工場見える化:労務費(残業)について考える【2】

工場見える化:労務費(残業)について考える【2】

労務費のマネジメント方法を気にしたことはありませんか?

 

現場に残業を減らすように指示しても、「仕事が多くてできない!」と言われるのがオチだし……。

効率よく働いてほしいけど「給料分だけは働イテクレ」と面と向かって言うわけにもいかないし……。

労務を管理したかったらどのようなやり方があるのだろうか?

 

固定給部分と残業部分の本質を考えて、現場の共感を得ます。

1.仕事の価値を「時間」で評価しない

工場の見える化として、労務費の固定給部分と残業部分について考えます。

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労務費は、基本的に固定給部分と残業部分で構成されています。

それぞれの特性を意識して、付加価値拡大を図っていますか?

さて「給料が増えなくても残業はないほうがよい」という新入社員が増えています。
工場見える化:労務費(残業)について考える【1】

さらに裏付けるデータがあります。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが東京、名古屋、大阪で開催したセミナーを受講した2015年度の新入社員(男性894人、女性488人)が対象です。

会社に望むこととして、選択肢を与え、自分にとって1位から3位までの項目を選んでもらいました。

 

1位から3位の中で「残業がない・休日が増える」を選択した人の割合の推移です。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2015(平成27)年度 新入社員意識調査アンケート結果)
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2015年度は28.8%で過去最高になっており、増加傾向にあることがわかります。

仕事は一生懸命やるが、私生活もしっかり充実させたいという価値観の若手人財が増えています。

 

この傾向を、経営者の方はどう感じるでしょうか。

 

「何を言っているのだ。甘っちょろくて、イカン!」

経営者の立場で考えると、働く前から何を考えているの……となるかもしれません。

私自身が社会人として働き始めた時の感覚ともかなり異なります。

 

ただ、こうした傾向も経営環境の変化と捉えるべきです。

外部環境が変わってきたと考えます。

避けられない変化です。

 

企業は「変化適応業」「変化創造業」であり、変化に対応してナンボのモノ。

こうした変化を上手くとらえれば、優秀な若手人財を確保する機会を得ます。

 

若手人財のこうした価値観の変化から強く感じることは、

“仕事の価値を「時間」で評価することはヤメヨウ”

ということです。

 

「長時間働いているアナタ、頑張っているね」という評価はモチベーションを下げます。

仕事を成果ではなく、時間で評価していると感じさせるからです。

まずは、なぜ定時で仕事が終わらないの? と問うべきです。

2.仕事を時間で評価していると残念な思考になる

以前、生産現場の管理者の役割を担っていた時、こんなことがありました。

 

自動車部品に関連した製品を、組み立て、溶接を行う現場でした。

恒常的に生産能力の2割増し程度の受注量に対応していました。

つまり、慢性的に残業が発生する現場でした。

 

あるとき、2か月間程、受注量が当初計画よりの大きく減少したことがありました。

余力が発生するので、どうしたものか、と思っていたところ……。

仕事量が激減したにも関わらず、残業時間が変わらなかった。

 

調べてみると、たまたまその時、病気のため現場を長期離脱している作業者いた。

したがって、その代替え残業はありました。

ただ、それだけでは説明つかない状況でした。

 

固定給の少なさを残業代で補うという感覚が現場にありませんか?

仕事の価値を「時間」でのみ評価していると、残念な思考になってしまいます。

長時間勤務=給料が増える

 

この思考のもとでは、知恵を使って付加価値を増大させる発想は絶対に生まれない。

頭を使うのではなく、時間さえ使えば良いわけですから。

3.残業ゼロという挑戦的な目標はやる気を引き出す

若手人財は仕事で手を抜きたいとは考えていません。

そうした若手人財に会ったことはありません。

皆、仕事では頑張りたい、と考えています。

 

ただ、仕事は成果で評価してほしい、そのために自律性や選択性を与えてほしい。

一方的に時間で拘束するやり方はイヤダ。

こんなことを考えている若手人財は多いです。

 

そして、このような若手人財は、仕事を任されたら自ら考え自ら判断し徹夜も厭いません。

学生でも起業を実現するケースが増えている昨今です。

高校生がビジネスモデルを考えるコンテストが、国の機関で主催される時代です。

 

残業に対する考え方を見直して、依存性の少ない自立した優秀な若手人財を確保します。

先の給料と残業に対する考え方の意識調査では

 

  • 「残業が多くても給料が増えるのだからよい」
  • 「給料が増えなくても残業はないほうがよい」

 

この2つが選択肢でした。

この2つに次の選択肢を加えます。

 

  • 「給料が増えて残業はないほうがよい」

 

どの会社に仕事のやりがい、働き甲斐を感じるか、結果は明らかです。

 

人口減少、少子化、高齢化の構造的な社会環境の変化で価値観が変わりつつあります。

ですから、付加価値を生み出すことと、働く時間の相関は弱いと考えます。

名証に上場している未来工業が、それを実践し証明しています。

 

残業が多い工場ほど、やる気は引き出されにくいです。

なぜなら、慢性的な残業はやらされ感、つまり拘束されている気分に繋がるからです。

自律性を発揮できる環境から、最も遠いところに置かれます。

 

そこで、所定労働時間8時間で収益を確保できない生産体制自体が問題である、という視点を持って工場運営や工場経営を見直します。

一度、このようにゼロベースで工場全体の生産性を考えると気づきもあります。

なぜ、8時間勤務で収益を確保する生産性を維持できないのだろうか?

