情報のトリガーとチェック機能で仕組みをつくる

情報のトリガーとチェック機能で仕組みをつくる

1.仕組みがなければ工場経営は絶対にできない

戦略的な視点に立った工場経営や工場運営ではいろいろな活動が展開されています。足元のキャッシュを稼ぐための日常的な業務として、生産管理や原価管理、品質管理や安全管理、人的資源管理等のPDCAサイクルが廻されます。

日常的な活動に加えて、将来を見据え革新的な進化のための将来投資も行われます。日常業務の延長線上にはない、カイゼン、イノベーションといった活動です。

両者の活動は、車の両輪のようなものです。工場の存続と成長のためには、両者をバランスよく回さなければなりません。

この時に不可欠なのが仕組みです。言い換えると客観的な、定量的な判断基準であり評価基準です。こうした指標を手にすることで、戦略的な視点に立った工場経営が実現します。

工場経営では、絶対に仕組みが必要です。仕組みがなければ、工場経営は絶対にできません。現場のやる気も引き出せません。

2.仕組みを共有すべき情報から考える

仕組みは、現場に容易に定着するものではありません。試行錯誤、トライ&エラーを繰り返し、その工場現場独自のモノに仕上げるものです。

工場運営では、さまざまな分野の活動が繰り広げられています。

既に自社工場内で判断基準や指標が機能している場合は、強化したい分野に焦点を当てます。判断基準や指標に沿って、新たに追加する判断基準や指標を検討します。

また、新たな仕組みを工場に構築する場合、まず分野を固定せずに生産活動で必要な情報項目を考えます。

生産管理のことでも品質管理のことでも安全のことでも人財育成のことでも、分野にとらわれず頭に浮かぶ情報項目を挙げる。そして、共有すべき情報を整理します。

 

1.仕事を上手く進めるために役に立つ情報を列記する。

2.情報ごとに下記の5つを整理する。

①その情報を発信する工程
②その情報を受信する工程
③その情報の発信納期
④情報共有するための手段
⑤共有された情報のメンテナンス方法

 

仕組みを考える時には、「共有すべき情報」という視点から考えます。

さらに、仕組みには経営者の“意図”を仕掛ける必要があります。経営者の考えをドンドン取り込みます。

 

たとえば、下記の情報の共有化は現場の動機付けに効果的です。

1)経営者が現場を巡視した時に見つけた、その工程で良かった項目

2)経営者の激励、アドバイス

 

工場の仕組みは経営者の考え方が反映されるので、組織文化や組織風土へ影響します。仕事のやり方がその会社、工場の思考パターンを決めるからです。

そしてその会社、工場で仕事のやり方を決めるのは、経営者です。

3.フロー情報とストック情報

情報にはフローとストックの2つの性質があります。ですから、上記で挙げられた情報もどちらかに分類できます。

フロー情報について

ワークを納期通りに指定された工程に従って流すことが、現場の主な仕事です。したがって生産指示、つまりフロー情報を取り扱うことが多いです。

フロー情報の目的は必要とする受信者へ正確に伝えることにあります。そして、伝えるべき相手にタイムリーに伝達されることが重要です。

仕組みがないと、情報伝達に要する工数が無駄に大きくなります。情報発信担当者はその都度、情報の受信担当者を探しては口頭伝達しなければならないからです。

情報を効果的に共有する手段を新たに導入すれば、そうしたコストが削減されます。新たな手段としては現場の掲示板やPC、携帯端末等さまざまな選択肢があります。

ストック情報について

ストック情報は判断基準や評価基準、指標を決めるために必要な情報です。

そして、ストック情報の目的は比較することにあります。生産に要する所要工数や費用、不良率等に絶対的な数値は存在しません。その工場独自のモノです。

ですから工数削減、生産性向上、不良率低減などのカイゼンを推進する際には相対比較するための基準の数値が必要です。

ストック情報は、相対比較する基準の数値を決めるのに活用されます。

 

したがって、ストック情報は絶え間なく正確にデータを積み上げ続ける必要があります。蓄積された数値と比較することで初めて現状を把握でき、将来の目標を設定できるようになるからです。

継続的に現場から情報を収集しメンテナンスする役割が生じることも留意すべき点です。情報はいつも使える形で整備されていなければ無用の長物となります。

こうした地道な蓄積を実行することで、独自のデータベースの構築が始まります。自社工場の将来を考えるために欠かせない貴重な情報的経営資源です。

4.フロー情報とストック情報の生かし方

仕組みを考える時は、共有すべき情報のフローとストックに注目します。

つまるところ、仕組みの機能は下記の2つに集約されます。

 

A.新たな情報を効率的に伝え、生産活動のトリガーとする(フロー)

B.工場の生産活動を反映した指標を蓄積し続け、現状をチェックする(ストック)

 

トリガーとチェックの機能を十分に発揮できる仕組みを構築します。

 

まずは、自社の工場に適用して考えます。仕組みを持つと現場の“今”を把握できます。そして、仕組みの構築はイノベーションやカイゼンの取り組みを始めるキッカケとなります。取り組みを始めるにあたって欠かせないことは現状把握だからです。

さらに、現状が正確に把握できてこそ将来の望ましい姿も描きやすくなります。比較する基準がはっきりするので、強みや弱みが見えてきます。

逆に言うと、工場に仕組みがなければカイゼンやイノベーションは絶対に成功しません。

5.中小企業ではカイゼンやイノベーションがなかなか進まない

カイゼンやイノベーションがモノづくり工場にとって不可欠であることは、経営者の方は理解されているはすです。ところが、カイゼンやイノベーションがなかなか進まないという悩みを抱えている経営者が多いというのも事実です。

下記は、イノベーションを実現した企業の割合を示しています。2014年3月に文部科学省科学技術・学術政策研究所が報告した「第3回全国イノベーション調査」の結果です。(出典:2015年版中小企業白書)

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7,034社からの回答に基づくグラフです。イノベーションを4つに分類し、それぞれでイノベーションを実現した企業の割合をまとめています。

 

この数字を眺めて、どう感じますか?

大企業でもせいぜい3割~5割の企業が実現しているのみです。経営資源が比較的潤滑にあると思われる大企業でこの割合です。

中小企業でカイゼンやイノベーションがなかなか進まないという状況、またなかなか成果が出ないと悩んでいる経営者が多いという状況、これは特別なことではなく大手企業でもフツーに直面している状況ということです。

それだけ、イノベーション達成の壁は高い。

ハードルが高いこそ得られる成果は大きく、飛躍の機会となるわけです。日常業務の延長にはない、ということを改めて理解しておきたいです。

自社工場に仕組みを構築する。ここから開始です。まず、一歩目を踏み出しましょう。

全てはカイゼンやイノベーションを成功させるためです。

まとめ

仕組みを構築する時は、共有すべき情報に注目し《トリガー》と《チェック》の機能を生かす。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)