性善説と性悪説の使い分けができないようでは、人づくりはムリ!

性善説と性悪説の使い分けができないようでは、人づくりはムリ!

下表に違いを示しますが、部下育成に関する多くの指導書や研修の大半は性善説です。

人間は生まれながらに善というY理論に基づく方式ですが、この考え方は日本で生まれた小集団活動を大きく進めた考え方です。

「しかし、現場管理の場で、全てが性善説だけで取り仕切れるのでしょうか?」という話が、ある時、製造現場を集めた研修会で出ました。

 

この時の講師はSさんです。

なお、討論内容は「バブルの頃に雇った若者にやる気を起こさせるにはどのようにすべきか?」という課題でした。

現在なら「ゆとり教育を経た現在の若者にどのように現場管理者が対処すべきか?」という内容になりますが、この内容の要点は、ご本人の職業観と適正に関する内容ですが、結論が出ない状況で討論が行き詰まり、「講師に一言、コメントを!」となり、Sさんの体験談となったわけでした。

 

そこでの話ですが、「その方はもう、やる気を指導される程幼くないのではないですか?」

「入社5年を経過しています」

「そうですか。では、若いうちに会社を変わっていただき、他に良い仕事がないか? 検討をお勧めするのも一手ですね!」という応えで、この話は「やはり、それしかないか!」となったそうです。

以下、その後の話もあったので紹介することにします。

 

▼X理論とY理論(仮説)の差異

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Sさんがこのように答えると、「私たちの経験ですが、今まで講師をされた先生に同じ質問をしてきました。しかし悩むだけ、そのような答えはしなかった。

なぜ、Sさんはそう考えるのですか? その理由をお話ください。

我々は『どのような条件下にあっても、製造課長が誠意を尽くして、本人のやる気を引き出す。これが、管理者の活動です』と教えられてきたためです。しかし、今回のS先生の答えは違います」

 

「では、私の話をお聞き下さい。

今、“窓際族”という言葉が産業界では一般用語になっています。ウインドーズ2010という言葉をご存じですか?」

「XPやビスタではないのですか? セブンは近く出るそうですが?」

「いや、コンピューターソフトではありません。2010年型窓際族のことです。ちなみに、昨年は1999年型窓際族だったのですが……」

 

「なんだ、そうかいうことか! ハッハッ……」

「これは、笑い事ではない事象です。ある意味、仕事で成功しないで窓際へ追いやられる環境になった理由の中には、確かに会社の責任があるかもしれません。

しかし、多くの方は仕事で失敗しても、再度の挑戦を図り脱皮してきました。これに対し、窓際族の方の活動は違います。

 

①言わず(新たなテーマや企画を出さない)

②語らず(本当に良い企画やアイデアがあっても、失敗や非難を恐れ、上司や仲間に話さず、何もしない)

③仕事せず(冒険はしないで責任がかからない範囲で最小の仕事をする)

 

という方針で活動するからです。

この“3せず”を繰り返しているうちに、若いうちに適職を見つける努力を忘れ、やがて企業内で歳をとり、現在の企業の活動からは離れてゆく(離れ小島に位置する)人になってしまう例です。

対策の基本はご本人の努力が訪れるチャンスを生かすか否か? が大半を決めます。

 

従って、先に皆様が対象とされた若手の方の扱いに対しては、ご本人が将来における自分の存在や役割、仕事の貢献度や位置づけをはっきりさせ、ご自身でその対策を進めることが基本となります。

このように考えると現場管理者の仕事はこのような方の支援という位置づけになります。

昔は終身雇用、しかも、転職すれば給与は下がりました。どんな優秀な方でも、中途採用の方は大変にご苦労されました。

 

しかし、現在は職業を自由に選べる時代です。

そうなると、窓際族になる前に、テーマや仕事はご自身で見つける。見つけられないうちは、会社と自分に価値ある仕事を中心に最大の努力を進めることが脱出策となります。

要は、ご本人が主体的に活動する。何らかのやる気の活動がなければ、周りの方も支援できないというわけです。

 

こう考えると、適職? はご本人が若い内に判断すべき対処になります。また、これが、昨今の“自己責任”を意味します。

成功も失敗も自分の糧とする勇気ある活動が、まず基本にあって、ご本人のお仕事の成功や目標の達成に、周りや上司の支援が作用するのではないでしょうか?

