在庫が多いことの恐ろしさを目の当たりにできた|元トヨタマンの目

在庫が多いことの恐ろしさを目の当たりにできた|元トヨタマンの目

2月25日から29日まで、韓国へコンサルティングに行って来た。先月から開始して今回2回目の訪問となる。

昼間は工場の各部署を点検して、夜ホテルに帰ってからはその日の講評をまとめなければならない。

その日のことは、その日のうちにまとめなければ、年をとったせいか忘れてしまうからだ。

 

それに最終日には、全員を集めて講評をしなければならないため、毎日書いていかなければ間に合わない。

私は40歳のころ痛風を患い、それ以来、肉は魚以外は断つというベジタリアンになった。酒も飲めない。

したがって韓国や中国では夜の接待はご無用に願っている。そうしないと韓国、中国でのコンサルタント活動は体を壊してしまうように思う。

 

さて今回の現場視察で大分現場の本音が分かってきた。

それはいくらトヨタ生産方式のことを講義し、実施を指示してみても、彼ら自体がその必要性を感じていないのだ。

その原因はすべて「在庫の多さ」に起因していた。

 

私がトヨタに入社した30年前には、すでにトヨタ生産方式の基本スタイルは完成されており、現場には不必要な在庫は1つもなかった。

当然、部品や製品は現場に置いてはあるが、すべて生産活動に必要な最小限の物であり、すべてに置場が決められていてかんばんがついており、それらは「在庫」ではなく「標準手持ち」と称されていた。

在庫がないという恐怖はすごいものだ。

 

設備でもちょっと故障が長引けば、即ラインに影響してしまう。

万が一車両組立ラインなんかを止めたら、そこに配置されている何百人という人件費をムダにしてしまうことになり、即何千万円の損失になってしまう。

それを防止しようと思うからこそ、常日頃予防保全をきちっと実施するようになるのだ。

 

またかんばんでも現場作業者が少し振り出し忘れをしただけで、その部品納入が遅れて欠品してしまいラインに影響が出てしまう。

従って全員が注意をし合って、全工程を川が流れるようにうまく運営していくわけだ。

しかし在庫が多いということで、トヨタマン全員が恐怖すら感じながら進めている諸施策の必要性がまったく感じることができなくなってしまう。

 

韓国でそれを突きつけられ、呆然としてしまったが、ダテにトヨタで30年飯を食ってきたわけではない。

彼らの状況とトヨタとの相違をしっかりと認識させることから始めた。

以下その要旨をお伝えしたい。

トヨタの現場は緊迫感がすごい

①1ヶ月間はオーダーを固定し、車種単位に日当り生産台数を同一にする。
そうすると全ての部品が同じように1ヶ月間は日当り必要数が同一となる。
こうしなければかんばんを使うことはできない。

②1ヶ月単位の生産の増減とパラレルに要員を増減できるような生産工程にすることを会社は要求する。

③すべての工程が1個流しで、工程に流れがある。

④工程間に必要な在庫は1つもない。
あるのは生産にどうしても必要な標準手持ち(在庫とは呼ばない)

⑤フル生産で必要な要員数が100人とすると、生産量が1/2になれば50人で運営しなければならない。
こうなるとあんどんを活用せざるを得ないであろう。

⑥設備トラブルが少しでも長引けばラインストップになる。
設備が故障しないように予防保全をしっかりやるようになる。
設備トラブルが発生しても、すぐに現場へ急行できるように、あんどんで知らせるようにして、全員がすぐに急行して必死で対策する。

⑦粗材がなくなりそうになれば、ボタンを押して運搬係のあんどんへその品番が点灯する。
点灯した品番の順に、運搬係は粗材を運ぶ。
この順番を守らないと遅れた品番が欠品してしまうほど切迫している。

⑧日当り生産必要数と生産実績数をリアルタイムで表示する。
もし生産実績数が少なければ、後工程のラインストップになってしまうので、全員が出動して対策を実施する。
決して現場任せにしないからころ、労使関係が極めて良好なのだ。
もしあなたが作業者なら、やばいどうしようと感じた時にすぐに上司やスタッフが駆けつけてくれたら本当にうれしく、頼もしく感じるであろう。

 

御社の場合、在庫がいっぱいでまったく緊迫感がない

設備トラブルがあっても在庫がいっぱいあるから大丈夫大丈夫
なるべく早く回復させればいいよ
予防保全なんかやってる工数がないよ

粗材なんか腐るほどあるから、ボタンなんかで知らせる必要なんかないよ
ましてやボタンを押した順番なんて関係ないよ

工場すべてに人の配置が固定されて決まっているから、すべてのことは人が処理できるからあんどんなんかいらないよ
フル生産だともちろん大変だけど、減産になれば暇でしょうがねえよ。
それに生産量は直近まで分からないのだから、すべてフル生産の人員を確保しておくしかないよね
もし生産量が少なかったら暇になるからラッキー!

リアルタイムの実績あんどんなんて作ったって、その時間の実績数が少なくなっても、在庫はいっぱいあるからアクションする必要もないし、そんなものいらないよ

と、こういった具合である。

 

トヨタとは余りにも違いが有り過ぎるので、闇雲にマネしてもだめ。

優先順位付けが重要となるのだ。

 

<優先順位>
①平準化生産(これなくしてかんばんは絶対に成立しない)
②段取り改善(これが進めば必然的に在庫は減少する)
 ニンベンのついた自働化(あんどんにより人の固定が解ける)
③かんばん運用検討
④標準作業
⑤生産性評価
⑥問題解決手法

 

このことは、この韓国企業に限ったことではないのではないか。

極言すれば、トヨタ以外のメーカーは多かれ少なかれほとんどにあてはまるのではないだろうか。

 

元トヨタマンの目
トヨタ生産コンサルティング株式会社


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。