 

これが問題点です。

 

したがって、

8時間勤務で収益を確保するために、○○○を△△△する。

これが課題です。

 

残業ゼロがあたりまえ、8時間勤務で付加価値を拡大させる生産性を目指す。

このような挑戦的な目標は現場の自律性や自発性を刺激します。

皆でやってみよう! という一体感も醸成されます。

 

残業ゼロへの挑戦は、確実にイノベーションのきっかけとなります。

挑戦的な目標は、やる気を引き出します。

 

究極まで生産性を上げ、残業ゼロと付加価値拡大を両立させる。

残業代はつかないが、付加価値は拡大しているので、しっかり固定給UP!

仕事は毎日、原則17時に終了するが、給料は増える。

 

現場は経営者の想いに共感し頑張らずにはいられません。

4.残業時間は戦略的にゼロを目指すことを検討する

残業ゼロのような挑戦的なテーマには戦略的な工場運営や工場経営が欠かせません。

計画推進のために「時間」を味方につけます。

 

例えば、以下のように考えるわけです。

 

所定労働時間が8時間の50名の工場を想定します。

9時から17時までの勤務。

50名の作業者のうち慢性的に20名の作業者が毎日残業しています。

17時から2時間。

毎日19時に帰宅するのが“普通”になっています。

 

このような現場の残業代が、どの程度の金額なのか、概算します。

 

固定給等にもよりますが、平日時間外の残業代2,000円/時間とします。

20日/月稼働とすると、1年間で、

2,000円/時間×2時間×20名×20日×12か月=1,920万円。

 

3年も続けると6千万近い費用が計上されます。

 

これは5軸のATC付マシニングセンターが1台買えてしまう規模の費用です。

これだけの費用をかけるくらいなら、生産性を上げる自動化投資の方が、経営上長期的な効果を得ることができます。

 

投資して生産性を上げ、付加価値を拡大させで昇給の原資を確保する。

そして、残業をすることなく給料は上がる工場を実現させる。

こうした工場を目指し、長期的費用を見越してその分を先行投資し生産性を向上させる。

 

そして、投資に見合った生産性向上のアイデアを実現させるため、現場に蓄積されたノウハウや知恵を駆使する。

自分たちが“頭”に汗をかいて成果を出すことで、ワクワクする工場、つまり残業が無いのに給料がドンドン上がる工場が、将来実現できるかもしれないわけです。

経営者が黙っていても、自然と現場のやる気が引き出されます。

 

そこで、まず、労務費のうち残業部分の発生理由をしっかり把握し、実績数値を管理します。

残業の増減は付加価値に直結しますから。

そして、数値の変動を追いかけ続けることで、残業ゼロと生産性向上を両立させるキモが見えてきます。

 

残業代はあくまで費用であり、資産ではありません。

費用を資産へ取り込むために、残業ゼロに挑戦します。

5.固定給部分は動機づけを図り高付加価値化を加速させる

さて、一方、固定給部分。

費用扱いする残業とは、異なる扱いをします。

費用(コスト)ではなく、未来投資と考える。

 

現場作業者やスタッフにとっては自由裁量固定費。

日々の作業を通じてノウハウを蓄積し、業務からイノベーションのネタを取り込むための原動力と考えます。

これらが、先々新たな付加価値を生み出すための情報的経営資源につながります。

 

現場作業者やスタッフが、こうした情報をいかに多く生み出してくれるかが存続と成長のカギです。

経営者の指示等の外的なきっかけでは、けっして積み上がらない貴重な経営資源。

存続と成長に向けた付加価値拡大の基盤構築を可能にするのは自律的・自発的な活動のみです。

 

ですから、残業費とは異なって固定費部分の生かすために必要なのは数値の管理ではありません。

必要なのは戦略的な工場方針や経営計画、将来の見通し、それと経営者の励ましです。

これらによって、投資効率を向上させると考えます。

 

ワクワクするような工場の将来像を示して動機づけを図り、やる気を引き出します。

経営の本質は、“他人を通じて、自分の想いを実現することである”。

また、「人に働きかける行為」が工場運営です。

 

経営者の想いに対する共感が、取り組みの駆動力になります。

付加価値拡大のため固定費部分の投資効率を上げたい時こうしたことを頭に浮かべます。

労務費は、基本的に固定給部分と残業部分で構成されています。それぞれの特性を意識して、見える化を図り、戦略的に付加価値を拡大させます。

まとめ

労務を管理したかったらどのようなやり方があるのだろうか?

固定給部分と残業部分の本質を考えて、現場の共感を得る。

労務費の残業部分は戦略的な管理を通じてゼロを目指し、固定給部分はやる気を引き出して効率を上げる。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)