改善の効果額と会社損益の関係|元トヨタマンの目
会社は利益の一部を株主の配当金に回す。
通常、1株あたりの配当金の100倍が1株の時価金額になる。
1株1000円の株なら、1年間に10円を配当金として受け取れることになる。年1%の配当と言ってもよい。
銀行なんかに預けておくより、余程金利はよい。
しかし銀行預金は元本保証だが、株は上へも下へも変動する。
投資家はそこのところが考えどこになる。
現在株価が低迷しているため、トヨタなど日本の優良企業は軒並み配当金が年2%を越えてしまっている。
「企業業績はいいのに、株価が低迷している」と見ることができよう。
諸般の事情を勘案し、今後大きく落ち込むことはないであろうと相場判断する投資家なら、年2%の配当金は非常に魅力に感じるであろう。
1000円投資して、年20円も金利が稼げる投資対象はそうこうない。
さて、会社はお金をたくさん儲ければ儲けるほど、配当金に回すことができる。
したがって「値がさ株」と言われる1株の時価金額が高い会社は、やはりがっぽり儲けていて多くの配当金を払っているのだ。
例えば、トヨタなどは1株あたりの配当金を年120円も支払えるから、1株を6000円(年2%の場合)も支払わなければ手に入れることはできないのだ。
世間相場が年1%なのだから、12000円まで株価が上昇してもおかしくはないという判断もできる。
また1株あたりの配当金を年5円しか支払えない会社の株価は、500円ぐらいの株価が妥当な線だなという判断ができるわけだ。
このように見てくると、会社は現在の利益の確保は最低条件であり、さらに常に利益の増加を追求し続けなければならないものであることがお分かりいただけると思う。
そうしなければ株主に対して多大な迷惑をかけることになってしまい、長期に保有してくれなくなってしまう。
したがって会社は長期的な利益展望を常に社会に対して発信し続けなければならないし、もしその展望が悲観的なものであったとしたら、ありとあらゆる対策を打っていかなければならない。
トヨタも毎決算期に社会に対して決算内容の説明と、次のような来期の損益予想を公表する。
「来期の売上高予想は○○です。それに対する経費が石油等の高騰により○○となり、予想利益を○○圧迫することになります。それの対策としまして、販売網の再編による○○の経費節減と、さらに工場での400億円の原価低減を実施しまして経費の高騰部分を補填いたします」
この時にすでに工場での原価低減額を確定しているところを注目して欲しい。
原価低減の基本はムダの排除によるものだが、省力化設備の導入などの設備投資でも発生費用は下がる。
したがってトヨタは原価低減活動の過去の実績や設備投資状況などから、上記の例の400億円のような原価低減予想額を算定する。
そしてこの400億円は各工場の生産規模により絶対に達成しなければならない改善目標として配分される。
各工場ではさらに各製造部の生産規模によって配分される。
各製造部では労務費、素材費、エネルギー費などの費目別に配分し、各課、各組単位に細かく配分していく。
そしてすべての現場の末端にまで、費目別にまでばらしたものが配分される。
この原価低減目標は全員が石に噛り付いても達成しなかればならない。
そうしなければトヨタが社会や株主に約束したことを達成できなくなってしまう。
これによりすべての現場作業者にまで会社経営に直接参加しているという臨場感・義務感を感じさせることができる。
またトヨタは鉄壁と言ってもいいほどの原価低減の評価体制を構築している。
なんと労務費にも変動予算管理を実施しているのだ。これは世界でトヨタだけだと思う。
その他のエネルギー費、補助材料費などにもすべての取り扱い品目について変動予算管理を実施している。
その仕組みは簡単だ。
「過去半年間のある管理対象品の使用実績量」÷「その管理対象品で生産された製品の合格数」=「次の半年間の予算係数」
「当月のその管理対象品で生産された製品の合格数」×「予算係数」=「当月の管理対象品の予算量」
「当月の管理対象品の予算量」-「当月の管理対象品の実績量」=数字がプラスの場合→改善(黒字)、数字がマイナスの場合→赤字
改善(黒字)の場合
全員から出されて創意工夫をチェックして改善の理由を特定し横展(創意工夫はこのように上司が活用するから作業者も出す気になる)
赤字の場合
なぜ、なぜ、なぜと問題解決手法でその赤字の原因を追求し対策を打つ
このようにしくみ自体は簡単だか、すべての品目でこれを実施するということになると非常に大変だが、すべての製造部に原価マンを配置して実際にやっている。
私も本社工場鍛造部の原価マンを3年やったが、非常に大変だったが本当に勉強になった。
このようなアリの這い出る隙間もない評価体制を構築していないと、現場から出される創意工夫改善など、すぐ元にもどってしまう。そして同じことをまた提案したりするのである。
トヨタが社会の公表する工場原価改善額はすべてこの評価体制から算出された数字であり、極めて精度の高いものだ。
決して創意工夫の改善効果見積額ではない。
そもそも改善活動などというものは試行錯誤の連続だ。
例えば、労務費を低減しようと思って対策を打ったとする。それを評価制度の数字で確認してみると、確かに労務費は狙い通り減少したが、それをやったことで補助材費が上がってしまい、トータルすると赤字だったなどといったことは日常茶飯事だ。
したがって創意工夫の改善効果見積額は絶対のものではないのだ。
このあたりのしくみも含めて全体をトヨタ生産方式という。これらは大野耐一氏がすべて考えられたものだ。天才としか言いようがない。
現場で目に見えるトヨタ生産方式の施策は、トヨタ生産方式のほんの一部分にしかすぎない。
トヨタ生産方式とは経営全般に係わる全体系のことをいう。トヨタマンでもトヨタ役員でもそこまで理解している者が何人いるか。