対象を決めて行わないMOTの勉強は、単なる教養上の遊戯!

対象を決めて行わないMOTの勉強は、単なる教養上の遊戯!

今回は大学を中心に盛んに勉強されているMOT(Management of Technology)にまつわるお話を紹介します。

以下はMOT誕生の背景と構成要素を示したものです。

▼MOTの定義
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▼MOTに専門大学が求める内容の例
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紹介する事例は「多くの時間をかけて学んだMOTの成果はどうなるの?」という疑問を抱えたN社と、これに対応したS氏のやりとりです。

MOT研修を無駄にしないためには

「早速ですがS先生、我が社ではMOT研修が盛んだということで新人を中心に大学へ数名を通わせて、1年間、完全に近い形で勉強させてきました。

しかし3年を経過する今、彼らがリーダーとなり新製品のテーマを扱っているのですが、その成果がわからない状況です。

たしかに研修会に出した私としては、研究開発の運営を費用対効果で見ることや、MOTの『ダーウィンの海』という考え方にあるように、環境の変化に柔軟に順応した者だけが対岸という新時代の環境に耐える企業としてのモノづくりを支える考え、そして『技術ロードマップ』による確実性の高い新製品の開拓、さらには『シナリオ・プランニング』という企画書に似た形態でプロジェクトを進めるストーリー性には共感するのですが、実務的な成果が私には不明です。

また、“MOTを実務に活かせ”と彼らに要求するのですが、応えが返ってきません。

第一これからは、我が社が関与するガソリン・エンジンを活用した乗用車は技術がいかに高くても、35,000が1/10の3,500となるEV(電気自動車)対応に対し、マクロ的な話ばかりをしていても、MOTは何も役立たないように思うのです。

こう考えると、先の大学に送り込んだ教育はムダだったように思われてならなくて、反省状態です」

「そうですか、N社ではそこまで投資をなさったのですか?」

「ハイ」

「ではまずMOTですが、これは下の図が示すような側面を持っています。

▼MOTが求められた時代背景
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そして、MOTに似たMBAというものがあります。多分、すでに内容はご存知かと思いますが、MBAはビジネス・リーダーを育てる資格です。

MBA取得者の話に見るMOTの盲点

MOTを評価される場合、MBAの資格を取得した産業界で活躍される方々のお話が参考になるように思います。判を押したようにその評価が同じだからです。

要は“MBAは実務を経験し、苦労した成功者が学ぶと、活動が整理されチェック・ポイントも確認できるので役立つ。だが、学問として多くの道具ばかりを目前に並べても、その活用方法がわからないのではないだろうか?”という話です。

たしかにMOTの過去の新製品開発の失敗と成功を全て“もはや、失敗や成功の要因と対策法が産業界に蓄積し尽くしている状況なので、それを体系化して学べば、新製品開発マネジメント上は、ほとんど抜けのない成功システムが運用可能になるはずである”とする思想は頷けます。

ですが、新製品と企業経営という対象が異なるだけであって、先のMBAと似た形態を持つのではないでしょうか?」

「なるほど、実務的なその評価には納得がいきます。では、具体的にMOTを企業で活用していくにはどうすることが重要だとお考えですか?」

「その解は、製品を定め、その新製品が何にどのように役立つか? を分析した後でないと、返事は難しい状況です。

理由は、一般論的にMOTの扱いを議論しても、ちょうど、巨象を触って耳がどうか? この足の状態から判断すると……としているがごとく、全体像と共にこの像という巨大なものがどちらへ向かうか、何のために存在していて、何がアウトプットとなるのかを論じている議論に似ているからです。

動物は象だけではありませんし、当然、巨象から学んだことがそのまま他の動物には適用されません。例えば、変化対応の危機にあるピューマに何を適用するかを論じることに意味がないのです」

「その例え、私にはよくわかります。全ての条件と新製品開発成功に至るチェック・ポイントは巨象に似ています。大学の体系的な内容から整理すれば、新製品開発時に役立つと考えたものは、全てを網羅させる必要があるからです。

では、メンバーを教育した対処はまずかったのでしょうか?」

「いや、まだその良否は私には判断がつかないのですが、次の例えが1つの対処方法のヒントになるように思います」

『テーマ先にあり』の重要性

「これは、ある企業での取り組みです。

その企業では“過去の新製品開発問題を全て整理してDR(Design Review)時に活かしたい”というお話だったわけですが、ある意味この話はその企業にあった社内的・MOT制作に当たるかもしれません。

私は、そのような解析は学問的資料にはなっても実務には役立たない例が多いので、次のように提案しました。

『それより、今開発していて成功を早めたい製品を取り上げる。そして、そのテーマに対し、市場調査、アイデア創出からリスク対策に至るまで過去の問題を見直して生かす。

要は、これから行う製品対象を決める。

また、製品実現を確実にするために必要な情報だけを、過去のトラブルやMOTなどから得たチェック・ポイントして活用する』という提案です。

すると、この企業の本音が出てきました。

“過去に新製品反省会や研修の場で実際に過去トラ(過去のトラブル)の整理はやったことがある。項目は多数挙がったが、実務に活かされる例が少なかった”

という話や、

“教養番組的内容になった”“出席者も本体を担当する実務者でない方々の出席だった”“折角時間と人をかけて努力してまとめたのに、結果を見ると結局は市販の著書に記載されている程度の平板的な内容に過ぎなかった”

という反省です。

この種の取り組みが持つ欠点ですが、『テーマ先にあり』という環境がないと、また、目前にこれから生命を賭けても成功させなければならない重要テーマを抱えた状況でないと、人の特性として、ベキ論はあっても実務へ各種のチェック項目を実務活用するには難が出る状況です」

「その解説で、今回MOTを運用する失敗に気づきました」

「いや、反省は反省として、失敗とはされない対処が必要だと思います。

時計は逆に戻りません。むしろ、今後進めるテーマを明確にして、大学で学ばれた内容だけでなく、御社の問題を整理され、それを実務に活用する対策はいかがでしょうか?

一般論で恐縮ですが、多くの企業では、研修を受けた資料や教養は出張報告書の一部と個人机の引き出しの餌と言う状況で、会社で関係者が実務的に活用する題材になっていない例が多い。

そこで、生産における『後工程引取り』に似た形で、『テーマ先にありき』という形に切り替え、ここへMOTも使う。

そうすれば、今後、MOT運用の見直しにもなると考えます」

「今日はS先生にお話してよかった。早速、その手に切り替えたいと思います」

コメント:手法の運用について

筆者も仕事柄、N社とS先生のような議論に遭遇することが多いです。

そのようなとき、

「私のような手法専門の担当者の育成ですか? それとも、現在抱えておられるテーマを早急に実現させたいお話ですか?」と問いています。

すると、後者が目的であるケースが99%でした。

下の図は不良再発を防ぐ目的で、テーマを定めて行った過去トラの整理です。

過去を未来に生かすという局面から見ると、過去情報の全てまでが必要ではない状況です。また、このような要素を入れた対策は、キーパーソンの活動を増し、短期間で失敗を招かない新製品対策を具体化させてきました。

「MOTのような手法は活用されるためにある」ものとして扱うべきです。

▼実務的に使える過去トラ技術によるチェック(DR実務)
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昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/