感性と機能に注目した儲かる技術開発

感性と機能に注目した儲かる技術開発

貴社の製品には、機能面のほかに、顧客へ提供している価値がありますか?

1. 自動車部品を開発していたころに経験したこと

技術の進歩や時代の流れと共に、顧客価値を見直す必要があるのを実感したことがあります。

ティア1として自動車部品を自動車メーカーに供給する工場で勤務していたころの話です。

意匠性も求められる重要保安部品の開発業務に携わっていました。

 

車の基本性能は、走る、曲がる、止まるです。

不具合があると、この基本性能に支障をきたす恐れのある部品は、重要保安部品として扱われます。

その製品強度、性能が厳しく問われるのです。

 

一般的に、製品を厚肉に設計すれば、間違いなく強度仕様をクリアできます。

しかし、一方で燃費向上を目的とした、軽量化の要求も強くなってきていました。

競合先との軽量化競争が激しくなったのです。

スクリーンショット 2017-08-01 14.25.57

新製品を開発するたびに競合の方が軽いとか、ウチが競争に勝ったとか。軽量化競争が、しばしば話題に上がりました。

従来製法で、軽量化競争を勝ち続けることに限界を感じてきたのもこのころです。

そこで、競争力強化のため、新製法開発のプロジェクトが立ち上がりました。

 

そのプロジェクトは、試作を開始してから、約3年で実用化に至りました。

構想段階を含めると、もっと長期です。

アイデアが出されてから、約5年の月日を要しました。

 

そして、この技術は、実用化されて10年以上の年月が経過しています。

幸い、現在も、現役の量産技術として活用されています(2016年時点)。

 

こうした生産技術開発の中で、自動車部品に求められる仕様の変化を感じました。

軽量化競争の中、新たに固有振動現象への対応も求められる車種も出てきたのです。

従来製法で開発した製品を基準として軽量化が5%、10%と進んでいく中で、要求が強まってきました。

 

部品の軽量化が進んでいない時は、そもそも問題にはならなかった部品の剛性問題です。

軽量化、つまり部品の構成部材が薄肉になると、部品は変形しやすくなります。

その結果、製品全体の剛性が低下する問題に直面します。

 

製品の剛性が乗り心地や走行音に関係するとのことでした。

製品の固有振動値も設定数値以上との仕様が強調される状況に変わってきたのです。

エンジンやタイヤの静粛性が高まってきたことも背景にはありました。

 

単なる軽量化のみではなく、「剛性も維持できる薄肉化」。

こうした、律背反の技術課題に直面する場面が増えてきたことを思い出します。

軽量化を優先させて薄肉にすると、剛性が下がり固有振動値が下がる。

 

一方、剛性を優先させて厚肉設計すれば、剛性が上がり固有振動値も上がって強度テストにもパスしやすくなるが、軽量化目標は達成できない。

軽量化と剛性を両立させるのに、日々、うんうん唸っていました。

 

その中で、さらに、意匠性を高める特殊塗装へのニーズも高まってきました。

当時扱っていた部品は、もともと意匠性も求められていた部品です。

見た目も重視、ではあったものの、それまでは、よほどの特殊な用途でもない限り、特別な塗装を求められることはありませんでした。カスタマイズカー向け部品などです。

 

それが、標準仕様の車種でも、意匠性を高めるために特殊塗料が求められるように変わってきたのです。

塗装技術を担当する技術部隊が、技術開発を進めました。

 

軽量化ニーズ ⇒ 軽量化+高剛性ニーズ ⇒ 加えて特殊塗装

お客様が求めるニーズが変化してきました。

自動車を購入する最終顧客の嗜好が多様化すれば当然のことでした。

2. 機能競争では圧倒的な差別化技術がなければ儲かりにくい

さて、自動車部品では、材料費+加工費がベーシックな見積もりです。

だから、自動車メーカーは、使った材料費分は支払ってくれます。

この見積もりルールで軽量化を進めるとどうなるか……。

 

自動車部品を軽量化した分だけ材料費は低減され、単価は下がる。

そして、軽量化の加工費が従来対比で上昇すると、利益率が下がってしまう。

軽量化のために、加工技術を高度化する技術開発は、しばしばなされます。この場合、技術開発に要したコストを回収するのが難しくなるのです。

 

なんとも、報われない流れになる懸念がありました。

そこで、軽量化分のコスト削減分は折半する相談を、顧客へ持ちかけたこともあります。

こうして、軽量化の技術料をいただく相談をしたのです。

 

極めて革新的な技術であるならば、顧客もプレミアムを出しやすかったかもしれません。

部品重量が半分以下になるくらいの圧倒的な成果ならです。

 

