匠の技がわざわい|元トヨタマンの目

匠の技がわざわい|元トヨタマンの目

今日あるクライアントと打ち合わせをした。この会社は日本で現代の匠が全て組立てて製品を完成させてしまっていた。

それが海外へ工場を進出させると同時に困難にぶち当たった。外国人に匠の技を伝授しなければならないのだ。

これは非常に困難だ。発想の転換が必要だ。

 

トヨタは生産の増減により、頻繁に要員の出入りがある。したがって新人にもすぐに仕事を教えなければならない。

そのためにカンコツを排除した。

カンコツは人により作業時間に大きなバラツキが出てしまう。

カンコツのある人のことを世の中は「匠」と誉めそやすためか、その人は容易にそのカンコツの秘儀を開示しようとしない。
これではだめだ。

 

頼み込んでビデオを撮らしてもらい改善チームで徹底的に分析して解析していかなければならない。

私がトヨタに入社した頃には、「カンコツを排除」という言葉はすでに過去形になっており、ほとんど全てのカンコツは排除されたあとだった。

カンコツの固まりであろうエンジンがすでに1分で生産されるようになっていた。

 

このクライアントではそのことをこれから始める。

私としては経営コンサルタントのキャリヤとしてはどうしても経験したかった事項だ。

この製品は独自ブランドを持った最終商品だが、意識としては自動車部品と位置づけトヨタへ納入すると考えればよい。自動車部品の品質の厳しさ、改善の進め方をそのまま学べばよい。

 

  • まず最初は匠の頭の扉を開き、その中に入っているノウハウを全て書き出し、標準作業票に全てまとめ組付ライン前に掲示する。海外工場なら広いのでどんなに長くなっても大丈夫だ
  • それを同じ時間単位に分割する
  • そして各単位ごとにペースメーカーのランプを10分間隔ぐらいで並べる
  • それぞれの標準作業票の下にそこで使う工具を配置する
  • 最後に部品供給の棚をライン側に配置する

 

このようなラインを製品種類ごとに全てつくる。

海外工場は広いから大丈夫だ。それがうまくいったら複合ライン化を考える。組付ラインに目処がついた今度は機械加工だ。

ここも一連の機械間の製品の送りは、人が手渡しで1個づつ持って行って加工する。ロット生産ではあるが機械間は1個流しする。

 

まずここから手を付け、段取り改善、機械間の自動搬送など徐々に進める。

今日の打ち合わせ内容はこんな感じだ。前途多難だが全員が1から始められるチャンスだ。

帰りがけに若い社員に呼び止められ、多くの質問を受けた。非常にやる気がある。トヨタ教の宣教師の私としては、まず彼ぐらいを信者1号にしようかとたくらんだ。

 

元トヨタマンの目
トヨタ生産コンサルティング株式会社


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。