この種の対策は、適職探求を自己責任で意欲的に進めるか否かが大きく将来を決めることになります。

 

現在、転職も認知される時代です。このため、インターネットにも多くのサイトが用意されている状況です。

そこで、先のバブル時代に企業入社をされた方ですが、バブルの時代には、確かに多くの企業で多くの方々を雇用したために、指導が至らなかった反省は企業側にあるかもしれません。

しかし、企業でこの方の仕事の仕方が問題になっているのであれば、この方自身が自分の問題に自分で早く気づくことが重要です。

 

もし、その方の感度が鈍い場合には、ご本人に気づかせる環境や、直接、上司からその方に話をしてあげないと、適職を探すチャンスすら失うかもしれません。

なお、現在は不況です。新人が血眼になって就職を探していますが、就職口がなかなか無いわけです。

これも、その理由が似ています。企業の収益悪化という理由(人件費負担を支えきれないという理由)に加え、過去、会社に入ってから能力を鍛えてもらう方式を採ってきました。

 

しかし、企業によって、『この方式により時間をかけて人材育成をしていては、アウトプットが出るまで待てない』という事情もあるわけです。

『学生時代にあっても、このような企業環境を早く察知して、対象にしたい仕事を選び、十分な調査や研究をして、即戦力になる力量を発揮する努力と共に、その売り込みができなければ、就職口は見つからない時代』であることを学生時代から知って、行動すべき時代になりました。

企業としては、中途採用で戦力になる方がいれば、契約社員の形でそちらへ仕事を依頼するわけです。

 

新入社員として入社された方も、短期間で企業の戦力にならなければ失業です。契約社員の方々との競争に常にさらされます。

従って、単に学校の成績さえ良ければどこか良い会社に就職が自動的にできるという時代ではなくなったわけです。

若手のホープとされる新入社員といえども、何もできなければ、企業の中では就職難民(流民)的な存在や、やがては早期リストラ対象になる危険にさらされている時代になっていることを理解すべきです。

 

学生時代に『競争は悪!』のように教えられてきたのかもしれません。しかしそれは、学校やその方のご家庭を含め、社会勉強の不足です。

この種の問題はテレビや新聞で常に報じられていることを知るならば、『自分だけは特別』ということはあり得ないわけです。

厳しいが、確かに今はその時代です。

 

若い方に温情や保護は大切です。

しかし、過保護で出来損なった人をベビーシッターのように面倒みるほど、今の企業は暇ではないはずです。

それより2:6:2の原則にあるように、やる気のある方に力を注ぎ、やる気の薄い連中には早く気づきを持ってもらい、自己努力で職場の方針と行くべき方向に向かってもらうほうが、指導や援助はずっと楽になるはずです」

 

「そうでしょ! もし、目の前に会社としてやらなければいけない仕事がある。

しかし、問題児とは言いませんが、この種の方に、やる気を起こさせてから支援しながら仕事をしていただくより、それ以外の方、『やりたい』といって意欲的な方、また、少ない指導や支援でその仕事をやっていただける方がいれば、当然、現場管理者としては、そちらへ仕事を回して行くのではないでしょうか?

