受注内容で全体図がよくわかる

受注内容で全体図がよくわかる

うちにある機械は全て汎用機で、NC機は一台もありません。

「全く時代遅れ」? の工場です。

このような設備のため、依頼頂く仕事は自然と「NC屋さんが嫌う仕事」となりますので、うちに来る仕事の内容を見ていると、旋盤加工の全体図がよく解ります。

 

M16P=2、M20P=2.5などのネジ切りを汎用旋盤でできる方がだんだんいなくなってます。

切り上げができないのと、バイトが研げないのがその理由だと思います。

一見簡単そうですが、加工したことのある方ならお解かりだと思いますが、径が小さくて、ピッチが荒いネジは汎用旋盤では、バイトの材質が超硬は使えず、ハイスになります。

 

理由は、超硬で使えるであろう最低切削速度から逆算して、その回転数では切り上げもできませんし、機械の親ネジやハーフナットの負担が大きすぎるためです。

例えば、φ20で切削速度が50m/minとしても主軸回転は約800rpm。

φ16では約990rpmとなり、そのような回転で、ピッチ2.5mmや2mmなどの送りを掛けては機械が可哀想ですし、ネジの切り上げもほぼ不可と思います。

 

もう少し回転を落としても使えそうに見えますが、仕上げはだめだと思います。

超硬は、少ない切り込みになるほど切削速度を上げなければ、むしれたような加工面になってしまうからです。

バイトの材質が超硬の場合は使い捨てのチップが市販されていますが、ハイスになると自分で研がなければなりません。しかも、超硬とハイスでは、ネジの切り方が違いますので、その切り方が解らないのだと想像しています。

 

NC旋盤のプログラムに入っているねじ切りパターンや書物に書かれているものは、超硬用のもので、そのままハイスには当てはまりません。

このあたりが、各職人さんの腕の見せ所の一つですね。

残念なことに、このような「腕の見せ所」にNC機を使っている方は、興味がないようです。

 

自分流の技を磨くのはすごく楽しいし、できた時にはすごい達成感があります。

このようなことをひとつずつ積み重ね、職人は成長していくと思うのですが。

特にバイトは「職人の魂」と言われて来ましたが、この言葉の内容もやがては伝わらなくなってしまうのでしょうか。うちに持ち込まれる仕事を視て、寂しささえ感じました。

 

~基本を大切にした技術伝承~汎用旋盤職人養成


1963年大阪生まれ。西尾鉄工所代表。旋盤師、伝統技術継承者◎祖父の代から80年続く大阪八尾市の町工場の三代目。「職人道」を極めた先代のもとで、13才から弟子入りし、昔ながらの職人技を叩き込まれ、家業を一人前にこなした。工業高校卒業後、中堅工作機械メーカーに就職。工作機械(機械部品を産み出す母なる機械。マザーマシンとも呼ばれる)の構造を隈なく学び、23才で独立。最先端コンピュータで制御された「NC旋盤」に対し、職人の「技」と「勘」が頼りの「汎用旋盤」(職人の手で動かす旋盤)をこよなく愛し、現在に至るまで、その加工にこだわり続けてきた。数少ない伝統技術継承者の一人。◎若い世代の人材不足、技術伝承に危機感を持ち、2016年「汎用旋盤職人養成講座」をスタート。教材用に独自開発した「汎用フライス盤」は、設計、加工、組立・調整をすべてひとりでやり遂げ、自身の総合技術力の賜物となった。最近、営業下手な職人の殻を破り、SNSを駆使して「基礎の手技」の重要性を次世代へと訴える。また、異業種の職人を対象に、「いぶし銀の会」を立ち上げ、オリジナル製品の企画、開発など「未来の職人像」を探っている。コンピューター依存が加速する製造業の未来を受け入れつつも、「機械の前に人間ありき」と、代々受け継がれてきた職人の技と精神性の伝承に力を注いでいる。◎2014年「八尾市ものづくり達人懸賞」受賞、2015年日刊工業新聞「マイスターに聞く」掲載、「なにわの名工」受賞◎西尾鉄工所ホームページhttps://nishio-tekkousho.jimdo.com/ 西尾鉄工所技術伝承 https://nishio-tekkousyo.jimdo.com/