外部の力を生かした技術開発では○○力が必要となる
技術開発のスタイルも大きく変わり、外部の力を活用することが欠かせない。
コミュニケーション能力を磨くことも大切である、という話です。
1. 外部の力が欠かせない
大阪府や石川県、秋田県など約30社の中小企業で構成する「ジャパン・エアロ・ネットワーク(JAN)は外部環境の変化を機会と捉え、連携によるクラスター化で補完し合いながら付加価値の拡大を図った事例です。
付加価値を拡大させるのに自前のコア技術のみにこだわる必要はありません。
足りなければ外部から入手できればイイ。
外部の力を借りて事業展開のスピードを上げるという視点も持ちます。
外部環境は、今後もますます「激しく、大きく、速く」変化すると考えて、将来への成長路線を描きます。
自社のコア技術の見極めもお客様に協力をお願いする。内部の視点のみでは的確にとらえられないからです。
自社製品の利便性を本当に知っているのはお客様ですから、自社の本当のコア技術をお客様に伺うのはある意味では合理的です。
国内需要が右肩上がりで成長し、モノを造れば売れていた時代は、国内市場もドンドン拡大していました。
市場が拡大している時代であるならば、独立独歩、全て自前主義で事業を展開する意味は大いにあります。
拡大する市場の中に自社の立ち位置を確保し、そこで独自性を発揮すれば事業は成立します。
自社の立ち位置を中心にして独自の市場を育てることが可能です。
しかし、現在、国内は成熟市場です。価格では二極化しています。仕様では多様性が求められています。
国内においては、市場を創出せねばなりません。市場を探して確保したかったら、海外です。
状況が極めて複雑になっています。
今後、ますます、外を知り、外の声に耳を傾ける重要性が増してきます。
内側向きのみでは、進む方向を間違えます。
気が付いた時には取り返しのつかないところにまで至っています。
大手企業でも進む方向を間違えた事例が頻発しています。
2. 大きく変わった富士フイルム
これはトップの的確な経営判断で正しい方向へ進んだ事例です。
富士フイルムはかっての中核事業であった銀板写真フィルムの需要がほぼなくなるという危機を経験しています。
富士フイルムホールディングスの古森重隆会長は2000年に社長に就任しました。
2000年3月の業績は売上高1兆4,018億円、営業利益1,479億円と極めて好調な時でした。
しかし、当時の古森社長は将来に強い危機感を抱いていました。
それは、写真関連事業が営業利益の約60%を稼ぎ出していたからです。
写真用フィルムでは当時国内で70%のシェアを獲得しており、長年、安定的に高収益をあげる企業でした。
しかし、80年代後半から、アナログ技術からデジタル技術への転換という大きな技術革新が進行し始めました。
当時の古森社長が抱いた強い危機感の原因は、このデジタル化の波です。
先々、フィルムが売れなくなる。
さらに、フィルムに関連して現像液や印画紙、その他の機材も不要になる。
本業の根幹が消えてなくなろうとしている。会社の存亡に関わる大問題であったわけです。
(出典:『新経営戦略論』寺本義成、岩崎尚人編)
その富士フイルムの2016年3月の業績は下記です。
2兆4,916億円、営業利益1,912億円。
当時の古森社長が危機感を抱いた2000年から売上高で1兆円上乗せです。
同業の米国イーストマン・コダック社はデジタル化の外部環境変化についていけず、対応が遅れて2012年1月に破産しています。
富士フイルムとは対照的で、コダックは進む方向を大きく誤りました。
そして富士フイルムは大きくかわりました。今や、写真フィルムの売り上げは全体の1%にも満たなくなっています。
3. 変化の原動力は外部の力
デジタル化の大きな波を乗り越える技術変革を可能にしたのは外部の力です。
変革の原動力になったのが他者の技術を柔軟に取り入れ、既存技術と組み合わせて新たな分野で価値を提供する取り組みです。
例えば、画期的な医薬品の開発があります。
医薬品事業では、買収企業の技術と写真フィルムで培った技術・ノウハウを融合させて、エボラ出血熱への効果も期待できるインフルエンザ治療薬のような画期的な医薬品を開発しました。
富士フイルムが外部の力を活用することになった経緯について、『日経ものづくり』2015年3月号では次のように解説しています。
「写真フォルムの需要が急激に減少する中、同社は写真フィルム以外の新しいビジネスを始める必要に迫られたが、当然ニーズの方向は分からない。
顧客ニーズをとにかく聞かなければならなくなった。
『そのニーズは、魅力的なものであればあるほど、我々の技術だけではできないものが多かった』(執行役員R&D統括本部長柳原直人氏)
つまり、第三者の技術や製品。ソリューションサービスを一緒に組み込んでいくことでしか解決できない。
それまで同社が持たなかったもの新たに自前で持つか、持たずに他者のものを使わせてもらうかを判断しながら、課題解決を図っていった」
(出典:『日経ものづくり』2016年3月号)
4. 技術開発では外部を生かすコミュニケーション能力も大切
参考になることが2つです。
自社を大きく変えようと、新たに事業展開すべき市場を探したが、新たに参入する業界のことは何も知らなかったので、顧客に聞くしかなかったこと。
それと、魅力的な話は、自前技術だけでは実現できないことに気が付いたこと。
特に後者は顧客が求める仕様が多様化していたからです。
もはや単純な製品で付加価値を拡大させることは不可能。薄利多売の時代でもないので。
さらに柳原氏は下記のように語っています。
「自分たちの技術を基にこんな製品が造れます、というだけでは、画期的な価値の創出が難しくなってきている」
(出典:『日経ものづくり』2015年3月号)
その富士フイルムはオープンイノベーションによる研究開発をグローバルに加速させます。
その手始めとして、2014年に本社の一角に「オープンイノベーションハブ」を開設しました。
柳原氏は施設の目的を次のように語っています。
「単なる展示ではなく、フェイス・トゥー・フェイスで創造に向けた議論ができる施設を目指した」
(出典:『日経ものづくり』2105年3月号)
お客様の声に耳を傾けて、事業のネタを探ります。
顔を突き合わせて、お客様の熱気も感じながらヒントを掴む。
技術開発のスタイルも大きく様変わりです。
研究室に籠って、黙々と実験を重ねて……という時代ではもはやない。
- お客様に欲しいモノやコト(ニーズ)を、とにかく聞いて回る
- そのニーズを実現させるためにコア技術に何を組み合わせるかを考える
何を組み合わせるかに加えて、それをどこで手に入れるかも欠かせない論点です。
「ほんとうのコア技術」をお客様に聞いてしまうことも忘れない。
多様なニーズに対応するためには社内のみならず、社外の多くの人達と関わることになっていきます。
技術力の競争であり、人間力の競争でもあります。
技術開発でもコミュニケーション能力が問われます。
まとめ
技術開発のスタイルも大きく変わり、外部の力を活用することが欠かせない。
コミュニケーション能力を磨くことも大切である、という話です。