なお、代理的な仕事を受けた方は野球のピンチヒッターのようなものです。その仕事を適職と考えて、更なる才能発揮の場に自分で育てて行くべきです。

 

また、そうこうするうちに、正選手の位置を奪うことだってあります。

こう考えると、『個人的、また、企業内の自然原理とは、重要な仕事は意欲的にチャレンジし、成果が確実に出る方に集まる!』ということになります。

また、仕事ができる方に仕事を差し向けて行くという選択は、現場管理者が行う自然の行為であって、その集団や企業、ご本人にも、決して両者に損得がない仕事の進め方であるように思います」

 

「なるほど、自分たちは意識的、また、自然に、ほとんどの場合そうしてきました」

「そうですよね。こう考えると、企業内では弱者救済を主体とした性善説の活用の範囲は少ない。

それより、早くこのような企業環境を、仕事がプアーな方に気がついていただき、自分からやる気を起こしていただくまで努力することが重要になるはずです。

 

このため、言い方は申し訳ないのですが、ある種、やっかい者に近い方を承知で雇い、つきっきりで援助する、というケースはたまにあったとしても、その種の対象者を職場に留めておくケースはごく少なくなり、むしろ、この方に代わる、やる気があり成果も出す人の探索に関係者は努力していくのではないでしょうか?

やる気のない方のお考えの中には、甘えや不満があり、それを解決すればご本人の仕事の仕方が変わる! という要素が残っているのかもしれません。

しかし、明らかにご本人には向かない、気にいらない仕事を続けていただくことや、たとえ教育してもアウトプットが貧弱、やがては窓際候補生! では、ご本人にとっては、仕事とのミスマッチをしているわけなので、いつまでも花を咲かせることは難しい状況です。

 

こう考えると、その仕事に留めて努力願うこと自体、気の毒なのではないでしょうか?

そこで、『それでもあなたは、その方を会社に留めておいて、管理者としてその方の将来の責任がもてますか?』という質問になるわけですが、私は、本来、ご本人しか自分の人生の責任を持てないように思うので、このような方とは真剣に転職の話を進めます」

「いや、冷静に考えれば講師の言う通りだ!」

 

「もし、そういう事情で生産を続けるとしたら、両者とも不幸なことになりそうだ」

「そうでしょ! もし、皆様が製造現場でこのような集団を管理してゆかなければならない条件があるのであれば、モノづくりの根本から検討し直さなければならないことになるのではないでしょうか? 現場管理者の責務に『責任は免れない』という内容があります。

もし、この状況に陥った場合、トップや仲間から助けを借りない限り、現場の責務はいくら現場管理者が自ら応援要員の形で現場に入って仕事して対面を保っても限界をきたすはずです」

 

「まさにそうです。……S先生、お話の内容は一見厳しいが、ごく然の内容です。しかし、そのように割り切ったお考え、どこで学んだのですか?」

「私のこのような話は、米国における体験から苦肉の策としてあみ出した方式です。

私の企業時代の体験ですが、A社に雇った管理者の方、人柄も当たりも良いのですが仕事ができない方でした。

 

『やる!』と約束はするのですが、問題は抱えたまま。問題を一人で抱えたあげく、結局はできない状況です。

そうすると、そのことにサゼッションをしようものなら、感情的になる。できないのなら、部下を入れて検討したり、日本人の管理者に相談を掛ければ良いのですがプライドが許さないわけです。

結局、まわりも手伝ってあげることができない状況で日が過ぎていったのですが、こうなると、工場の活動は麻痺状態になります。

 

このため、結局は社長が決定して、会社を退職願いました。その後、その社の社長の最終判断で、早抜きの管理者をトップにしました。

この新しい管理者の方は、前の方とは行動が全く違っていました。才能を伸ばされたわけですが、自分でできない問題は関係者に投げかけます。

従って、問題解決は早く、工場も見違える程良くなっていきました。収益、品質、納期ばかりでなく、改善や気風が大きく変わりました。

 

今度は、私の部下の話です。この方には手を焼きました。

工程管理の仕事だったのですが、この方、派手なことは好きだが、時に、無理にでも生産しないと出荷ができないような時、時には現場に頭を下げても生産をお願いする。

あるいは、極端な言い方をすると、喧嘩をして押しつけても、現場ではやるべき仕事をやっていただく、ということがあります。要は、命令して仕事をさせる、といったたぐいの仕事です。

