改善って理科系でないとできないの?|元トヨタマンの目
私は大学の商学部を卒業し、トヨタ自動車工業へ入社した。
商学部の同級生の多くが銀行や保険会社へ就職した。
もし銀行入行したなら、回りはすべてが文科系の経理マン。もし保険会社へ入社したら、回りはすべて文科系の保険マン。自分も文科系で、自分に似通った人達ばかりの中に行かなければならない。
それがいやで、自分とは違う畑のいろいろな人がいるであろう製造業を希望し、それがかなった。
最初は本社の人事部、経理部で働いた。大変勉強になった。特に経理部では商学部の知識がすべて活用できて本当に面白かった。
定期異動で工場の原価管理部署へ移った。
工場はやはりすごかった。
要員管理(文科系)
原価管理(文科系)
生産管理(文科系)
製造部の作業者や職制(理科系)
品質管理部の作業者や職制(理科系)
生産技術部の技術員(理科系)
設計部の技術員(理科系)
安全衛生の技術員(理科系)
それぞれのメンバーが学校で各種の学問を学んで、トヨタの入社試験をパスして参集してくる。
そしてそれぞれの部署に配属され、その業務をボーリングしていく。その専門知識をバックボーンにして、それ以外のことも非常に積極的に修得しようとする。
工場の仕事はいろいろな知識や事柄が錯綜するので、幅広い知識がないと人と話ができず、対応できないからだ。
その上で、全員でいろいろな視点から意見や提案を出し合って、改善活動を進めるのだ。それが実に楽しかった。
私は原価管理と生産管理の専門家として、現場と向き合い、技術員や作業者などに疑問点は徹底的にぶつけて教えたもらった。
せっかくトヨタの工場にいても自分の方から積極的に聞いていかなければ、現場は絶対に何も教えてくれない(単に忙しいからかもしれない)。逆に、こちらから聞けば何でも教えてくれる。
私も聞きまくった。そして自分でそれを絵にして再度確認をとった。そしてその絵を部下にすべてみせて、その都度説明した。
またトヨタには現場改善の推薦図書が多数あるため、それを片っ端から読んだが、すべて理解できた。
そして切削技術など理科系の勉強もした。
トヨタのすごさに感動し、本を出版することもできた。
その自信を持って、トヨタを退社し、改善コンサルタントとして開業した。
改善は理科系のもので文科系にはできないなどと考えている方がみえるようだが、トヨタにはそのような垣根はない。みんなが自分に必要に思うことは質問し合い、勉強したりもするのだ。
現会長の張さんも東大法学部のご出身だが、改善の総本山である生産調査部で長年に渡り現場改善一筋に進まれた。
「ものづくり」には文科系的なものと理科系的なものの両方が必要だ。それは個々人にとっても言えるのだ。そうしなければ巨大工場なんか運営できない。
専門バカでは工場では仕事にならない。そのことはトヨタ生産方式の全体像(エッセンスのみ)を見て頂ければ簡単に理解できると思う。
①平準化仕掛け
生産管理(文科系)
②ラインづくり
生産技術部(理科系)・製造部(理科系)
③要員配分
人事部(文科系)
③生産活動
製造部(理科系)
④品質管理
品質管理部(理科系)
⑤生産性評価
原価管理(文科系)
それぞれの担当者がお互いの業務内容を理解すればするほど、全体がうまく回っていく。
特に製造部関係者は文科系の業務から供給されるデータ等を「当たり前」という感覚で使うだけで、その成り立ち・しくみを理解しないまま退職し、コンサルタント活動を進めている傾向がある。
かんばんを振り出せば、部品は自動的に手元に届くもの、という感覚・前提でいたため、娑婆へ出ると、その部分から構築する必要があるから、面食らってしまうようだ。
文科系業務こそトヨタ生産方式の石垣の部分であるということが言える。
加工技術的なものは、工学部的な知識などなくても、現場で現物を見ながら、技術員にいろいろ質問すれば、すぐにある程度は身に付く。
中小企業であれ、トヨタであれ、ものづくりの現場は同じだ。現場にいて必要と感じたことは、常に勉強せよ。
といった調子でトヨタ工場の生産管理・原価管理の後輩諸君は日々頑張って、私に続いて欲しい。
TPSで退職後メシを食うには、トヨタ工場の生産管理・原価管理の専門実務がベースにあった方が、活動範囲は広い。
娑婆はほとんどの場合が石垣づくりから着手しなければならないからだ。
生産管理・原価管理の専門知識は「石垣職人の技」といった感じだ。