作業要領書の作成からすべてが始まる|元トヨタマンの目

作業要領書の作成からすべてが始まる|元トヨタマンの目

1.基本となる作業要領書の作成

これにより大くくりな全体像を万人に把握させることができる。

しかし具体的な作業内容を教えようと思えば、より詳細な説明が必要になる。

作業要領書の作成からすべてが始まる_01

2.加工内容のビデオ撮り

ビデオを定点にセットして加工内容のビデオ撮りを行なう。

3.より詳細な作業要領書の作成

そのビデオを作業者に見せながら、新人に説明する内容を事細かに口頭でしゃべらせる。

そしてそれをまたビデオ撮りしておき、後でその内容を紙に書く。

さらにその紙に書いた内容を作業要領書としてまとめる。

作業要領書の作成からすべてが始まる_02

4.トヨタの作業要領書の内容

自動機でもこのように細かく作成しているのだから、手動機の場合はこの数倍細かくする必要がある。

刃具取り替え作業要領書……略図もつける

作業内容(急所……正否・安全・やり易い)

(1)チップ締め付けボルトをゆるめる(ブレーカーを左手で支えながら4ミリのレンチで)

(2)チップを外す(定位置に置く)

(3)チップおよびホルダーの取り付け面を清掃する(油分がなくなるまで)

(4)新しいチップブレーカーを取り付ける(奥まで)

(5)チップブレーカーの締め付けボルトを締める(チップを押さえながら)

部品加工作業要領書……略図もつける

作業内容(急所……正否・安全・やり易い)

(1)パレットから粗材を出す(右手で)

(2)CK239ワーク取外し・取付け(センター浅すぎは後工程FH、GP工程で危険):品質チェック50個で1個、ゲージは目視

(3)HM299ワーク取外し・取付け(両センターに確実に取付けること)

(4)GC143ワーク取外し・取付け(貫通状態を裏側から確認する):品質チェックは全部、ゲージは目視

(5)CJ988ワーク取外し・取付け(取付け面の切粉清掃)

(6)YM123ワーク取外し・取付け(前面が取付け面)

(7)YY114ワーク取外し・取付け(ブッシュは油溝が円周に切ってある方を型に入れる)

(8)YM127ワーク取外し・取付け(前面が取付け面)

(9)CS239ワーク取外し・取付け(光明丹80%以上):品質チェック10個で1個、ゲージはPS

 

大企業が中国などの外国へ進出する場合、「図面」と「標準作業票および作業要領書」の両方を準備して操業を開始する。

しかし中小企業の進出で、日本では熟練工に頼っていたため、「図面」しか用意できずに操業を開始する企業がある。

このような中小企業は千載一遇のビッグチャンスと捉え、徹底的な「標準作業票および作業要領書」の作成に努力しなければならない。

 

5.新人の現場実習

熟練工の育成には何年もかかる。

そのような工場では、新人を教育として受け入れたら、その新人はまったく戦力にならないため、その新人の工数は損失にしかならない。

そればかりか、熟練工の工数を割くことになり、その部分も大きな損出となる。

しかし工程化しつつ、その工程を分割し、標準作業票や作業要領書を作成していけば、新人の育成が非常に短期間でできるようになり、受け入れた新人が戦力になる。

さらに時間を割いて口頭で説明していたことが、あらかじめ文章化されているため、教える方の工数もかからない。

これにより新人の現場実習が、会社の損益に影響しなくなり、工場の拒否反応もまったくなくなる。

私はトヨタに入社して、3ヶ月の現場実習を経験した。

しかし当時、ホンダでは1年間の現場実習を行なっていたと聞いた。

この会社も、新人の現場実習を組立工程1年、加工工程1年にしてほしい。

そうすれば、営業マンの質をセールスエンジニアに向上させられる。

この会社の場合は、製品の機構がIT制御までの複雑化はないため、工場のつくりさえしっかり経験させれば、事務屋でも十分優秀なセールスエンジニアにすることは可能だ。

 

このように改善を進めていけば、会社全体に改善の効果が波及していき、すべてが良い方向に向かっていく。

その際、一番うれしいことは、従業員が成功体験ができることだ。

改善効果で、自分の仕事がうまく回っていくことを経験することは、従業員に強烈なイメージを与える。

それにより従業員が活性化する。

 

6.更なる発展

作業要領書には各作業の主要時間も記載し、作業の標準化・基準化を進める。

これにより各工程での所要時間が明確になり、これが1個流しのベースとなる。

ある程度のベースがそろった段階で、製品を選定して1個流しのトライをしたい。

3つぐらいの機械をベルトなどでつなぎ、1つ加工したら次の機械へ送る。

それを目の当たりにした作業者はきっと考え出してくれると思う。

ロット生産を続けていく限り、考えはまったく発展しない。

 

7.外注部品メーカーにも

中国では外注部品メーカーに対しても、図面を渡して説明するだけで、「後はよろしく」状態だ。

結果として不良が多発する。

この場合はその部品メーカーへ出向き、不良を発生させた作業のビデオを撮ってくる。

それを自社の現場作業者や管理者に見せて、正規の方法を事細かにビデオを見ながら語ってもらう。

それをまたビデオ撮りしておき、後で担当者がそれを基に作業手順書をつくる。

そしてそれを部品メーカーへ持っていき、遵守させるようにする。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。