 

しかし、これが嫌なのです。ハッピーでカッコが良いことだけをやりたいわけです。

だが企業ではそれは許されない。このため私としては、山本五十六さんではありませんが、やって見せ、やらせて、ほめて、教えるわけです。

しかし、時が経つと、後戻りしてしまうわけでした。このため、私の教える努力はやがて限界に達しました。

 

そこで、彼には次のように話しました。

『君には、君に向くもっと良い仕事が社内にあるはずだと思う。あと、3カ月会社にいて良い。給与は支払う。

他の職場で十分に君の能力が発揮できる仕事と、その進め方について、良い案を提案してくれないか?

 

今までの仕事は、私が行う。仕事は今日からはしなくて良い。

しかし、もし3カ月経過しても、良い提案がなければ、他の企業で君に合う仕事を見つけて欲しい。なお、部屋は別室にする』と言って、社内に設けられた2階の別室に移っていただきました。

この部の存在は我が社にいる方なら誰でも知っています。部屋は従業員から完全に隔離されています。

 

出入り口は従業員とは全く別、対策案ができた場合に電話で連絡を取れる程度の部屋で、従業員とは全く交流もできない部屋です。

これが、米国流のファイヤー(首切り)だったので、私も、最終的に、彼に対しこのシステムを使いました。

当然のことですが、事前に業務改善の指導や注意、提案を求め、改善や能力の限界を知ってもらってからの宣告です。

 

また、この話を切りだす以前から、後日、裁判などでもめないように本人の行動は記録し、仕事の評価や結果、態度と共に記録しておきます。

会社側に否はない環境を保ってきた実情を準備するわけです。従って、後は本人の復帰努力だけが残ります。

しかし、その努力で会社の中にポストが無ければ、他の仕事に就く準備を願うわけです。

 

このように話をすると、『首切りの手段を解説している』というように誤解される方がおられるかもしれません。

このようなシステムは全従業員に公開されています。

企業へ就職後に、ある程度の指導を済ませた後、採用した方の仕事の適正、実力の評価を行うわけですが、全く仕事基準に満たない方は、仕事がご本人に合っていないわけですから、会社に留まること自体が不幸という扱いです。

 

このため、変更可能な時期に、他へ移るチャンスを企業としてご本人に与え、窓際族を企業で抱えないという、ある意味親切なシステムなのです。

日本企業の方が、このシステムをご覧になると「厳しい!」と考えるでしょう。

私も日本人なので最初はそう思いました。

 

しかし、現実に自分の部下が、生産管理という職に全く不向きである現実に直面すると、このシステムの存在に感謝したわけでした。

このシステム、米国の一流企業では常識的に行われている制度ですが、逆にこのような国ですから、ご本人から、退職や配転を提案してくるケースが多い状況です。

能力を伸ばせれば給与アップと自己育成になるからです。

 

従って、『優秀な方は3年程度で、“他社へ移りたい!”という宣言をする』と言われます。

このため、優秀な方が他社へ引き抜かれない監視も工場経験者の仕事のひとつになっています。

『仕事ができる。そこで給与の昇給要求か? 昇進をしてくるわけですが、これが、今いる会社で認められなければ、自分を認めてくれる企業へ移る』というわけです。

 

移る会社はライバル企業であっても良いわけです。本人から昇給や昇格の申請の話が来た時には、既に、候補として挙げている企業と交渉が進みつつあると考えるべきです。

事実、筆者は、この種の転職を多数見てきました。この内容は、ある意味で、日本で見るサッカーや野球の選手がチームを出て他球団やチームへ移る行動に似ています。

これに似たシステムが、米国では、多くの企業の中で制度として運用されているわけです。

 

