工程能力は生産能力ではなく製造品質の均一性を表す

工程能力は生産能力ではなく製造品質の均一性を表す

工程(生産設備)の能力は2つあり、生産量を表現した「生産能力」と製造品質の均一性を表現した「工程能力」である、という話です。

1. 工程(生産設備)の「能力」を表現する2つの視点

見込生産や規構格品受注生産で、同一仕様の製品は連続生産やある程度の規模を有したロット生産であるケースが多いです。数万個、数千個の単位で製品が流動します。

ここで生産ラインを構成しているひとつの工程(生産設備)に注目します。

その工程(生産設備)の「能力」について説明する時、2つの視点があります。

 

ひとつは数量です。

「この工程(生産設備)は1日500個の能力がある」と表現される生産能力。

「能力」とくれば、多くの方は生産量を頭に思い浮かべるでしょう。日常的にもなじみが深く、こちらの概念は浮かびやすいです。

 

では、もうひとつの方は?

もうひとつは品質です。

製造品質に関するその工程(製造設備)の能力です。製造品質のバラツキと表現すれば、思い当たる方は多いです。

 

ちなみに製品の品質には設計品質と製造品質の2つがあります。

設計品質とは製造の目標として狙った品質のこと。

一方、製造品質はできばえの品質、適合品質とも呼ばれます。設計品質を狙って製造した製品の実際の品質のこと。

 

今、取り上げるのは後者の方です。

さて、どんな製造設備でも素材を加工するとき、毎サイクル、寸分違わず、同一動作を繰り返しているわけではありません。

剛性が高く、よほどの高性能な製造設備を恒温室で稼働させていない限りは、設備の動作安定性は加工対象の素材のコンディションや外気温等の外部環境、設備自体の経年劣化等の影響を受けます。

 

その結果、当然、その工程(製造設備)の「動き」がばらつきます。

この製造設備の「動き」のバラツキが製造品質のバラツキを誘発します。

製造品質のバラツキを計測する時、直接的原因となっている、設備の「動き」のバラツキを直に計測するケースもありますが、ほとんどの場合、その工程(製造整備)から出てくる製品の寸法等のバラツキを測定します。

 

その工程(製造設備)の製造品質に関する能力を間接的に知ることができます。その方が簡便です。

さらに、測定された製品寸法のバラツキから、製造品質を測るためには、不適合品、つまり不良品を定義しなければいけません。

良品と不適合品(仕様からはずれた製品)を識別するためです。

 

仕様の多くは定量的に表現されます。

最も一般的な仕様は「寸法」です。厚み、長さ、深さ……です。

寸法を判断基準にして良品と不適合品を識別できます。ここで「公差」という考え方が出てきます。

 

公差とは特定の設計について企業があらかじめ決めておく、製品の機能上許容しうる最大の寸法(上限値)と最小寸法(下限値)の差のこと。

検査において、設計・仕様からこれ以上の乖離は不良とみなし、これを許容しないという形で企業が自らに事前に課す、製品検査ルールである。

(出典:『生産マネジメント入門Ⅰ』藤本隆宏先生)

 

設計品質で設定された寸法が、仮に12.50mmだったとします。

100分の1のスケールのノギスで当該寸法を計測したところ、12.52mmでした。

これは良品? 不適合品? これに答えてくれるのが「公差」です。

 

例えば公差がプラスマイナス0.03mmだとします。

すると上限値が12.53mm、下限値が12.47mm。

この範囲に測定値が入っていれば仕様上は問題ないと判断できます。

 

公差によって良品と判断できる範囲が明確になります。

この範囲に入れば合格、範囲外では不合格。

つまり不良品の多寡はこの寸法公差で決まるということです。

 

不良率は設計品質で設定された狙い値ではなく公差の方に影響を受ける。

この公差を狭く設定すれば不良品が発生しやすくなります。

逆に公差を広く設定すれば良品率が高まる。

 

製造現場にとってはこの公差こそが重視せねばならない設計品質というわけです。

ですから、製品仕様を最終的に決定する際にはこの寸法公差を、現場も確認しなければなりません。

新製品を対象にしたデザインレビュー(DR)の時に必ず確認します。

 

そうしないと試作をした時点で初めて寸法不良が多発することに気付く事態になります。

試作開始時点での寸法変更は、自社製品であるならばある程度可能ですが、他社へ供給する部品等の場合はかなり問題が大きいです。

その部品を組立工程で使用するメーカー側では、全ての図面が最終承認されている時期だからです。

 

その時点で図面変更をするためには、メーカー側も複雑な調整作業が必要となり、かなりのエネルギーが必要です。

ですから、公差への意見反映は図面が未確定で、デザインを検討中の段階で行うのが望ましいです。

そして、自社工場が有する工程(生産設備)の製品品質への能力を把握しておけば、設定された公差に対する可否判断が可能です。

2. 品質の均一性を表す工程能力

製品品質に関するその工程(生産設備)の能力は品質の均一性で表現されます。

工程能力と呼ばれます。

ある工程で製品を量産する時に、製品寸法が管理の対象であったとします。

 

量産された製品の製品寸法を計測し続けると、計測値は目標値を中心にしてある範囲でばらつきます。

ですから工程能力は、この「ばらつきの小ささ」で測定できます。

一般的にバラツキを有した計測値の分布は、平均値と標準偏差(σ)で要約できます。

 

そして、工程能力は次のように定義されます。

工程能力 = ±3σ (あるいは6σ)

計測値が正規分布であると仮定すると製品寸法の値が±3σ(6σ)の範囲から外れる確率が約0.3%になります。

 

正規分布で平均値を中心として左右それぞれ片側3σの限界ラインから外れる外側の両端部の面積は、全体を1としたとき約0.3になるということ。

つまりそれは1000個に3個という割合です。

つまり、工程能力を把握しておけば、工程能力⇒不良率の見込み⇒許容される上限値と下限値⇒公差というように、不良率を見通した公差を評価できます。

 

当然、製品形状やサイズ、材質などで状況は変わりますが、公差と不良率の相関をある程度、把握できていれば望ましい公差をDRの段階で提案することが可能です。

実績を使えるデータに変換して見える化し、事前に手をうつ仕組みができます。

工程(生産設備)の能力には生産量を表現した「生産能力」と製造品質の均一性を表現した「工程能力」があります。

 

「工程能力」を把握することで不良多発を未然に防ぐための適正な公差を設定できます。

ところで、お客様から、厳しい公差を要求されることも当然あります。

これは技術開発レベルの課題となります。

 

厳しい公差を従来の不良率を維持しながら実現させるという技術的な課題です。

差別化技術になる見込みがあれば開発テーマにするとともに、付加価値としてお客様に交渉し、プレミアムを価格に上乗せしていただきます。

このあたりのお客様とのかけひきは技術屋の役割です。

(参考文献:『生産マネジメント入門』藤本隆宏先生)

まとめ

工程(生産設備)の能力は2つある。

生産量を表現した「生産能力」。製造品質の均一性を表現した「工程能力」。

工程能力はバラツキの小ささで計測され公差を決定する手がかりとなる。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)