工場全体を物理的に見通せる見える化の効果も大きい

工場全体を物理的に見通せる見える化の効果も大きい

工場全体を物理的に見通せる見える化は稼働状況等の迅速な把握だけでなく、安全衛生にもイイ効果をもたらす、という話です。

1.工場の稼働状況を把握するための見える化

モノづくりの現場を管理する立場になると、いろいろなことが気になってしょうがなくなります。

設備が順調に稼働しているか、トラブル等で問題が起きていないか、品質は安定しているか、まさか災害は発生していないだろうな……等々。

とにかくあらゆることが気になります。

 

生産活動全般の責任者なので当然なわけですが、気になる度に現場へ出て状況を確認しに行っていては仕事になりません。

工場の稼働状況をいかに一目で即、把握できるようにするか、これは工場運営や工場経営での永遠の課題です。

見える化はそのための手法のひとつです。

 

あらゆる活動を定量化して、情報を一元管理すれば状況を把握するためのデータがすべて手元にそろいます。

数値を比較するような分析作業をしたいときにはとても役に立ちます。

見える化効果のひとつです。

2.見える化だけど、すぐには見られないことも

工場の生産活動の情報が常に手元に届くシステムは管理者にとってありがたいです。

ただ、通常こうしたシステムはコンピューター上で構築されている場合が多い。

したがって、コンピューターを開いてのぞかないと状況が分からないです。

 

現場へ行ったが状況がよく把握できなかったので、事務所に戻ってパソコンを開いた、というようなヘンな状況になることもあります。

見える化の目的が分析の場合があります。

それだけでなく、今、どうなっているのという迅速な現状把握を期待したい時もあります。

3.タイに拠点を置く日系企業の試み

アジア地域の生産拠点における強みは安価な労働力を生かした価格競争。

こうしたイメージは払拭すべきです。

特にタイ国内の日系企業の工場が人件費の安さに頼るのではなく、労働者の質の高さを生かして高付加価値製品を生産する方向へ大きく軌道修正しています。

 

最低賃金の引き上げに伴いコスト競争では勝負にならなくなってきたという背景もあります。

中国もそうですが、アジア地域は世界のモノづくり工場の役割から、今後、成長が期待できる市場としての役割を果たそうとしているわけです。

アジア地域における高付加価値製品の生産拡大が予想できます。

 

そうした流れを受けて、現地の工場の現場も進化せねばなりません。

従来でしたら、日本人の技術者が現地の現場を指導することから始めていました。

しかし、それでは限界があることも分かってきました。

 

そこで、タイの日系工場のいくつかでは日本の工場のやり方をコピーすることから脱却し、独自の進化を遂げようとする試みが行われています。

浜松市に本社があるローランド ディー.ジー.株式会社はコンピュータ周辺機器メーカーです。

このローランド ディー.ジー.社が海外初の生産拠点をタイに設立しました。大型のプロッターを生産しています。

 

ITを駆使したセル生産方式(D-SHOP)を現地でも採用しています。

生産現場の情報をデータで把握できることが、D-SHOPの長所です。

ただし、コンピューターを見ないと状況が分からないことが短所となります。

 

そこで、タイ工場では目で見て分かるように工場フロアの改革を進めています。

(出典:『日経ものづくり』2016年2月号)

 

まず、工場全体が見通せるように、設備の高さを全て床からの高さ1.5m以内に収めるように改める活動を始めた。

「工場のどこかでトラブルが生じていないか、従業員が通常通りに動いているかどうか、離れたところからでもすぐ分かるようにする」(Gereral Manager 竹山徹氏)ためだ。

 

この試みは「国内工場よりもタイの方が先行しているかもしれない」(同氏)という。

(出典:『日経ものづくり』2016年2月号)

 

工場の見える化でこれほど、単純かつ絶対的な方法はありません。

3現主義に基づいた見える化といえます。

単純ですが、効果は絶大です。工場全体を見通せれば生産活動の状況は一目で把握できます。

 

大手製造業の大規模工場では対応がなかなか難しいかもしれませんが、小回りのきく中小モノづくり工場ならば、こうした取り組みができる場合が多いです。

工場レイアウトを見直して「物理的に」見通しのイイ工場へ変身させます。

4.工場全体が見える化されていないと……

24時間連続操業の加工現場の管理者をやっていた頃の話です。

工程の一部が工場フロアから隔離されていた職場がありました。

暑熱対策などでどうしてもそうせざるを得ない背景もあったのですが、離れ小島のように存在していた職場はいろいろな面で気をつかいました。

 

チームワークや業務の進捗フォロー、それに安全衛生。

離れ小島のように存在していた状況を根本的に解決できない状況のなかで、不幸にして大きなトラブルを発生させてしまったことがあります。

今思い出しても、当時の若手人財には辛い思いをさせてしまったことが悔やまれます。

 

その後、考えうる対策を全て打ちましたが、こうした事態になった一因に、工場全体が見える化されていなかったことが上げられます。

5.工場全体を見通せる状況をつくる

工場全体を物理的に見通すことが可能な現場の利点を下記に列記します。

 

  • 生産活動の正常、異常が直接に目で見て、即把握できる
  • 特に異常を見つけやすい
  • 製品の流れも把握しやすくカイゼンへつなげやすい
  • 現場も常に管理者に見られている意識がありイイ緊張感が生まれる

 

特に最後の項目は安全衛生のためにもイイです。

データでの見える化だけでなく、物理的に工場全体を見通せる見える化も大いに効果があることに気付きます。

工場の規模にもよりますが、この見える化は、設備レイアウトを変更することで対応可能です。

 

そして、効果はあらゆることへ波及していきます。

中小モノづくり工場の現場なら実行可能性も大きく、考える価値があります。

まとめ

工場全体を物理的に見通せる見える化は稼働状況等の迅速な把握だけでなく、安全衛生にもイイ効果をもたらす。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所
 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)