このように考えると、『今働く企業の中で、自分に合った仕事が全くない場合に会社を辞めていただくということは、ご本人だけでなく、会社と双方に取って意味を持つ対策のひとつである』と私は考えます。

長年、企業の中で才能を伸ばせず、老齢化された場合を“飼い殺し”というそうです。これは背筋が寒くなる言葉です。

このようなことは決して企業の中にあってはならない事象です。このような方には、もしそうなったら、早く適職に向けた行動を採り、自己の才能を伸ばし、人生の夢を実現してゆく“転職”という策を採るべきです。

 

『もし、その種のチャンスを、若いうちに本人に与えないとしたら、それは、その企業の関係者が罪を犯しているのと同じではないでしょうか?』と私は思うわけです。

このように考えると、仕事のアウトプット、可能性やご本人の努力、行く先を見て退職願うことは、ご本人にも、“残酷な仕打ち”ということにならないように思います。

会社が困窮し、不況の時にリストラされ、他社では仕事が探せない人をつくりご本人を追い込むより、日頃から企業の場を利用して才能を伸ばし、いつでも、どこへ行っても能力が買われ、実力を発揮する人をつくる! このことの方が実力主義の時代には適合した対処となるはずです」

 

「なるほどね! 言われて見れば、その方が自然ですね! 性善説より性悪説的な対応の方が、時には人を真剣にさせ、問題があった場合や仕事に対する姿勢までを、その方に自主的に考えていただくことになるわけか?」

「そうですね、周りが、やる気も適正も無い方に対して親切に対応を考えることは、時には、“要らぬ親切”になっていることもあるわけです。

 

対象は違いますが、最近の老人介護に、『過保護政策の誤りである』という形で、先般ある放送局で特集番組の放送がありました。

見ていると、『よけいな親切が寝たきり老人』を生むという内容でした。寝かせている方が病院のスタッフとしては楽で、本人にも一見、楽に見えます。

このため、ご本人にリハビリを強いるのは過酷な対策としてしまいます。

 

しかし、『リハビリは嘘をつかないという法則があり、病院スタッフもご本人もリハビリで回復の山を越える努力こそ選ぶべき道です』として、実施の結果、リハビリを克服した人は、寝たきりにならず、自ら生活してハリのある人生を過せるようになるというものでした。

正に親切が仇、リハビリの価値を教えることが重要! という話です」

 

「なるほど、若くて窓際族候補になりそうな人には、厳しいが、リハビリ対策の要求をすべき、というわけか? そして、米国の一流企業の場合、それが制度にまでなっているわけか? 人を見て対応だが、これは、私たちが持つ職場の人づくりに、一つの方式として取り入れる内容ということになるな!」という話で、このSさんを交えた討論は終了したわけでした。

その後、各社に入った、バブル時代に大量入社した方々の扱いがどのようになったかは不明です。

しかし、この研修では、Sさんの話を聞いた現場管理者は顔を明るくされ、満足といった感想を得て研修は終わったそうです。

 

多分、ご本人と会社に、有効な話だったためと思います。

逆に、この話を筆者がお聞きした時、もしある方が企業内で、この種の問題や環境を抱え、定年までこの話が持ち越しされたら? と考えると背筋が寒くなる状況であると思い、ここに紹介することにしました。

 

コメント

ここで、米国GE社の前会長・ウエルチ氏が行ったシックス・シグマにおける取り組みと成果について紹介することにします。

ウエルチ氏が大きくGE社を変貌させた成果と取り組みは多くの著者に記載されていますが、特に大きな仕事は、

 

①製造・販売の現場の方々と納得がいくまでタウンミーティングを行い、GEを改革する要件の整理と戦略決定後の合意とキーマン発掘〜育成につなげた

②1995年までは、リストラという言葉に代表されるように、不採算製品や2番手で他社と競合する製品を切り捨て、1番手の製品に集中し、顧客志向で小回りの効く組織に変革した

