動機づけにもとづくチームオペレーションの構築

動機づけにもとづくチームオペレーションの構築

1.経営者が思っているほどには情報は現場に届いていない

仕組みの構築は、「見える化」の構築でもあります。見てわかりやすく、読んで理解できる状況を目指します。現場は工場運営に関するさまざまな情報に触れることをキッカケに考え始めます。

現場に自発性がないとか、やる気が不足していると感じている経営者が意外と気が付かないのは、「現場との情報共有化」です。経営者が考えているほどには現場に情報が届いていないケースが多いです。

 

まずは、工場経営に関するいろいろな情報を現場へ提示して下さい。そのような情報に触れることで、現場は自ら考え始めます。そして情報に触れることで現場は自職場の「今」を理解します。

自職場の「今」を理解することで、何を目指すか、目指すべきか、見えてきます。他職場のことも「見える」ので、相対的にも理解できるからです。その結果、チームとして仕事を進める雰囲気が出てきます。

 

私の経験では、工場経営についての情報開示(見える化)は規模の大きい工場ほど一所懸命工夫しています。興味深い傾向です。

工場の規模が大きいと、経営者自身が直接に現場の一人一人へ説明するわけにはいきません。どうしたら現場と情報を共有することができるでしょうか? かつて勤務した工場では、工場全体での月例報告会や日々の情報提示の仕方の工夫などいろいろと情報に触れる機会があったことを思い出します。

現場への情報開示は、そもそも経営者が現場へ会社の情報を知らせることについてどう考えるかによります。

 

工場の規模が小さくなるにつれて、現場の作業者一人一人の顔が浮かびやすい分だけ、もう十分に現場もわかっていると経営者は考えがちなのかもしれません。

仕組みを考える切り口として、“現場で共有すべき情報”がありました。経営者が思っているほどには、情報は現場に届いていません。今一度、現場と共有すべき情報を整理し、開示して、見える化することを考えたいです。

見える化は現場の自律性を促します。PDCAサイクルが廻りやすくなります。

2.動機づけでチームオペレーションを機能させる

工場運営や工場経営では、見える化が実践されている状況が望ましい姿です。自発的な現場の取り組みを喚起できるからです。

さらに工場運営で欠かせないことは動機付けです。やる気を引き出す、「自律性」「選択性」「有能性」というキーワードで表現できます。

そして、こうしたキーワードに配慮したチーム作りをすること。これが経営者の想いを実現させるため絶対に必要です。

動機付けに裏付けられたチームが現場にあってこそ、効果的な工場経営が実現できます。PDCAサイクルを廻し続ける源は“やる気”です。やる気にあふれた現場チームが工場経営を引っ張ります。

 

工場運営では多くの情報が飛び交います。工場の見える化によって、現場から「情報」が上がってきます。これらの情報を整理・分析し、その結果を経営者へ的確に伝達することは、工場が持つべき重要な機能のひとつです。情報は経営者の判断、評価へ繋がってこそ価値が増します。

現場には、経営者と情報で繋がっているという感覚を持たせることが欠かせません。現場が経営者へ情報を伝達しても、経営者側から反応がない情報の一方通行では現場の継続的な活動は望めません。モチベーションが下がるからです。現場は、こっちが頑張って情報を流してもムダだ、と考えます。これは、とても残念な状況です。

そこで重要となってくるのは、現場と経営者の間で情報の橋渡し役です。現場リーダー役の存在です。

 

現場がしっかり情報を上げているにもかかわらず、その情報を受け取る体制が不明確では、現場は指示に対して不信感を抱きます。逆に、大いに生かされていると実感すれば、責任をもって情報を上げ続けます。必要されているという有能感を感じるからです。

現場へ指示する現場の管理者が決して忘れてはならないことのひとつです。

さて、現場リーダーは情報を経営者へ伝達する役割も担いますが、それ以上に重要な役割は現場メンバーとの連携です。それを、ここでは「チームオペレーション」と表現します。船舶操縦や航空機操縦の分野で使われる用語です。聞き慣れない言葉ですが、チームワークをベースに多機能を発揮する点では、ここで求めている表現にぴったりです。

 

工場ではさまざまな業務が同時進行し、スタッフ部門も含め、多くの作業者の連携で仕事が仕上がっていきます。この「さま」のことをチームオペレーションとここでは定義付けます。このチームオペレーションの中心にいるのが現場リーダーというわけです。

ここに情報を集めます。すると、情報をもとに現場リーダーは担当工程を把握できます。その結果、的確な対応策を現場へタイムリーに指示できます。また、経営者とも情報を共有することができます。

動機づけを原動力としたチームオペレーション。工場経営では重視したい項目です。

3.やる気を引き出し人財育成する

そして、ここでの課題は現場リーダーの役割を担う人財と現場リーダーを支援する各工程のキーパーソンの育成です。会社によって、このあたりの状況はさまざまです。

現時点で現場リーダー役と各工程のキーパーソンが頭の中に浮かぶ経営者もいるでしょう。一方で、全く候補者が浮かばん! そんなことやらせてこなかったから、という経営者もいるでしょう。

人財がいればとても結構なことで、これから構築する“仕組み”が短時間で軌道に乗る可能性が大きくなります。ただ、現時点で人財が浮かばなくても、全く問題はありません。実務を通じて、これから育成していけば良いのです。人財育成の重要性に気が付いた今、この時点で競合よりイノベーションで一歩先んずることになります。

 

時間がかかるからこそ人財育成は、それ自体が工場の大きな財産です。まさに、今から始めます。

能力開発にはOJT、PFF-JT、自己啓発という3種類があります。仕事に関して言うならば、まずOJTです。

座学や研修での学習は、OJTで学び尽くしたのちに知識を整理する目的で実施すれば十分です。実践あるのみ、です。現場で発生している問題を解決する能力を高めたいわけですから、学ぶ手段は実務に限ります。

 

チームオペレーションでは最適な解が唯一存在しているわけではありません。したがって、工場独自の組織文化に裏付けされたやり方に沿って考えます。こうした場合、ベテランの知恵が生きてきます。

何がウチの工場でのチームオペレーションの勘所なのか? いかに若手のやる気を引き出す状況を作り出せるか? こうしたことは現場の事情を十分に理解したベテランの経験を活かすべきです。現場のことは、現場が理解しています。

現場リーダーを中心としたチームオペレーションを組み立てます。そして、現場各工程のキーパーソンを人選して下さい。動機付けをベースにしたチームです。ガンガン機能してくれます。

経営の本質は“他人を通じて、自分の想いを実現することである”という考え方に沿った、自然な対応です。

まとめ

見える化でPDCAを廻し、動機付けにもとづくチームオペレーションをガンガン機能させる。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)