商標とは – キリンビールを例に
どんなものが商標となり、どんな場合には商標権を侵害したと認められるのでしょうか。
世の中には、たくさんの商品があふれています。そして、ほとんどの商品には何らかのマーク・目印・名称がついています。そのマーク・目印・名称が商標となります。
消費者はこのマークなどを頼りに商品を選択します。そのため、商標は商品と切っても切り離せない関係にあるものです。
商標と聞いて、「商標って何?」と思われる方が多いと思います。ただ、商標は商品と一緒に存在するものですので、商品と同じく世の中にあふれています。皆さんの身近なところでも商標を探してみましょう。
たとえば、夜に飲む缶ビールを手に取ってみましょう。キリンビール株式会社が販売するビールに「一番搾り」という銘柄の商品があります。この缶ビールをよく見ると麒麟のマークと「一番搾り」の文字が目につきます。また、「生ビール」という言葉も目に入ってきます。
商標というときには、商品に書かれている文字のすべてがそれにあたるわけではありません。いま挙げた中では、「生ビール」という言葉は、あくまで商品がどういうものかを表しているにすぎず、商標とは言えません。どの会社が作っても生ビールは生ビールだからです。
一方で「一番搾り」という言葉は、商品の「名前」を示しているものになります。麒麟のマークもその生ビールをを誰が作っているのかを示しています。つまり「一番搾り」と「麒麟のマーク」は商標と言えます。
麒麟のマークは、商標登録第30680号として1907年に登録されています。日本の現存する商標登録の中でも比較的古くからあるものです。
明治時代には、この麒麟のマークがついた偽物のビールが数多く販売されていたそうです。そこでキリンビールは、偽物のマークと本物のマークとを区別するために麒麟の髪の毛の中にカタカナで「キ」「リ」「ン」の文字を細かい字で忍ばせていました。
この「キ」「リ」「ン」の小さな隠し文字は現在のロゴにも残っていますから、機会があれば見てみてください。
当時は印刷技術が進んでいなかったため、同じように麒麟のマークの髪の毛の中に細かな文字を鮮明に他の会社が印刷することができませんでした。そのため、本物のキリンビールと他社が作った偽物のキリンビールとを見分けることができたのです。
日本の商標法は明治初期に商標条例として制定されたのが始まりです。当時はまだ商標法だけで商品の目印を守りきるのが難しかったのかもしれません。
なお、「一番搾り」の商標は、商標登録第5297758号等として登録されています。
出典:『商標とは – キリンビールを例に』(発明plus〔旧:開発NEXT〕)