そして、

③ウエルチ氏によると、1995年以降の3年間はシックス・シグマだけでこの収益向上を果たした

としています。

 

シックス・シグマとは100万個に3.4個以下の不良実現を果たす目的で品質向上対策を図った対策です。

しかし、ここには性悪説の上手い活用がなされたことが紹介されてきました。

当然、この種の内容は従業員合意で定めた規則ですが、ウエルチ氏は「その徹底が意味をなした」とされています。

 

ちなみに、図の右下の枠に示された内容は次のようになります。

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1.新製品開発段階から科学的に不良ゼロ対策を図る

デザイン・イン対策の適用ですが、ウエルチ氏自体が「この種の規定は定めても研究開発部門は必ず手抜きをする」という性悪説に立ち、全て完全に内容を実施したテーマだけを了承するということをトップ監視下で実施した。

なお、「検査部門は検死官の仕事」として、ここで品質上の問題が発見される事態を厳しく管理した。

2.製造工程で管理限界を厳しく定め、守り、欠陥ゼロ生産を実現する

標準化の順守は問題発生の予防だが、「もし、担当部門長が管理する仕事の中、不良が後工程に流れ発見された場合、自動的にボーナスを40%カットする」。

この規定は製造部門長自らが現場を指揮・統制することにより、不良発生防止を促すが、万一、その種の性善説だけでは不良ゼロ生産はできないと考え、理由は聞かず、不良発生と共に、銀行自動引き落とし、ボーナス・カットをする仕組みとした内容であるが、これも性悪説の利用です。

3.徹底的な顧客重視の品質づくりに集中する

この種の言や規定はどこでもあるが、GE社は「シックス・シグマ運用中の失業率は5%に保つ」としました。

これまで自然退職は1.5%程度、しかも、3年もGE社に勤めれば他社に転職しても1.2倍以上の給与が取れる方々に対して、3.5%を、あえて選んで辞めさせる対象は「標準化の順守をしない方はテロに似た活動を社内で行う方に匹敵する。

GEに勤めたい人は常に殺到しているし、給与も高い。このような方は、入社を希望する方と入れ替える!」という対処です。

 

以上、性悪説を上手く使って成果を得た例を紹介したましが、先のSさんの説明同様、人と企業を伸ばし、顧客志向を実のあがる形態で進める対策の例として、読者の皆様には参考になれば幸いです。

 

追記:体験で知った“性悪説運用”

更に、Sさんのお話をお聞きし、筆者にも似た経験があったことを思い出したので、僭越ながら、追記の形で体験談を紹介することにします。

企業では多能化がまだそれ程、話題になっていなかった頃の体験談です。

伝統的な職場では、1つの仕事を10年以上続けてきたベテランを重視する職場でした。

 

その理由は、「もし、ベテランを他の職場へ配転して生産量低下や品質問題を起こした場合、企業に取って大きな損失となる」というものでした。

休暇をとる時には代役が応援せざるを得ない状況でした。過去、この工場でも多能化は進めてはいきました。

しかし、ベテランの85%程度の能力しか発揮できない状況であり、このような応援者に対し“便利屋”的な扱いをしていました。

 

さらに、器用なこの種の方々の給与は低い状況でした。

このような条件下で、筆者は、工場の管理者の端くれだったのですが、「当工場に限り、多能化のチャレンジに加わる方には給与査定制度を変える」
という提案をしました。

ベテランは企業にとっては必要。しかし、1職場1生はいくら何でも従業員に失礼と考えたわけです。これで高齢化の時代に入ったら、必ずノウハウの伝授が問題となります。

 

それなら、今から35歳の工場内定年制度を適用し、若いうちに異なる職場を体験していただき、2つ以上の仕事のベテランになっていただく制度を適用したい! と考えたわけです。

幸い、多能化が必要な局面にあったため、この提案は、すぐに受け入れられテストとしての実施となりました。

この種の対策は企業に制度が無いため、大議論になることが多い内容です。

 

