安川電機の中国ビジネスを推進する2つの戦略
貴社は長期的な視野に立った戦略を立てていますか
1.安川電機の中国ビジネス
安川電機は1915年創業の電機機器メーカーです。
コア技術として、3つ上げています。
「モーション制御」
「ロボット技術」・「パワー変換」
サーボ、ロボット、インバーターがコア製品です。
機械工学(メカニクス、mechanics)と電子工学(エレクトロニクス、electronics)を合わせた「メカトロニクス」は、安川電機の技術者によって提唱された言葉です。
その安川電機は、2015年に創立100周年を迎えました。
そして、同年に10年後を見据えた2025年ビジョンを掲げています。
そこでは、10年後の数値目標も明記しています。
売上高は2015年実績4,113億円に対して2倍です。
このような挑戦的な目標を掲げている安川電機が注目している市場が中国です。
代表取締役社長小笠原浩氏は、同国における工場自働化需要の拡大が期待できると考えています。
最近、中国の景気減速が懸念されていますが、世界市場の中でも、同国における機械化・自働化の伸び代はまだかなり大きいものがあります。
市場の伸長率は確かに鈍化しているものの、ロボット産業の成長が続くことは間違いありません。
我々も同国の自動車産業の景気減速による影響を心配していましたが、ロボット産業の落ち込みはそれほど大きくはありません。
自動車産業以外でも、今の中国の工場ではロボットを持つことが1つのステータスになっていて導入が盛んです。
(出典:日経ものづくり2016年5月号)
安川電機が注目する中国には、2つの側面があります。
・市場
・競合
自働化需要が拡大する中国は、市場としての中国。
一方、中国政府が掲げる「中国製造2025」の中でうたっている自国ロボット産業強化をめざす中国は競合としての中国。
両者に対応する戦略が求められます。
競合としての中国に注目した場合、小笠原社長は、2つの脅威を上げています。
ひとつはスピード、もうひとつは卓越したコピー能力です。
日本や韓国のメーカーが細かい仕様を詰めている間に、中国メーカーは、顧客の工場にドンドン人を送り込み、少々無理をしてでも現物に合わせて、設備を作り上げてしまいます。
また、技術力も、まだ日本メーカーと比較して差があるとは言え、卓越したコピー能力があり、そのコピーをもとに独自の機能を付加して、日本メーカーでは決して出てこない発想に基づく、新たな機械を提案するようになってきています。
小笠原社長は中国への戦略を次のように語っています。
スピードの脅威に対しては・・・・。
それ(スピード)に対して同じ土俵では勝負できませんから、そこは技術力の高さとカスタマイズによるきめ細かな顧客対応で対抗していきます。
(出典:日経ものづくり2016年5月号)
卓越したコピー能力に対しては・・・・。
そうした動き(日本メーカーにはない発想の新製品開発)を見逃さないためにも、我々は中国の産業機器メーカーにサーボやインバーターを一生懸命売り込んでいます。
彼らが、何をつくろうとしているのか分かるからです。
(出典:日経ものづくり2016年5月号)
中国の競合メーカーの動きを見極めるために、1999年に安川電機(中国)公司を設立。
2012年には、中国でロボットを生産する安川(中国)機器人公司工場を設立。
中国でのビジネスを確立する体制を整えました。
我々は早い段階から中国に進出して、現地にきちんと根付いてビジネスを展開してきました。
安い労働力を使い捨てにするようなことはしていませんから、従業員の定着率も高い。
これは大きな利点です。
加えてブランド志向の強い中国で、「安川電機」というブランドが認識されているという点でもビジネスに大きく効いています。
(出典:日経ものづくり2016年5月号)
2.安川電機に学ぶ事業展開で欠かせない2つの視点
小笠原社長のコメントから事業展開で欠かせない2つの視点を理解できます。
1)市場や競合を知り尽くすこと
2)将来を長期的に見通すこと
今後、伸びるであろう市場、将来の手ごわい相手になるであろう競合を知るために中国へ進出しています。
中国は、市場であるとともに、敵地でもあるのです。
安川電機は、その敵地で、定着率の高い現地従業員を抱え、モノづくりを展開しています。
安川電機ファンとなった現地の従業員を通じて、競合情報を入手できます。
現地のことは現地に聞けです。
市場や競合を知り尽くしてこそ、明確な方針を打ち出せます。
まさに「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」です。
つい、自分たちの過去の成功体験を、判断基準にしがちです。
あくまで、顧客視点、競合視点で考えます。
独自性は重要です。
しかし、一方で客観的な意見、情報にも、耳を傾けなければなりません。
安川電機は、相手の懐奥深くまで入り込んで、腰を据えて情報を収集しています。
また、短期的な戦略と共に、長期的な戦略を持つことも大切です。
安川電機は10年、20年の戦略で中国ビジネスを構築しています。
時間をかけて構築されたビジネスモデルは、競合も簡単に模倣ができず強固で盤石です。
中国を市場と捉えている視点の先には、競合ととらえる視点があります。
安川電機は、競合となった中国メーカーに勝つ戦略も、考えているのです。
10年、20年戦略を実践しています。
一方で、長期展望を立ててもムダであると考える経営者もいます。
不確実性が高く、変化に富んでいる時代なので、立てても意味がないと。
一理ありそうですが、逆です。
外部変化が激しいからこそ、長期的な視野に立った戦略が求められます。
貴社の事業展開の過去実績を振り返った時、気が付くことがあるはずです。
いろいろなことを思い、考えて、試みたが、結局、実行して実績を上げることができた仕事の数は意外と多くない・・・。
経営者が期待するほどに、多くの試みが実現できるわけではないのです。
こうした過去を踏まえると、「選択と集中」の大切さに思い至ります。
そうでなくても、現場には、経営資源が豊富にあるわけではないのです。
持っている経営資源を最大化する視点が重要です。
効果的に経営資源を生かそうと考えるなら、ぶれない戦略が欠かせません。
先が見通せない今こそ、5年、10年スパンの戦略が必要なのです。
ぶれない戦略を持てば、外部環境の変化へ、柔軟に、機動性をもって対応できます。
ぶれない判断基準を持つことになるからです。
外部環境変化に対応する長期戦略を立てて、ぶれない判断基準を持ちませんか?
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