意図せぬ仕掛在庫品が増えてしまう2つの理由

意図せぬ仕掛在庫品が増えてしまう2つの理由

仕掛品を減らすには生産リードタイムを短縮させることを目的にするのがイイ、という話です。

今日、工場の現場にある仕掛品の種類と数を把握していますか?

意図しないで置かれる仕掛品を減らします。

 

こうした仕掛品が発生するのは、

1)作業指示を出す担当者が各工程の生産能力を把握していない。

2)工場全体を管理する担当者が不在で現品管理がなされていない。

 

要するに仕組みがなくて、現場に丸投げしているからです。

1.生産リードタイムの方に注目する理由

工場の全体最適化を考える時は生産リードタイムに注目します。

工場経営で持つべきイメージのひとつに「流れ」があります。

製品が滞りなく流れていくイメージです。

 

投入した資金を一日でも早く、現金として回収したいからです。

当然、生産性も重要な指標です。

現場へ投入された経営資源の効率性を示しており、利益に直結した数字ですから、常に監視しなければなりません。

 

ただ、意外とその数値の変化には気が付きやすいです。

指標が悪化した時は、各工程での工程内におけるトラブルが原因になっている場合が多く、トラブル発生 ⇒ 生産性悪化という流れで指標の変化を認識しやすい。

また、生産ラインを構成している生産設備も今では、多くが自動化されていて、一昔前までの労働集約な雰囲気はないからです。

 

つまり、各工程の生産性はその工程の生産設備の性能で左右されることが多くなっています。

ですから、自動サイクル運転開始ボタンを押してしまえば、ほとんど設定された生産性で仕事を終えてくれます。

組立工程は、元来、属人的な要素が多く生産性の変動、あるいは個人差が発生しやすい工程でしたが、今ではこうした工程にもロボットの導入が進み、人間とロボットが協働する時代になりつつあります。

 

技術で生産性がステップアップしたということです。

したがって、生産性はある程度、生産設備に任せられます。

(逆に言うと、生産設備を新たに現場へ導入する時は、生産性に関する検討を十分にしないといけません。

ボトルネック工程になってしまっても、その設備を使っているうちはどうしようもなくなるからです)

 

以上のような背景もあり、生産性については人間はそれほど頑張らなくても、幸いに機械がなんとかしてくれる時代になったということです。

生産性の重要性が、リードタイムよりも低いということではありません。

 

一方、生産性に比べて生産リードタイムは影響を受ける要因が多く、生産ラインの構成上、その要因が属人的であることが多いです。

これが、生産リードタイムの方に注目する理由です。

2.「仕掛品」へ焦点をあてるために生産リードタイムに注目

中小企業のモノづくり現場の多くは機能別に生産設備を並べていると思います。

工場の入り口から出口まで、つながった一貫ラインを有する中小のモノづくり工場は少ないでしょう。

中小企業の柔軟性や機動性を生かし、多品種少量生産で独自性を発揮しようと目論んだら、概ねレイアウトは機能別になります。

 

一貫ラインは大量生産による固定費回収作戦を採用する大手企業の手法です。

小回り性を活かすなら機能別がベースとなります。

ただし、この設備レイアウトを上手く機能させようと思ったら、注意しなければならない点があります。

 

それは、工程と工程の間に置かれる「仕掛品」をしっかり追っかけるということです。

工程と工程のつなぎに相当する領域におかれる「仕掛品」。

この扱いをルール化していますか?

 

追っかける仕組みがありますか?

