技能の見える化
論理的に技能伝承を進められていますか?
1.スポーツ論理力
2018年2月、韓国の平昌で開催された冬季オリンピック、日本人選手の活躍に、国内は大いに盛り上がりました。
その後に引き続いて開催されたW杯サッカーやアジア大会での日本人選手の活躍もあって、ここ一番に強い日本人選手が“普通”になってきたようです。
誇らしい限りですね。
日本人選手のめざましい活躍の背景には、練習方法を“改革”したことがあるとも指摘されています。
選手本人の努力もさることながら、それをサポート、支援するコーチ陣、さらには団体が考え方を“変えた”結果というわけです。
勝てない状態から、勝てる状態へ変えたかったら、つまりアウトプットを変えたかったら、インプットを変える必要があり、これは製造現場も同じですね。
利益を増やす、より多くのお金を生み出すという状態へ変えたかった、仕事のやり方を変えなければならないわけです。
現場改革を進めるのに、スポーツ界の知恵を生かすことができます。
「外国人コーチとタッグを組んだ多くの日本人選手が好成績を残した。」
このような指摘があります。(2018年3月26日付けアエラ)
金メダルを獲得したフィギュアスケートの羽生結弦選手、前回のソチオリンピックでメダルがゼロだったけれども今回6個のメダルを獲得したスピードスケート陣、明るい雰囲気で銀メダルに輝いたカーリング女子チーム。
こうした実績を上げた選手やチームを指導したのは外国人コーチでした。
では、外国人コーチであると、何が、どう変わるのか?
コミュニケーションが原則、英語となりますね。
メダル獲得は、コーチの国籍に係わらず、選手自身の努力や他を凌駕するチームワーク力による成果でもあるでしょう。
ただ、それらに加えて、コーチとのコミュニケーションが英語になったことによる効果も無視できないようです。
日本語の特徴のひとつに擬音語、擬態語が豊かな言語であるというのがあります。
皆さんは、自分の動作を他人へ説明するとき、どのように表現しますか?
例えば料理の手順を、しばしば、次のように伝えますよね。
ササッと炒める。
トントンと刻む。
パパッとふりかける。
ぎゅっと絞る。
こうした表現をオノパトペ(擬音語、擬態語)と言います。
皆さんの製造現場で、“オノトパペ”を駆使して、ベテランが若手へ一生懸命に作業を教えることも多いのではないでしょうか?
コツをつかむ手がかりになるなど、プラスの効果もありますが、一方で、曖昧な感覚的な表現ですから、的確さ、正確さに欠けるという問題点もあります。
コンマ数秒単位で争うトップアスリートとなれば、意図が正確に伝わらなかったり、イメージの共有に差が生まれたりする危険の方が大きい。
「ヒュンと跳んでクルクルッと回る」では4回転は跳べないだろう。(出典:2018年3月26日付けアエラ)
当然の指摘ですね。
情緒的には伝わりますが、科学的ではないので、具体的に何をどうするべきかが分かりません。
スポーツにおける言葉の働きやコミュニケーションに詳しい東海大学名誉教授の吉川政夫氏、長年、「スポーツオノトパペ」を研究しています。
研究室で「外国人従業選手におけるスポーツオノマトペの使用実態と意識調査」を調査研究した結果は次のようでした。
●欧州・豪州の柔道選手はオノマトペ表現に否定的で必要性を感じていない。
●欧州・豪州の柔道選手は動きを表現するときに、具体的な言葉を探している。
あるべき状態を共有、伝達するには「言語化」が欠かせません。
これは、現場の「見える化」に通じます。
そして、吉岡教授は次のように指摘しています。
英語圏のアスリートや指導者の思考は、日本人に比べて論理的。
西欧人の指導者と日常的に英語でコミュニケーションする経験が、羽生選手や小平奈緒選手のスポーツ論理力を形成し、好成績を生んだ要因のひとつになったと考えていいと思います。(出典:2018年3月26日付けアエラ)
吉岡教授の言う「スポーツ論理力」とは次のことです。
●動きやプレーを客観的に言葉で記述し、因果関係を説明する力
●これまでの成功や経験を言語で説明でき、その経験を新しい場面で有効に活用する力
●自分の考えや思いを論理的にわかりやすく他社に伝える力
吉岡教授の言う「スポーツ論理力」、製造現場で生かしたいと思いませんか?
2.技術の見える化
弊社事業の2本柱、生産性向上と人材育成のうち後者では、スキルアップをしばしば取り上げます。
少数精鋭で筋肉質の製造現場でのスキルアップとは・・・・・・、多能工化に他なりません。
少子化へ対応するには現場の多能工化戦略がカギを握ると考えています。
そして、現場の個々人が、多能工化を目指したスキルアップを図るのに必要なのは“指導者”です。
製造現場の技能に限らず、多くのスキルや技術、技能において、“独学”だけで一流になれません。
一流の経営者、芸術家、科学者、技術者、必ず、教えを請うた“指導者”がいます。
現場のスキルアップも同じですね。
ですから、技能伝承を仕組みとして能させることが、“一流”の現場を育てるのに必要なのです。
弊社では、技能伝承の仕組みづくりをするとき、まずは、動作の「見える化」をします。
動作の「見える化」とは、「言語化」と「数値化」のことです。
職人といわれるベテランに、作業の見える化を進めてもらいます。
ただ、全てのベテランが「言語化」と「数値化」に長けているわけではありません。
そこで、スタッフ(できれば若手)と一緒に、その分析を進めてもらうのです。
「ここをこうやって、すーっと滑らせて・・・・・・」
「切粉ばブツブツって切れたらだめで・・・・・・」
最初は、オノパトペのオンパレード。
そこから、知恵を絞って、「言語化」と「数値化」を進めます。
例えば汎用旋盤。
皆さんも、次のような項目を整理したことはありませんか?
・バイトの選択基準。
・加工部位へ刃を当てる順番。
・回転数。
・送り速度。
・チャックの締め付け力。
・切粉の形状と色。
・切削音。
等など・・・・・・。
動作を”要素”に分解して、そこから「言語化」と「数値化」を図るのです。
昨今、デジタル技術の進化により、画像データでのデータベース化や画像分析の手法などがどんどん提案されています。
弊社でも、こうした技術を大いに生かすべきであると考えていますが、一方で、こうした道具を活かすには手順があるとも考えています。
技能の本質を整理し、共有することが先です。
そのための「言語化」と「数値化」であり、技能の「見える化」で一流の現場を目指します。
「見える化」があってこそ、多能工化の「指導者」の役割を果たす仕組みが構築されるのです。
そもそも、「見える化」なしにデジタル化は進みません。
吉岡教授の言う「スポール論理力」は多能工化の取り組みにも当てはまります。
オノマトペ表現から一歩進めた、具体的な表現を駆使できる現場へ変えるのです。
経営者が「スポーツ論理力」、製造現場で言い換えると技能の「見える化」の重要性を日頃から説き、現場の意識をそうした考え方へ向けることが欠かせません。
「スポール論理力」も訓練の賜物です。
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