんかからも『いっぺんやってみてくれんかねえ』と言われたりもしたんで、うるさくなって『しかたないなあ。いっぺんだけだぞ』ということでやらしてみた。
そうしたらどうだろう。いつもサイクルタイムの終わりごろには、急いで作業をしていたのが、そんなことしなくても楽にやれるようになってしまった。
これには正直驚いた。
そして次からはあの技術員が何か言ってきたら、私としては意味がないと思ったとしても、まずは文句を言わずにやってみることにした。
そうするとその都度、自分の作業がだまされたように楽になっていった。
このようなことを繰り返していると、こんどは自分で作業をしながら、もっと楽にできる方法はないだろうかと考えるようになっていた」
このⅠさんの言葉に改善の真髄を見た思いがした。
定年を迎える方にこのような含蓄のあることを言わしめるトヨタとは本当にすごい会社だと再認識させられた。