分かりにくい用語とその意味 (1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味
今回は大型回転機械の軸振動や軸位置などの状態監視に適用される非接触変位センサの精度に関する用語の意味について説明します。
非接触変位センサの精度に関する用語の意味
大型回転機械の軸振動や軸位置などの状態監視には一般的に、API 670規格に準拠した非接触変位センサが使用されていますが、軸振動計や軸位置計として精度はどのように考えたらよいのでしょうか?
API 670規格では表1に示すように、非接触変位センサの精度に関わる仕様が規定されています。
この中で使われている、スケールファクタ(ISF: Incremental Scale Factor)、直線性(DSL: Deviation from Straight Line)、リニアレンジ(Linear range)に関して図1を使って説明します。
表1. API 670規格における非接触変位センサの精度に関わる仕様
1.スケールファクタ(ISF: Incremental Scale Factor)とは?
スケールファクタとは、基準単位長さ当たりの出力変化( Δy/Δx )です。
API 670 規格では基準単位長さを 250 μm としてスケールファクタ基準値を 7.87 mV/μm と規定しています。
また、実測スケールファクタの規定値に対する差であるスケールファクタ誤差を、7.87 mV/μmの±5% と規定しています。
スケールファクタ誤差は、「振動計測時の精度」に関与する値で、
[振動測定誤差] = [振動の読み値]×[スケールファクタ誤差] ということになります。
例えば、スケールファクタ誤差が ±5% で、振動測定値が100 μmであったとすると、その振動測定誤差は±5 μmということになります。
ちなみに、基準単位長さを250 μmとしているのは、API 670がアメリカの規格であり、元々10 mils (0.01 inch) を基準単位長さとしていたためです。
正確には、10 mils = 254 μm ですが、基準単位長さが 254 μm という中途半端な値では扱いにくいので 250 μm としています。
2.直線性(DSL: Deviation from Straight Line)とは?
API 670における直線性の定義は、傾き 7.87 mV/μm の最近似直線に対する実測データ(校正曲線)の偏差 d であり、±25.4 μm以内と規定されています。
これは軸位置計のような変位測定に対する精度に対応しています。これは測定値(軸位置の値)に係わらず、どの測定点においても最大±25.4 μmの誤差を含む可能性があるということになります。
一般的に測定器の直線性は、フルスケールに対するパーセンテージ (% of F.S.) で表されることが多く、例えばフルスケールが2 mmの場合、±25.4 μmは、±1.27 % of F.S. ということになります。
3.リニアレンジ(Linear range)とは?
リニアレンジとは、上記の①のスケールファクタと②の直線性がAPI 670規格の規定値を満足する変位 x の範囲のことであり、これが2 mm以上あることが要求されています。
通常、このリニアレンジを変位センサのフルスケールとして、直線性のパーセンテージ表記の分母として使います。
したがって、リニアレンジを 2 mmとすると、上記の②で例として述べたように、API 670規格における直線性の要求仕様は±1.27 % of F.S. ということになります。
上記のスケールファクタと直線性に関する説明の概要を表2に示します。
出典:『技術コラム 回転機械の状態監視や解析診断』新川電機株式会社