一方、従来対比で5%、10%減程度の軽量化の場合はどうでしょうか。技術的な障壁は、高いかもしれません。

しかし、顧客にとって、その成果のインパクト度合いが、必ずしも大きいとは限りません。

したがって、技術料を価格へ反映したいものの、そう簡単にできることではないでしょう。

 

圧倒的な軽量化なら、技術料による価格アップも受け入れられ易かったかもしれません。

“圧倒的な”差別化技術なら、競合が絶対に達成できない成果を提供できるからです。

競合も頑張ります。

 

客観的に判断しやすい分だけ、ますます競争も激化していくのです。

その結果、ますます、技術料を価格へ反映させるのは難しい状況に陥ります。

客観性の高い仕様では、明らかに差別化された魅力がない限り、技術料を価格へ反映させるのは難しい。

 

供給者側は頑張っても、その頑張りを簡単に価格へは反映できないという、当然のことを実感しました。

「圧倒的な」差別化技術により、初めて、値付けの主導権を握れるということです。

3. 感性の商品と機能の商品

扱っていた部品に求められる仕様には、

定量的に評価される分野

がある一方で、

 

定性的に評価される分野

もありました。

特殊塗装技術等がそうでした。

 

見た目重視の特殊塗装を提案した場合の価格の相談は比較的しやすかったようです。

当然、価格がある一定範囲内にあることが前提ですが。

感性に訴えかける商品は、顧客のイメージに合えば商品価値の方が重視される傾向にあります。顧客も、価格には寛容であることが多いと感じました。

 

一方で、仕様が数値でクリアに示されている商品は、違います。

圧倒的な成果がなければ、価格がシビアに問われる傾向があるのです。

機能のみが売りの商品では、顧客に選んでもらうことが難しくなります。その機能が、圧倒的に、他社品と差別化されていなければならないからです。

 

少々良くて高い品物と、若干劣るけど安い品物。どちらが選ばれるでしょうか、ということが問われてしまいます。

この水準では、技術を競っているのではなく、価格を競っているのと同じです。

こうした傾向があることも理解して、技術開発を進めることが大切です。

4. 技術開発の長期計画を見える化する

競合との軽量化競争をきっかけに、新しい生産技術の開発に取り組みました。

一方で、対象製品に求められる価値(顧客価値)は変化することも経験しました。

 

1. 顧客ニーズに対応する従来技術の限界が見えてきた

2. その結果、競合との技術競争が激しくなった

3. 新たな技術の開発を進めた

4. 新たな技術を開発した結果、異なる技術ニーズが新技術の制約になった

5. 加えて、感性に訴える仕様が求められる機会が増えてきた

 

扱っていた部品は、重要保安部品でもあり、機能重視でしたが。

最終顧客の「コト」に訴える仕様も、求められるようになっていた、ということに気付きます。

機能一辺倒の技術開発で、待っているのは価格競争です。「モノ」だけでの勝負は、そうした状況に陥りやすくなります。

 

求められている機能が客観的で、数値で表現されやすいほどこうした傾向が強いです。

こうした場合、“圧倒的な”差別化技術があって初めて、収益が確保されます。

競合との「ドングリの背比べ技術競争」では価格競争と同じような状況に陥いります。レッドオーシャンでの体力勝負に陥ってしまうのです。

 

一方、お客様が気が付いていない潜在的なニーズ、コトに着目します。

感性に訴えかける商品は、独自性を表現しやすいです。

モノづくり+サービスの組み合わせで、独自性を発揮できるならば模倣困難性が高まります。優位性を維持しやすくなるのです。

 

つまり、儲かりやすくなります。ですから、中小製造企業での技術開発では、開発ターゲットを明確にすることが不可欠です。

技術開発は、もっとも貴重な経営資源である“時間”を必要とするからです。

以下のことが大切です。

 

1)コア技術に経営資源を集中させつつ応用性のある技術開発を進める

2)機能性で競合との差別化を図るならな、“圧倒的な”水準を目指し、中途半端ならヤメル

3)最終顧客に提供するコトに関連した技術開発を進める

4)技術開発の長期計画を見える化し、技術開発の方向性を明らかにする

 

貴社の技術水準を把握し、技術開発の長期的な方向性を見える化するのは、絶対に必要です。

機能面であれ、感性面であれ、求められる仕様は変化します。顧客要望の多様化です。

常に顧客要望の変化をチェックします。必要に応じて、技術開発の方向性を修正・変更する必要があるからです。

 

機能面に加えて、感性やその他の価値を加える技術・製品開発の仕組みを作りませんか?

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)