奥まで見通せる工場で現場の一体感を醸成する

奥まで見通せる工場で現場の一体感を醸成する

現場の一体感を高めるために、奥まで見通せて、人が自由に移動できる工場を目指す、という話です。

 

現場の奥まで見通せますか?前後の工程へ自由に、すぐに、人が移動できますか?

1.ダイソンの研究開発

目詰まりを起こさない遠心分離式掃除機や羽根のない扇風機、高い吸引力を備えたロボット掃除機、適温で早く乾かせるヘアドライアー……。

英ダイソンの製品です。

ダイソンは付加価値を高めた白物家電で顧客へ価値を届けています。

そのダイソンが約500億円を投じてシンガポールに研究開発拠点を新設しました。

ダイソンは英国にも研究開発拠点を持っています。ここでは、新技術の「種」を生み出します。

そして新設したシンガポールの開発拠点で、具体的な製品に「育てる」のです。

シンガポールの開発拠点は実用化技術の開発を担います。

 

ダイソンが今後生み出そうとしているのは「知能的な」技術や製品。

それらに必須な基盤技術は、次のような技術であるとダイソンは考えています。

人工知能や機械学習、ロボット工学、流体力学、画像認識システム、電池、キャパシター、音響技術。

こうした基盤技術の研究開発について、

同社のグローバルエンジニアリングディレクターScott Maguire氏は次のように語っています。

 

「(カギは)ハードウェア技術とソフトウェア技術の融合である。」

(出典:日経ものづくり2017年3月号)

 

2.ハードとソフトの融合を図るダイソン

ハード技術の高さには自信があるようです。一方、ソフト技術は不足していると、ダイソンは認識しています。

したがって意識してハードとソフトの融合を図ろうとしています。

同氏によると、「コラボレーションしやすい環境」を整備するとのこと。

両者の間にある垣根を取り払い、連携を促そうというのです。

その「コラボレーションしやすい環境」とは具体的にはなにかと言うと……。

仕事場のレイアウトに工夫を入れます。

 

  • 技術者のデスクが並ぶスペースに、壁やついたてなど視界を遮るものを置かない。
  • 奥まで見通せるシンプルなレイアウトにする。
  • デスクは長手方向につなげた複数の長テーブル同士を向かい合わせにしただけにする。
  • デスクがならぶスペースのすぐ隣(歩いて10歩)に専門技術ごとの研究室を置く。

 

フロアーの奥まで見通せるので、誰がどこにいるのかがすぐにわかります。技術者同士が声をかけやすいです。

ハード技術者はソフトの研究室に、ソフト技術者はハードの研究室に入りやすくなっています。

(出典:日経ものづくり2017年3月号)

 

難しいことをしているわけではありません。

仕事は科学ですが、それを実践するのは人です。人間臭い対策が効果的です。

 

3.事務所内の一体感を高める方策

ハードとソフトを融合させる重要性をしばしば耳にします。

おそらく多くの技術者はそのことを知っています。知っているけど、なかなか、そうではきない。

ソフトに弱いのは国内メーカーにも共通した課題です。

 

人間は、意外と保守的です。自分の得意分野で仕事をしたいからです。

不得意分野で、あえて「他人」とかかわって仕事をするにはエネルギーが必要です。

重要であるとわかっていて踏み出せない。

仕事上の問題の原因を追究すると、こうした人間臭いところにぶち当たったりします。

人間臭い問題を解決するために、経営者は、意識して、工夫を仕掛けるのです。

環境を整備して、現場を後押しするのは経営者の仕事です。

 

私も、しばしば、事務所のレイアウト変えを経験しました。

中小では社長の意向、大手では部門長の意向を受けて行われたことが結構ありました。

仕事の主役が人間である以上、こうした工夫は効果的です。

 

ダイソンはソフトとハードの融合を目指しました。

一方、社長や部門長は、部門間の融合、設計と製造の融合、製造と営業の融合を狙ったわけです。

事務所内の一体感を高める方策です。

 

4.奥を見通せて、すぐに、自由に移動できる工場

モノづくりに携わる私たちは、もう一歩踏み込みます。

それは、モノづくり現場のレアイアウトです。

現場の奥まで見通せますか?前後の工程へ自由に、すぐに移動できますか?レイアウトを柔軟に変更できますか?

工場内に壁や棚があると視界が遮られます。

原材料や仕掛品、工具類が床に置かれていれば、自由に移動ができません。

また雑然とモノが置かれていると要るものと要らないものの区別もつきません。

すると現場のレイアウトを柔軟性良く変更することができません。

 

すでにモノづくりは多品種少量、変種変量生産の時代です。

生産の機動性、小回り性が今後、求められます。

これらは本来、中小製造企業の得意とするところです。

奥まで見通せて、自由に移動ができ、レイアウト変更が柔軟性良くできる工場を目指します。

離れ小島をつくってはいけません。奥まで見通せて、すぐに、自由に移動できる工場は、良好なコミュニケーションを生みます。

 

一体感を高めるのは事務所だけではなく、現場も同じです。

人を動かして、人に動いてもらって、経営者は成果を出します。

したがって、経営者が優先すべきことは、やる気を引き出す環境づくりです。

 

工場のレイアウトは、儲かる工場経営に欠かせない「流れ」を作るのに重要な論点です。

加えて、やる気を引き出すためにも、はずせない論点であることを忘れてはなりません。

奥まで見通せる工場をつくりませんか?

 

まとめ。

現場の一体感を高めるために、奥まで見通せて、人が自由に移動できる工場を目指す。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)