品質クレームや品質不正を防ぐ体質

品質クレームや品質不正を防ぐ体質

1.現場の体質

先日、大手製造企業の品質保証部門で勤務している知人と久しぶりの会話を楽しみました。時節柄、オンラインです。

仕事のやり方が大きく変わったねぇという話から始まってなんだかんだと4時間以上、話し込みました。モニター越しにでも“熱”のこもった会話を楽しめるものです。

 

会話の中で、知人が従事している品質保証業務に触れたとき、興味深いことが話題となりました。「現場の体質」です。

その知人は、同じ企業であっても、工場ごとに現場は独自の体質を持つものだと語っていました。

知人が所属している企業は海外、国内に複数の工場を有しています。「現場」が国内外に多数存在しているわけです。

 

知人はその国内外にある現場の品質状況を取りまとめ、問題があればその解決のサポートをしています。品質状況の確認やクレーム対応で工場へ足を運んで現場で関係者と議論をすることがしばしばです。

そうしたときに感じるのが「現場の体質」。

 

知人も長年、工場の技術者として現場で仕事をしていたので「現場の体質」に違いがあると想像はしていたようです。

が、実際に国内外のいろいろな現場で多様な「現場の体質」に触れて初めて分かったことだけど、こんなにもいろいろあるとは考えてもみなかった……。

 

知人はデータ提出や状況説明、対策立案を現場へ要望します。業務上の要望です。全社で決められたルールであり仕事のやり方ですから、そうした要望に「反対」する現場は、当然のことですが、ありません。

しかし、要望への対応の仕方、アウトプットの内容に「現場の体質」が見えるようです。体質に差があっても構いません。ただし、それが間違った方向へ進む原因になるようでは問題となります。

 

データの提出を求めたとき、迅速に対応してくれる現場がある一方で上司へ、工場長へ相談してからでないと提出できないとなかなか対応してくれない現場があったりします。

また、品質クレーム対策もお客様の立場でクレームの原因を分析して根本対策を考える現場と仕事の手順をちょっと見直せばいいのだろうという程度の対策に留まる現場と様々な対応があるとのこと。

その知人は、現場の体質を踏まえて、品質クレームを未然に防止できよう、事前にいろいろと手を打っていこうと考えています。緊急事態宣言が解除されたら、具体的に動くようです。

 

2.品質クレームを起こしやすい体質

知人との話を手掛かりにすると、品質クレームを起こしやすい現場にはいくつかの特徴がありそうです。観点は「情報共有」と「顧客視点」の2つ。

 

1)現場と管理者との間で「悪い情報」が共有されない職場

品質クレームには原因があり、前兆があります。先手を打てば防止できるものです。それができず、原因が放置されるとクレームという形で現れます。原因を特定する悪い情報が放置されたからです。悪い情報を共有するには、トップが強すぎても、現場が強すぎてもダメだ考えられます。

・現場を引っ張るトップが強すぎると、現場から的確な情報が上がってこない。

・現場丸投げで(現場が強くなりすぎ)状況が把握できないと的確な情報を得られない。

・一体感やチーム力を重視する雰囲気が醸成されていれば、悪い情報を気軽にやり取りできる。

 

2)現場視点が強すぎて顧客視点が抜けている職場

品質クレームでは困っているのはお客様だという考え方に至らないと品質クレーム対策もおざなりな対策に留まります。自職場都合の対策なのでクレームが再発するリスクが大です。

・大手企業を相手にティア1の立場で仕事をしている現場には、力関係もあり、顧客視点のクレーム対策を考える習慣がある。

・自社ブランドを持って販売店や代理店を通じた仕事をしている現場には、顧客の声が届きにくく、顧客視点が持ちにくい。

 

3.品質不正を防ぐ体質

2017年から2018年にかけて、自動車メーカーや素材メーカーで品質不正が次々と発覚しました。無資格者による検査や製品データの改ざんです。なぜ、品質不正が頻発したのでしょうか?品質問題がクレーム発生という形で現れるうちはまだ救われます。顧客へ迷惑を掛けることがきっかけとなりますが、望ましい姿へ直す機会があるからです。

そうした機会すらなく、問題がひた隠しされるのが品質不正。絶対にあってはならないことです。品質クレームの延長線上に品質不正があると仮定すれば、職場における「情報共有」と「顧客視点」が欠けていたからと言えます。そうした体質を放置した結果です。

ですから「情報共有」と「顧客視点」の体質を持っている現場は品質不正を未然に防ぐポテンシャルを有していると言えます。

 

4.不正のトライアングル

ドナルド・レイ・クレッシーの不正のトライアングルという考え方があります。ドナルド・レイ・クレッシーは米国の刑罰学者です。

彼は犯罪調査に基づき、組織の内部関係者が不正行為に至る際の原因となる、三つの要素を導き出しました。動機、機会、正当化です。

これらは不正のトライアングル(fraud triangle)と呼ばれています。これら3つの要素がそろったら不正が起きるのです。(出典:Wikipedia)

1)動機:不正行為を働くことに至った事情がある。

「この製品は絶対に納期を遅らせられない」と上司から言われている。

2)機会:不正行為を容易に可能にする機会や環境がある

不正をやっても、検査はひとりに任されているので、誰も気が付かない。

3)正当化:不正行為を認めたい身勝手な理由付けがある

会社のためにやっているのだから仕方がない。

 

3つの不正リスクが揃ったときに不正行為が発生するとされます。まずは、動機を排除することです。動機がなければ、現場は気兼ねなく、だめなものはだめと言えるからです。

悪い情報を共有する雰囲気が現場にあれば、そもそも動機が生まれません。また、顧客に迷惑を掛けられないという考え方が現場へ浸透していれば、顧客との約束事(設計品質の規定、仕様)とのズレを放置しないはずです。

少しくらいイイや、黙っていれば誰にも知られない、この程度なら顧客も困らない……こうした対応の積み重ねがにっちもさっちもいかない事態になるのは明らかです。

 

5.結局は職場のコミュニケーション力

だめなものはだめといえる職場でありたいです。顧客視点の思考回路を持ち、悪い情報を放置しない姿勢が求められます。

結局は組織のコミュニケーション力が問われそうです。

 

組織活性化の3要素、共通の目的、貢献意欲、コミュニケーション。経営者や管理者が現場へ働き掛ける要素です。

最後の要素がそのまま品質クレームや品質不正を未然に防ぐ手立てとなります。

 

知人との会話でも「やっぱり、互いのコミュニケーションだよね。」となりました。

接触機会の削減が求められていますが、やっぱり一杯やりながらのコミュニケーションはこれからも重要な役割を果たしそうです。

 

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製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)