我が国では、わが地区では、と問題を挙げて、改善を棚上げするのはなぜ?

我が国では、わが地区では、と問題を挙げて、改善を棚上げするのはなぜ?

B氏が、ある講演会で省力化の話をしたことがあった。

筆者もよく受ける質問のひとつであり、極めて興味深い説明が含まれる話なので、ここに紹介することにする。

 

B氏の話:「省力化を上手に進めるコツは、人を育てるという経営思想と共に、省力対象になる方の行き先をハッピ-な状況(環境づくり)を行うのと平行して進めねばならない。

また、省力対象者は省力計画に参画することによりIE、QC、VEといった問題解決技術を習得・実践して、移った職場で早く仕事をマスタ-して、周りから尊敬されると省力化の正しい意味が理解されます。

また、このためにはマネ-ジメント側の省力化思想の設定と共に、テ-マを準備しておくことが大切です。

 

テ-マは新製品開発、クレ-ム対策、原価低減対策、多能化体制づくり……などです」と、経営者の講演家や、技術スタッフの方々のセミナ-などで、私の経験談を加えつつ話すと「ナルホド」という方と、必ず「その話は良い話ですが、我が国ではその話は環境上問題があってできないと思います。

我が国の事情を話しますと、省力という言葉を出しただけで、従業員は首切りと解釈します。悪い時には、組合問題になります」

 

「では、あなたの会社では省力化は全く行われていないのですか?」と「環境上問題のところ、技術革新がなされたところ、定年退職社の補充ができないところに対して省力は行います。

でも、時の上長や、職場の納得があった時はうまくいっていますが……」

「ところで、あなたの会社であなたの職場は何名ですか?」

 

「100名程度です」

「では、国ではありませんね!」

「……」

「国を変えるのは大臣でも難しく、時には国民の思想変更には100年以上を要するのではないでしょうか?」と言うと活動を変えていただく例があります。

 

なお、ここで話を終わると批判となるので、「あなたは、国の考えを変わるのを待つ方が良いのか? 貴方が国の文化を変えるのか? それとも、もともと貴方の職場は国の中でも特徴のある文化圏を持っていると思いますので、その職場を1国とみなして、他と異なる創造的な文化環境づくりに努力されてはいかがでしょうか?

もし、工場全体の中で一部を管理されていたとしても、そこを変えていくことによって全体が変わるのではないでしょうか?」

「なるほど、それならできます」

 

「私にこのような経験があります。米国に赴任していた時の話です。

200名程の会社で経営の一端を担当していたことがありました。

米国で改善を進めるため、少しのお金は出しますが殆ど内容はボランティア的な仕事に人を募る必要が生じました。

 

米国の管理者は『多少のお金をつけた位で、自主改善のために休みに出てまで会社の困った問題の対策のために出社する人などいるわけがない。それは、日本でしかできない方法だ!』と、言い張ったわけです。

その管理者は外注化を提案したわけでしたが高価であり、会社の事情を知らない人を雇っても結果は悪く、遅くなる内容であるため、やむなく一度ボランティアを従業員に提案してみよう! ということになりましたが、実施すると、人数を調整しなければいけない位に人が募集してきました。

理由も『自分の会社を良くするために力を貸したい。しかも、お金を貰えるなら賛成だ!』ということでした。

 

このようなことがキッカケとなり省力ならぬ余力生み出し、活用マネジメントが開始されました。

『米国では単能作業しか向かない、多能化は難しい』とか『改善班活動や、新製品の為に人を生み出す方策と省力化を行うといっても、やがては組合が乗り込んでくるばかりか、工場で反対運動が起きる』という話です。

『しかし、米国ではそうかもしれないが、わが社は違うようだ。我々は米国の一般論を企業内で展開しているのではない。わが社式の方式をつくれば良い!』とこの時に皆が思った次第です。

 

人間である以上、目的と条件が整えばそこに納得のゆく情勢が整うと、新たな文化が独自に作れるということはよく例をみることです。

我々は企業を発展させ、そこで働く人々を育て、活動するわけであるから一般論で可能性を断つことはせず、皆で知恵を集め皆で会社や自分達の仕事を良くする方策を独自につくるべきです」

 

コメント

これも、研修でよく受ける質問と悩みです。

考えれば当たり前の内容だが、改善を阻害する例として皆様にはチェック願いたく、ここにB氏の指導内容を紹介した。


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/