失敗しないロボットメーカーの選び方!
ロボットメーカーの選択ミスで大きな損失を招く!
大きな損失を招く誤った認識
最近、新聞などで「産業用ロボットの発注が伸びている」というニュースをよく耳にします。そして、様々な産業用ロボットメーカーも業績は好調のようです。
産業用ロボットメーカーは様々あります。実名は伏せますが、日本の青色・黄色・白色・灰色のロボット。また海外のオレンジ・黄色のロボットなどです。
私は産業用ロボットの効率UPのコンサルタントなどを全国の会社を回って行っている仕事柄、多くの工場でロボットを見ております。そこで、殆どの会社がロボットメーカーに関して、大きな誤解をしていることに気付かされます。
その誤解とは、『ロボットメーカーはどれを選んでもさほど変わらない。だから、知り合いのSIもしくは商社に薦められたロボットメーカーを選択すれば良い』という事です。
ひどい場合、「このロボットメーカーはよく耳にするメーカーだから、間違いない」という安易な認識だけで選択してしまう場合も多く目にします。
その結果、ロボット導入後に「製品の1部しかロボットで加工ができない」「ソフトとの連携がうまくいかず効率UPできない」などの問題が起きています。よって、企業にとって大きな痛手となるせっかく高額の買い物をしたのに償却できない、という事態が起きています。私も様々な工場で、大きな期待をされ購入されたロボットが埃を被っている状況をよく目にします。
先日もある会社から依頼を頂いたので工場にお伺いすると、「加工したい製品の約100%をロボットで加工できるとSIから説明を受けたので、期待して購入したが、実際は加工の際にムラができてしまうので、100%どころか10%しかロボットで加工できていない」
「結局、自動化に失敗して手作業に逆戻りだ」と言われていました。
なぜ選択を間違えると大きな損失を招くのか
もちろん多くの会社はロボットを選択する際に、「可搬重量」や「稼働範囲」が適切なものを選択されています。また、「繰り返し精度」もロボットのマニュアルに記載されてありますので、このチェックもされたうえで購入されます。
しかし、肝心な事を見落としています。
それは、ロボットメーカーの違いで「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」が全く違うという事です。さらに「カスタマイズ性」もかなり違います。
特に「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」は加工の際に致命的な差を生じます。例えば、レーザトリム(レーザカット)を、これらが優秀なロボットとそうでないロボットで比べると、片方では仕上がりの切れ目が綺麗にカットされていますが、もう片方ではギザギザになってしまい加工製品としては成り立たない、という事です。
「誤差を修正するオプションなどを後付けすれば解決するのでは?」と考える方がいらっしゃいますが、これはロボットの特性として起きてしまう事なので、まったく解決しないと考えてください。
用途によって変わる
ただし、これを読まれている方が、用途としてハンドリングやスポット溶接『だけ』をお考えなら、ロボットメーカーの違いでそんなに大きな損失を招く事はないと思います。「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」などが劣っていても、何とかなるからです。
しかし、ハンドリングやスポット溶接でのロボット導入は頭打ちで、これからロボットを導入される会社の用途は加工全般のはずです。
例えばアーク溶接・レーザー溶接・バリ取り・シーリング・ローラーヘム・カット(レーザー・ウォータージェットなど)・穴あけ・溶射・塗装などです。これらの場合は、前述の通り、ロボットメーカーの選択ミスが大きな損失を招きます。
ロボットメーカー自身も客観視していない
ではロボットメーカーに聞けば失敗しないのでしょうか? 答えはNOです。
意外に思われるかもしれませんが、ロボットメーカーも自社のロボットの得意・不得意を理解していません。先日もいくつかのロボットメーカーの営業の方に「御社のロボットは他社のロボットと比べて、優劣は何でしょうか?」とお聞きすると、「正直、わかりません。ただ、お客様のご要望に出来る限りお応えするだけです」という回答しか返ってきませんでした。
ロボットメーカーでさえも説明できないのに、購入する側が分かるはずがないです。この事が、多くの会社が選択を間違える理由の一つです。
もう少し詳しく
ロボットメーカーにより、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」そして「カスタマイズ性」が違う、と前述しましたが、これらをもう少し詳しく説明します。
「軌跡精度」とは、文字のごとく、ロボットが移動する際の軌跡の精度です。簡単な例ですと、ロボットに鉛筆を持たせて直線を描くプログラムを作成(ティーチングを)して動作させます。この精度が優れていないと、鉛筆で描いた線がゆらゆらと揺れた様になります。曲線も同様で、例えば綺麗な円もしくは楕円を描いてほしいのに、デコボコな円や楕円になってしまいます。
「絶対精度」とは、ロボットの移動量がプログラムと現実で一致する精度です。この精度が優れていないと、Xがプラス100mmのプログラムで移動させると、現実ではXが103mmつまり3mm余分に移動してしまいます。それだけでなく、たわみ等でZまでマイナス2mm移動してしまいます。
「剛性」とは、ロボットの外部からの力の影響に耐えうる能力です。これが優れていないと、研磨などをロボットにさせた際に、製品に対してロボットが押し負けてしまい、加工にムラができてしまいます。
「カスタマイズ性」は長くなるので、別の機会にしたいと思いますが、遠隔でロボットの操作や、ロボット以外の外部機器との連携、などなどです。
よって、これらの特性が優れているか劣っているかで、加工がうまくいくか失敗するかの大きな差が生ずるのです。したがって、この事を知ったうえでロボットメーカーを選ばないと、会社としては大きな損失を招いてしまいます。
なぜ違いがあるのか?
