加工硬化

加工硬化

今回は、加工面の誤った認識のことです。

光沢を帯び黒光りしている加工面のことです。

何度も取り上げている技術的な問題なのですが、一向に改善される気配すらありません。各加工者の技術レベルの低下は言うまでもありませんが、過剰すぎるコスト削減が背景にあると思います。加工能率の追及です。

 

「旋削やフルバックの加工面が、光沢を帯び黒光りしていることが良い加工面である」

と思っている方が多いと思いますが、間違っています。

光沢を帯び黒光りした加工面はバイト(チップ)の切れがほんの少し悪いため、表面が加工硬化して形成されたものです。

 

本当にバイトが切れた加工面は、もっと白っぽい色になります。

そんなことはないと思われる方は、ヤスリをかけて見てください。表面が硬くなっているのが解ると思います。

昔は、旋盤加工などでこのような仕上がりの加工面になると、「バイトがあんまり切れてないな」と言ったものですが、今日では、この方がよく切れていると思わされているようです。もちろん間違ってます。

 

製造業全体に言えることですが、素人化が進んだためだと思いますが、この光沢を帯びた加工面は瞬く間に業界に受け入れられてしまいました。

光沢を帯び黒光りした加工面の方が都合の良い「輩」よって、誤った認識を植えつけられたようです。

不幸なことと思います。技術が間違った状態で伝わってしまいます。バイトの砥げない方に、バイトの切れ味が解るはずがありません。

 

どのようにして広まったかを、旋削を例にあげると、

輩は、白っぽい仕上げ面に加工できないため(本当に良く切れたバイトでの加工面)、その品物を排除することから始まりました。

検査の方の取り込みです。

 

まず、検査の方に「光沢のある仕上がり面の方がバイトが良く切れた良い面だ」と信じ込ませたのです。

ヤスリをかければすぐに解りますが、白っぽい仕上げ面に加工できない業者(輩の一部)を排除することになりますので嫌がります。

困ったものです。「赤信号みんなで渡れば怖くない」ですかね。

 

このようにして、本当にバイトが切れた、白っぽい仕上がり面は嫌われ、少しバイトの切れ味の劣る光沢のある仕上がり面が好まれるようになったのです。

コストを追求するのも大切ですが、本当の技術を認めず、間違った事を正当化するのは、いかがなものかと思います。このことにより、失われてしまう技術が悔しいです。

なぜこのようなことになってしまったのでしょうか。

 

やはり、各個人的な技術力の低下だと思います。各個人の技術が高ければ、間違いを指摘することができますし、光沢を帯び黒光りした加工面にはそもそもならないのです。

私は、製造業の素人化をなんとしても食い止めねばと思ってます。

微力ながら、技術や職人の真実をブログ、電子書籍等で訴えて行きたいと思っています。

 

素人化とは怖いものです。

 

~基本を大切にした技術伝承~汎用旋盤職人養成


1963年大阪生まれ。西尾鉄工所代表。旋盤師、伝統技術継承者◎祖父の代から80年続く大阪八尾市の町工場の三代目。「職人道」を極めた先代のもとで、13才から弟子入りし、昔ながらの職人技を叩き込まれ、家業を一人前にこなした。工業高校卒業後、中堅工作機械メーカーに就職。工作機械(機械部品を産み出す母なる機械。マザーマシンとも呼ばれる)の構造を隈なく学び、23才で独立。最先端コンピュータで制御された「NC旋盤」に対し、職人の「技」と「勘」が頼りの「汎用旋盤」(職人の手で動かす旋盤)をこよなく愛し、現在に至るまで、その加工にこだわり続けてきた。数少ない伝統技術継承者の一人。◎若い世代の人材不足、技術伝承に危機感を持ち、2016年「汎用旋盤職人養成講座」をスタート。教材用に独自開発した「汎用フライス盤」は、設計、加工、組立・調整をすべてひとりでやり遂げ、自身の総合技術力の賜物となった。最近、営業下手な職人の殻を破り、SNSを駆使して「基礎の手技」の重要性を次世代へと訴える。また、異業種の職人を対象に、「いぶし銀の会」を立ち上げ、オリジナル製品の企画、開発など「未来の職人像」を探っている。コンピューター依存が加速する製造業の未来を受け入れつつも、「機械の前に人間ありき」と、代々受け継がれてきた職人の技と精神性の伝承に力を注いでいる。◎2014年「八尾市ものづくり達人懸賞」受賞、2015年日刊工業新聞「マイスターに聞く」掲載、「なにわの名工」受賞◎西尾鉄工所ホームページhttps://nishio-tekkousho.jimdo.com/ 西尾鉄工所技術伝承 https://nishio-tekkousyo.jimdo.com/