しかし「テスト」とすると、「問題が起きたら、その時に対処すればよい」となり、実行に移しやすい条件を持っています。

また、3年も続け、効果があり問題も無ければ、会社の規則を変更する力があるため、筆者はこの方式を時々使ってきました。

万一、問題が生じたら基に戻し、別の案を適用すれば良いという内容が「やってみよう」となり、合意を得やすい方式です。

 

そこで、各種の人事評価などの制度上の改善施策を平行して進め、生産に障害ない対策を考えつつ進めました。

具体的実施に当たっては、多能化制度と共に多能化した方の給与は1カ所、ベテラン組みより高くしました。

また、この内容を、工場の全員に公表して、公募の形で多能化計画を進めたのですが、この対策は、その後に企業を襲った不況と共に効果が発揮しまし
た。

 

筆者達は不況の到来を予想していたわけではなかったのですが、製品ライフサイクル短命化の時代に間に合ったのです。

また、この多能化対策と共に、ノウハウの標準化が進みました。

1ケ所でベテランになっていた優秀な作業者の方々は他の職場でも才能を発揮されたからです。

 

このような成功があって、やがて、この制度は他工場にも広がり、全社的な制度となりました。

もうひとつ、話を追加します。この話は、現在のような企業支援活動を進める中で、ある企業から海外における技術者育成の相談に対応した話です。

相談の内容は、「雇った人が十分に機能を発揮しないので困る」とか、「優秀な人がやめてしまって、生産に支障をきたす」という問題でした。そこで、私の経験を基に、次のような答えをしました。

 

「まず、新人育成ですが、試雇制度をつくってはいかがでしょうか? 半年か1年、いずれでも良いと考えます。

ただし、教育はビデオを用いた内容が良いでしょう。設備は改善して技術習得が容易な方式をしておくことが大切です。

この対策は雇用の人数・人件費の低減だけでなく、教育期間の短縮や人材育成上で大切です。

 

でも、今回の話は人材教育と実力発揮の話ですから、技術達成の内容に応じて給与をスライドさせる。

また、試雇期間中に他の方々が定めたレベルを達成しないのでしたら、他社に移っていただく、適正がないことは本人にもわかります。

仕事の達成度は定量評価できる方式を運用すれば、ご本人には納得が行く形で計画は進むと考えます」と話すと、「なるほど、それは、多くの企業で今までなされてきたような、日本的な考え方ではないですね!」

 

「そうです。日本は終身雇用が前提です。しかし、海外では転職は普通です。

仕事の適正が合わないで、その会社で苦労するより、より適した仕事へ移り、適正を発揮して、給与や地位を高めることの方が納得を得やすい方式が運用されています。

こちら側も、その方に教育の限界を感じたら、無理をしないで本人と話しあわれる制度ですが、この制度の実施は極めて有効です。

ただ、現地文化の関係などから、この内容は現地の現場管理者を通し、現地の現場管理者の責務として行っていただくことが要点です」

 

「そうですか? 日本では適用できない方式も海外では当たり前、むしろ、現地文化や風土に合っているわけですか」

「そうです。ただし、日本的良さで、従業員の力量を伸ばす対策、人に温かく接するという伝統は忘れないでフル活用して下さい。

なお、今回の内容は首切りの手段を解説しているのではない、という点に注意をお願いいたします。我々の仕事はあくまで、人材を育成することに努力する奉仕事業的な内容を持つからです」

 

「適正がない方への対処をどうするか? という対処に限って、Y理論では対応できない内容の対策を説明したわけですから……」

「よくわかりました。相手は人ですから人間尊重の精神、従業員を大切にする一貫として行う考え方ですね!」

「その通りです」

 

「次に優秀な職場の方が辞めてしまう対策ですが、ご相談したいと思います。

何とか、企業につなぎ止めておきたい。しかし、他に給与の高いところがあると移ってしまう対策ですが?」

「そうですね、それも海外では大きな問題です。

 