先程、ロボットメーカーにより「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」そして「カスタマイズ性」が違い、選択を間違えると会社にとって大きな損失を招く事を記載しました。
ではなぜ、このような差が生ずるのでしょうか?
ロボットの初心者が持たれる大きな誤解は、「ロボットメーカーはどれもたいして変わらない。見た目は似ているし、色が違うだけ。だから知り合いから紹介されたメーカーにしよう」です。
答えから申し上げると、『サーボモーターにかけている金額がまったく違う』という事です。サーボモーターが高価なものですと、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」が優れたロボットになります。
ちなみにサーボモーターとは、簡単にいうと、ロボットのアームを動かしているモータの事で、6軸多関節ロボットでは6つ付いています。
購入される側から見て厄介なのが、情報通でなければ、検討しているロボットのサーボモーターが高価で優秀なものかどうかの情報が入ってこないという事です。
ちょっと難しい話ですが、サーボモーター1つだけで、数百の設定値があり、これらの値の違いでロボットの動き方が大きく変わります。このような事は、ロボットの素人には分かるはずもなく、ロボットのマニュアルにもこの中身の情報が開示されておりません。また、開示されていたとしても、素人では意味がさっぱり分からないと思います。
よって、ここでまず抑えてほしい事は、ロボットメーカーによりサーボモーターにかけている金額が大きく違う。よって、「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」などの差が生ずるので、加工を行った時に製品の出来栄えが大きく変わる、という事です。
もうひとつの誤解
ロボットの初心者が持たれる大きな誤解がもう一つあります。
今回は様々な用途の中で、溶接で例えます。
それは「溶接機器メーカーのロボットは、溶接ロボットも優れている」という誤解です。
この誤解が生じる理由は『ロボットが溶接作業をうまくできるか?』が最も重要なのに、ロボットの『周辺機器だけの能力(この場合は溶接能力)』しか見ていないという事です。ロボットの作業は、ロボットと周辺機器の両方がうまく機能し合わないと、うまくいかない事を見落としています。
先日、私も中国地方のいくつかの工場でお伺いしたら、まさにその溶接メーカーのロボットばかりが置いてありました。『置いて』と表現したのは、『働いてはいなかった』という事です。
工場の担当者に聞くと「ロボットは殆ど稼働していないです。理由は、うちみたいな中小企業は小ロット(少量多品種)の製品が多いので、ティーチング(教示)をする時間がかかるロボットでは作業できません」と言われていたので。私が「プログラムのカスタマイズや、ティーチングソフトを活用して対応できませんか?」とお聞きすると、「このロボットメーカーにも問い合わせましたが、『うちのロボットにはそのようなカスタマイズ性はありません』『ティーチングソフトを使っても、うちのロボットにはたわみの補正機能(絶対精度)などが無いのでうまくいきません』『よって、自分で全てティーチングしてほしい』と言われてしまいました」との事でした。
最近「溶接ロボットは、溶接メーカーにお願いすれば大丈夫。他の有名ロボットメーカーの溶接は良くない」という噂が出回っていますが、これはメーカーとお客様の間に入っている商社さんの利益率が高いから、そのような噂を流して旨みを得ているだけで、決して事実ではありません。よくよく注意してほしいと思います。
その証拠に、大手自動車会社の生産現場で、特に溶接を行う一次下請けの会社にも私はよくお伺いしますが、そこでの溶接ロボットは、先ほどの溶接メーカーではなく、サーボモーターを生産している某ロボットメーカーの溶接ロボットが殆どの割合を占めています。
意外に思われるかもしれませんが、特に溶接の質を問われる配管の溶接などで、その某ロボットメーカーが使用されています。つまり、溶接機器のメーカーでなくても、ロボットだけでなく溶接の質も非常に高いという事をお客様の満足度が証明しています。
噂と真実は違う、という事を留意しておくべきです。
高かろう良かろう?
また、ただ値段の高いロボットを選べば良いというわけでもありません。
まず海外製のロボットですが、値段が国内のロボットの倍近くします。そして、確かに前述した「軌跡精度」「絶対精度」「剛性」そして「カスタマイズ性」において優れています。しかし、もしもの時のサポート体制を調べてほしいです。
例えば、工場の地域によっては、そのメーカーのロボット技術者がすぐに駆けつけてくれません。また、最悪の場合ですが、壊れた部品が国内に無く、空輸でその部品が届くまでロボットが停止状態になった、という話も聞きます。
次に国内のロボットメーカーです。私が良く聞く面白い話ですが、卸売価格が殆ど同じなのに、ロボットの能力が大きく異なります。
国内の中でも優れたロボットメーカーは、前述のサーボモーターにお金をかけているだけでなく、たわみ補正・バックラッシュ補正などのソフトが最初からロボットの内部に付加されています。もちろん、それらが劣るロボットと比べてまったく別物です。ところが、見た目やマニュアルに記載されている内容(過般重量・稼働範囲・繰り返し精度)は、この両者はほぼ同じなので、素人の方は見極めにくいです。
実は、サーボモーターを自社で生産している某ロボットメーカーは、生産していないメーカーと比べて、同じ値段でもかなり優れたサーボモーターを使っています。
決して値段やイメージだけでロボットメーカーを選んではいけないという事です。
どのロボットがよいか?
では、どのロボットメーカーを選択すれば、良いのでしょうか?
前述した事に気を付けて頂ければ、選択ミスをすることはないと思います。
ただし、知識だけでなく、候補のロボットでしっかりとテストを行って欲しいです。ここで見落としがちなのは、できる限り現場に近い環境、つまり加工したい製品などを使用して行う事です。
もし、選択ミスで大きな損失を招く事がご心配であれば、富士ロボットに遠慮なく聞いていただければ、と思います。