技術伝承の難しさ
中小企業のクライアントのお客様からうかがう非常に多い悩みの一つに、「ベテラン技術者から若手技術者への技術伝承が進まない」というものがあります。
団塊世代の退職が数年前にピークを迎えた昨今にあって、技術伝承というのは各社喫緊の課題の一つになっています。しかしながら、具体的にどのようにすればいいのか、ということについてはなかなか的確な助言が見当たらないのが現状です。
技術者育成研究所の考える技術伝承のポイントは2つ。
1.言葉ではなく活字による情報伝達する社内文化の醸成
2.従来発想技術にこだわらず、若手技術者の意見も取り入れる風通しの良い雰囲気
それぞれ説明していきます。
1.言葉ではなく活字による情報伝達する社内文化の醸成
技術伝承を阻む課題とは
若手、ベテランに関わらず、技術者は全体的に文章作成能力が低い傾向があります。これは、一般的な技術者が「専門性至上主義」という知っていることが絶対正義という思考回路ゆえに、コミュニケーションのベーススキルである論理的思考の底上げを軽視することが多い、ということが一因として挙げられます。
そのため、言葉や姿といったことで技術の伝承を行おうとしますが、若手技術者はベテラン技術者から言われたことをその時はわかったつもりでも、後で考えるとわからない。また、場合によってはベテラン技術者の言うことや表現が日によって異なるため、若手にとっては何が絶対的な正解なのかがわからない、といった状況になります。
育成精度向上と育成時間短縮に大きな影響を与える「文章作成能力」
本当の職人は別ですが、一般的な企業の技術者としてのベーススキルはそれほど時間をかけて学ぶことではなく、一日も早くそれを身につけ、企業の利益を生み出す技術を生み出すということが今後さらに求められています。この育成精度向上と育成時間短縮に非常に大きな影響を与えるのが、「文章作成能力」です。
「文章作成能力」がもたらす変化
一例を挙げます。
何か一つの技術や作業に関する話を伝授するとします。ベテランが言葉で説明すると、話した方は説明できたと思うようですが、聴いている若手技術者の方は半分理解できればいい方です。言葉は目の前から消えてしまうのに加え、人の記憶というのは限界があるため仕方のないことです。
結果として、説明したことをやらせようとするとなかなかできない。ベテランから見ると、若手技術者は「人の話を聴いていない」というように映り、育成方法として職人系からより悪化して「放置系」へと変化していきます。
教わる側
若手は若手で、聴きにくくなることでモチベーションも下がり、新しいことをやろうという自主性も、成果を出すという実行力もみにつきにくくなり、育成に必要な時間が非常に長くなります。
ここで、図付きの説明書や過去の経緯を説明する報告書があったとします。これは活字ですので、いつでもそのことを一番わかっている人の手で書かれた文字で情報を手に入れることができます。結果として、記憶定着に必須の「反復学習」ができるようになり、記憶定着スピードはもちろん、育成精度も圧倒的に改善されるでしょう。
教える側
この文章作成は「教える側」にも変化が出ます。文章を作成するというのは、言葉と異なり非常に高いレベルでの論理性を求められます。わかりやすく書くにはどうしたらいいのか、と考えながら文章を書くことは、実は教える側の頭の整理にもなるのです。そのため、自分の築いた技術や手順を文字におこすことで、いざ言葉で教えるときも非常にわかりやすく相手に教えることができます。
以上のように、文章作成能力をベースとした活字による情報伝達する社内文化の醸成が、育成精度向上と育成時間短縮に必須であることがわかります。
2.従来発想技術にこだわらず、若手技術者の意見も取り入れる風通しの良い雰囲気
技術伝承というと、既に行われてきたことをそのまま伝えるということだけを想像するのが普通です。しかしながら、これまでのことをそのまま伝えるだけでなく、柔軟な思考を有する若手の意見も取り入れながら、よりよくしていくという姿勢も大切です。
これは、技術がより向上していくということはもちろん、自分の意見が反映されていると感じさせることで、若手技術者のモチベーションを高めるという効果も期待されます。
絶対的に同じようにやらなくてはいけない、というところももちろんあるのでしょうが、若手に伝える、教える、というだけでなく、若手技術者の意見も取り入れるという姿勢を見せることで、若手技術者のモチベーションアップを起点とした組織の活性化も重要です。
いかがでしたでしょうか。もし、技術伝承についてお悩みでしたら、1つの施策として上述した2点を実践していただくことをお勧めします。