給与をあげて残っていただく対策は人件費の負担を際限なく大きくしてしまうし、といっても、その方が会社をやめられては困るし、といった内容で困った問題です。

大体は教育を終え、これからという頃になると、この問題が起きてきます。困った問題です。辞めることは止められないし……」

「そうです」

 

「私も、その問題に直面したことがあります。当初は悩みました。

しかし、説得しても会社を辞めるわけですから、むしろ、辞めることを前提に1名程度余力を持ち雇う方が人件費の低減につながることがわかりました。

悔しいのですが、当社は現地における人材育成センター的な役目となりました。

 

公開はしませんが『他社からの引き抜き自由、いつでも引き抜け、しかし、技術は高いが人件費は高くしないぞ』ということの覚悟を決めての対応です。

特に、設備の保全業務のような仕事は引き抜かれるケースが高い状況ですね!

人的にはこのような対策を人材育成戦略とします。

 

そうは言っても、当方の教育費用は最小にしたい! となると、故障の低減のための点検整備を現場部門へ分散する策が必要になります。

これは私の体験、苦肉の策と共に生んだ方法ですが、では、具体的手段を紹介することにします。

この話には、企業のノウハウ流出が含まれます」

 

「設備のトラブル・シューティングを早めるために、この種の問題対策には、コピーマシンで行っているように故障対策の標準化をします。

コピーマシンのトラブル対策は実によくできています。

故障が起きるとセンサーの信号を用いて、人に設備より問題を知らせる。

 

故障の箇所を直すには、パネルを空けると解説書がある。本を見ないでもパネルに貼られた対策手順(標準化)を基に、担当者が対応できます。

素人でもある程度は対策できる仕組みができています。

また、フローチャートで問題対策ノウハウをシステム化する方式もあります。

 

この種の方式を利用しても対応できない問題(あとに残された問題)は、プロを必要とするので設備専門家が来て対策するわけです。

しかし、多くの問題は、この種の工夫でオペレーター・レベルで対応が可能となりました。

さらに事を進め、専門的な対策はできるだけパソコンのようなマニュアル化をして対策ノウハウを標準化して行く。

 

個人的に書類で持ち出しできないように、特殊だが、他社にないような仕組みでメンテナンスの秘密保護を図る方式を採りました。

そうしておけば、設備保全員自体の人数の低減と共に故障の問題対策が進みます。

また、このような戦略を定めて活動して行けば、人件費の低減とノウハウ保護と共に、少ない退職者リスクで余剰を抱えても、保全業務が円滑に廻るわけ
です」

 

「なるほど、上手い手ですね!」

「一般に、海外生産には多くの人的リスクが発生します。この種の対応には、人に頼る対策ではなく、出来るだけ管理システムや改善を進めて、高度な人の技量に頼らない仕組みをつくっていくことが大切です。

このような内容は体験から出た話ですが、いくら対策を考えても解決できない問題です。ですから、金と技術的対策でことを進めるべき! と考えます」

 

「面白い考え方ですね! 解決できない内容に頭を悩ますよりは、そのような前提条件を制約と考え、リスク最小にすべき案を実施していくわけですね?」

「そうです。それが得策ではないかと思います。

割り切った考えですが、他に知恵が見つかるまで、いたしかたないのではないでしょうか?」

 

「納得です。早速、我が社でも実施へ移すことにします……」という話になりました。

この話は、海外工場の管理をされる企業の方々にご相談受けることが多い内容であり、日本式考え方だけでは解決できない問題を解決する一つの方法です。

この種の問題に対する完全な解ではないのですが、障害の少ない策です。

 

理論的には多分? 性善説と性悪説を交互にミックスして生まれる案ではないかと思う次第です。

読者の方々に少しでも参考になれば、と考えてここに紹介することにしました。

 


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/