仕組みで生かす○○情報と○○情報
1.仕組みは工場経営で絶対に欠かせないモノ
仕組みは、カイゼン活動やイノベーション活動を展開する上で欠かせないモノです。ゴールへ至るためには、活動状況をチェックし続ける必要があるからです。
そして、チェックのためには比較するための判断基準や評価基準が不可欠です。仕組みがあれば、判断基準がはっきりします。
判断基準さえあれば、活動を望ましい方向へ修正させることが可能です。ですから、活動が行き詰まった時にこそ判断基準の威力が発揮されます。
現状と照らし合わせるモノさえ持っていれば、目標への適切な軌道修正ができます。
仕組みは経営方針や経営計画を明確化し、進むべき方向を示します。“羅針盤”の役割を果たしてくれます。
カイゼン活動等、新たな取り組みを始めても長続きがしないという声を耳にすることがあります。
こうした工場で共通していることとは……
それは会社に、あるいは工場に業務を評価する仕組み、判断基準が存在していないことです。
判断基準、評価基準を持たずにあらゆる活動を始めることに問題があります。目隠しされながら出航するようなものです。カイゼン等の取り組みを短期間で終えるならば、気合いや勢いで成果が出るでしょう。
しかし取り組みの多くでは、革新的な成果が期待されています。そしてこうした取り組みでは、多くの時間が費やされます。
ですから、常に客観的に判断し評価する基準がなければ、時間が経過するにつれて、進捗状況や今後の見通しが徐々に曖昧になってしまいます。
今後の見通しがつかない仕事に、現場が動機づけられるでしょうか? 取り組み自体がうやむやになってしまう背景がここにあります。
旗振り役の経営者自身の“熱い情熱”は重要な要素ですが、それだけではないということです。
仕組みの構築と定着は工場経営で絶対に欠かせないことです。日常の生産活動を通じて試行錯誤を繰り返し、修正を加え、積み重ねる……。
こうした地道な取り組みが継続して構築され、定着していくのが仕組みです。
2.仕組みで生かされる2種類の情報
工場運営はいろいろな活動で構成されています。
生産管理や原価管理、品質管理や安全管理、小集団活動やカイゼン、等々。
工場ではさまざまな情報が飛び交っています。全ては、お客様へ所定の品質、価格、納期で製品をお届けするためです。
こうして飛び交っている情報には2つの種類があります。フロー情報とストック情報です。
フロー情報は、情報それ自体を伝えることに目的があります。モノづくり工場ならば、少なくともこの手の情報は黙っていても生まれます。
生産指示は代表的なフロー情報です。
情報を発信する側と受け取る側があり、生産管理担当者から現場へ対して発信されます。
現場にとっては、新たな行動を起こすきっかけです。
新たに受注した製品Aの売値は○○で、目標利益は○○らしい。
そのために歩留り○○%以上、○○日以内で○○セットを生産しなければならない。
そこで、生産工程は○○工程からスタートさせ、次に……。
こうした情報を受け、現場は動き始めます。
一方、ストック情報の目的は、比較することにあります。蓄積された情報、それ自体を活かす姿勢があるかどうかがポイントです。
ですから、比較する意図がなければ活用されません。この点が、フロー情報とは異なる点です。
生産実績はストック情報のひとつです。
製品Aを10個、納期10日で出荷できた実績があったとします。ここで、若干サイズが大きい以外はほぼ同一仕様の製品Bで10個の受注がありました。
単価はサイズアップによる材料費と加工費増分上乗せし、納期はサイズアップによる工数増はなさそうなので10日で考えよう……。
製品Bの生産実績を活かせば、比較することで製品Bの検討ができます。新規受注品の見積もりを作成するケースでしばしばみられます。
3.仕組みを構築する際のポイントはストック情報の共有化
仕組みを構築する際に、重視すべきポイントは情報の共有化です。そして、情報には2つの種類があります。フロー情報とストック情報。
仕組み構築に先だって、まず自社工場で共有されている情報を整理します。すると、ストック情報があまり活用されていないことに気づきませんか?
生産性の向上や現場改善を推進するのに生産実績があまり生かされていない。
モノづくり現場である以上、フロー情報は自然と現場へ流れてきます。
しかし、生産の実績を情報共有し、工場経営に活かしているケースは少ないです。
規格品の受注生産で生産管理の業務を担当していた頃の話です。生産管理担当として、自分で検討した工程で生産指示を出していました。
ある時現場から、「生産実績を踏まえて指示してほしい」との要望がありました。生産指示で設定された指定の所要工数が実績と異なり、現場ではやりにくかったようです。
今考えると、ずいぶんと“乱暴な”生産管理担当者でした。全社でも生産実績データを活かす土壌が無く、あくまで個人ベースの努力で対応していた時期でした。
ですから、生産実績のデータベースのようなシステムはなかったのですが、現場は経験的に実績を把握していたということです。
そこで現場の協力をもらいながら実績を整理し、モデルケースを組み立てました。その結果、生産工程の標準化が進み生産指示を検討する工数が半減できました。
くわえて、情報の精度も上がりました。
4.情報的経営資源の蓄積
現場の実績情報を使える形にした上で、蓄積していく作業は手間を要します。
したがって、ストック情報を活用するには明確な工場経営上の方針が必要です。さらに、蓄積した情報も使われなければ、蓄積していく作業自体の意味が薄れます。
つまり、ストック情報の活用は、全社で一貫した方針があって初めて機能する類の活動なのです。それには経営者の明確な経営判断が不可欠です。
さらに、ストック情報はフロー情報よりも蓄積されたデータのメンテが必要なので、現場で活用されにくい一面があります。
ただし、こうしたことを着実にできる現場は確実に“強く”なります。
なぜならば蓄積されたデータは工場独自の財産であり、競争優位性を維持する源になり得るからです。
そして、ストック情報から生まれるのが判断基準や評価基準です。
ですから、仕組みを構築するためにストック情報に注目して、その情報の活用方法や蓄積の仕方を工場独自に極めてゆくことは、地味ながらとても大切なことです。
5.IT導入の時の留意点
ストック情報はデータベースによって蓄積されます。
したがって、ストック情報の活用にはITの導入が効果的であり不可欠です。
ITを導入することで効果があった! という理由は何か、複数回答してもらった結果を下記に示します。(出典:2013年版中小企業白書)
目的・目標が明確であったことを挙げる企業が多いです。
判断基準や評価基準を決めるために生産実績を活かしたい場合、データベースを構築するには何が必要になるのか、使う側がしっかりとシステム開発者へ伝えることが大切です。
業者へ丸投げ、お任せではダメです。当然ですが、明確な目的があっての仕事です。
まとめ
仕組みを構築する際に重視すべきことは情報の共有化であり、フロー情報とストック情報の2つの性質を生かすことである。