工程と工程の間にあるために、どうしても責任の所在が不明確になりやすいです。

仕掛品が滞留していると、当然、リードタイムが長くなります。

 

そして、その滞留仕掛品は、誰かが動かさない限りはそのままです。

納期が迫っていて次工程で必要な状況ならば、すぐに移動されますが、納期に若干でも余裕があるとなると、当面、そこに放置です。

設備自動化による生産性向上とは異なり、大部分が人の運搬によって解決される属人的な要素がプンプンするテーマです。

 

工程と工程の間にある「仕掛品」へ焦点を当てるために生産リードタイムに注目します。

付加価値の高度化に貢献する可能性が高い「超短納期化」へ影響を及ぼす指標でもあります。

3.工程と工程の間に「仕掛品」が置かれる理由

なぜ、「仕掛品」が置かれるのでしょう。

・意図を持って仕掛品を置くケース

・意図せずに仕掛品を置くケース

 

この2つのケースに分けて理由を整理します。

 

3-1意図して仕掛品を置くケース

・生産する場所が異なるので移動や倉庫での保管によって生じる。

たとえば、工程間がコンベアで結ばれている生産ラインで、コンベア上にある仕掛品のことです。

これは、ライン構成上、生産活動をするうえでは避けられない仕掛品です。

 

・上流工程の影響を下流工程が受けないようにするため置かれる仕掛品

上流工程でトラブルが発生したために、下流工程がストップする状況を避けるため置かれる仕掛品。

こうした、仕掛品は突発受注への対応も可能にします。

 

3-2意図せず仕掛品を置くケース

・生産計画どおり自工程が完了し、次工程へワークを移動させようとするが、次工程が受け入れ状況になっていないから置かれる仕掛品。

・生産計画より自発的に前倒しで自工程を完了させ、置くところがないので、一時的回避的に置かれる仕掛。

意図せず置かれる仕掛品が発生する理由は様々ありますが、2つに収れんします。

 

1)作業指示を出す担当者が各工程の生産能力を把握していない。

2)工場全体を管理する担当者が不在で、現品管理がなされていない。

要するに仕組みがなくて、現場に丸投げしているからです。

4.仕掛品を極限まで減らす取り組み

仕掛品を減らせれば、下記のような成果を手にできます。

 

1)運転資金が圧縮される。

2)工場スペースが確保できる。

3)現場の連携による一体感が生まれる。

4)5Sが進み維持され易くなる。

5)物流が向上するので管理の手間が減る。

6)スッキリした現場は見学したお客様に安心感を与える。

 

色々あります。

仕掛品がなくて整然とワークが流れている生産現場を一度肌で感じてみると理解できますが、工場をスッキリさせることの波及効果は大きいです。

是非、工場一体となって計画的に取り組みたいテーマのひとつです。

 

仕掛品を減らす、と言う視点よりは、生産リードタイムを短縮するという視点で取り組むのがイイと考えています。

生産リードタイムを短くすることで、結果的に仕掛品が減ったという感じです。

納期に間に合わせることと、生産リードタイムを順守して生産することは違うからです。

 

納期を守るだけならば、必ずしも仕掛品を減らす必要がないからです。

取り組みの目的意識と言う点で、仕掛品を減らす場合、仕掛品自体の削減ではなく、生産リードタイムの短縮への方へ、焦点を当てた方がイイと思います。

そして、仕掛品を極限まで減らす取り組みを開始するにあたっては、まず、「意図して置く仕掛品」の種類と数量を、経営者が明確にすることが大切です。

 

仕掛品に限らず、原料や製品も含めた在庫品は、必ずしも存在自体が悪いわけではありません。

意図せずに発生させて、放置されることが問題です。

経営者の考えに基づいて、意図して置かれるならばイイわけです。

 

経営者の想いを、現場へ伝えることも欠かせません。

理解して納得した現場は、経営者の想いを実現させようと動きます。

これが戦略的な工場運営です。

まとめ。

意図しないで置かれる仕掛品を減らす。

こうした仕掛品が発生するのは、

 

1)作業指示を出す担当者が各工程の生産能力を把握していない。

2)工場全体を管理する担当者が不在で、現品管理がなされていない。

要するに仕組みがなくて、現場に丸投げしているからである。

 

仕掛品を減らすには、生産リードタイムを短縮させることを目的にする。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)