人件費を○○と考えて付加価値生産性を向上させる

人件費を○○と考えて付加価値生産性を向上させる

常識を問い直す程の視点でアイデアを絞って、やる気を引き出す環境を作り人件費という投資の付加価値生産性を上げる、という話です。

 

付加価値生産性を向上させるための2つの考え方です。

・やる気を引き出す環境を作り出せば、現場はそれに応えようとすること。

・常識を問い直す程の視点でアイデアを絞り、それに挑戦すること。

1.仕事を時間で評価している工場は生き残れない

仕事の価値を「時間」で評価していると現場は残念な思考になってしまいます。

長時間勤務 = 給料が増える

このような思考の元では、知恵を絞って付加価値を拡大させる発想は生まれません。

 

頭ではなく、時間さえ使えばイイ状況が許容されるからです。

労務費は固定給部分と残業部分に分けて眺めます。

そのうち固定給部分は、付加価値拡大のための投資あるいは資産と考えます。

 

そして残業部分は、工場の生産形態や担当者の職務内容から、その妥当性を検証します。

固定給部分を投資や資産と捉えると、その効率性が気になってきます。

すると、管理者は部下へ付加価値拡大に貢献する仕事をさせ、単純な作業はなるべくさせないようにしようと考え始めます。

 

必然的に、残業を発生させないで、付加価値を拡大させる仕組みができないかを考えたくなる。

仕事を時間で評価せず、結果や質に注目した方が人の本質に配慮した対応であることに気付くからです。

存続と成長のために拡大させるべきは仕事量(時間)ではなく付加価値です。

 

こうした認識がなければモノづくり工場での成長はありえません。

仕事を時間で評価しているうちは、やる気の源泉である自律性も高まらず「やらされ感」たっぷりの職場ができてしまいます。

こうした工場がこれからの時代に生き残ることは絶対にありません。

2.現場リーダーA君に気付かせてもらったこと

自動車部品の生産現場管理者を担当していた時、仕事を時間で評価してしまい失敗したことがあります。

とても仕事熱心な現場リーダーA君がいました。

中途採用でしたが、積極的に業務を習得し、周囲とのコミュニケーションにも長けていて、とても頼りになる若手人財でした。

 

時期を見て現場管理者への昇格を会社へ提案しようと考えました。

そして、入社から2年ほど経過した後、会社へその旨提案し受理されました。

管理者の給与は職務給のように扱われることが多いです。

 

基本給に管理者としての手当てが上乗せされ残業はない。

昇格時、A君は現場リーダーとして毎日1時間ほど残業していました。

そして、管理者に昇格するにあたっての昇給額は日々の残業換算で2~3時間程度であったので、彼に昇給額の規模感を伝えるため「毎日の残業2~3時間分くらい給料が増えるよ」と話しました。

 

つまり、よく耳にする管理者になったとたんに残業がつかず、かえって手取りが減ってしまい、モチベーションが下がるということはA君には起きないよ、ということを具体的に伝えたかったわけです。

管理者として現場で仕事を始めたA君の仕事ぶりは期待以上でした。

意欲的に業務に取り組み、現場を引っ張ってくれました。

 

その一方で、残業が毎日2時間、3時間に増えていました。

残業増は特別に気にかけず、「頑張っているな~」と眺めていました。

ある時、A君に「管理者の立場で仕事もたいへんかもしれないけど、給料も上がったことだし頑張って!」と気軽に声をかけた時のことです。

 

彼からの言葉にハッとしました。

「残業2~3時間分の給料が上がったのだから、その分仕事しないといけないと思ってガンバリマス!」

管理者として2~3時間残業しなければならないと上司からの言葉を解釈していることに気付きました。

 

A君に改めて説明しました。

昇給したのはこれまで現場で成果を出してくれたからであり、これからも現場を引っ張る役割を担ってもらいたいから。

決して長い時間働いて欲しいわけでない。

 

管理者は率先して定時で上がれるように頑張るべきでもあるよ(と自分のコトを棚に上げておいて)とも伝えました。

管理者になったので当然、やらねばならない業務が増えますから、従来のやり方では残業が発生していたかもしれません。

それからはA君も仕事のやり方に工夫を加えたようで、しばらくして以前と同様に1時間程度の残業で退社する仕事のペースを定着させました。

 

勤務時間は短くなったわけですが、仕事の質が下がるようなことは決してなく、かえって、ドンドン新たなことに挑戦し始めていました。

このことがあってからは仕事を時間で評価することをやめました。

振り返ってみれば、長時間働いたから良い結果が出たかといえばそうでないことにも気が付きます。

 

長時間、夜遅くまで仕事をしなければならないのは、トラブルが発生してその対応を迫られている時がほとんどでした。

好ましい結果が得られる時は、意外と順調に仕事が進んでいるものです。

(当然、そこへ至るまには累積で多くの試行錯誤がありますが)

 

これから中小モノづくり工場で求められるのは付加価値の拡大であり、付加価値生産性の向上です。

知恵を使わねばなりません。

経営者は現場から極力、肉体を駆使する作業を排除し、その代わりに頭を駆使して知恵を出しやすくする環境づくりが欠かせないです。

 

どのような環境なら知恵が発揮してもらえるだろうか、と考えることが肝要。

 

・一方的な指示のみの職場

・現場の頑張りを公平に評価する仕組みのない職場

・経営計画や事業計画がなく将来目指すべき姿が提示されていない職場

・「やらされ感」たっぷりの職場

 

等々……。

こうした職場で現場は知恵を発揮しようという気になるでしょうか?

知恵を発揮する気を起こさせない現場をイメージすればやるべきことが見えてきます。

3.スウェーデンでの取り組み

働く環境をいかに整備して知恵を発揮しやすい状況を作り出すか。

『日本経済新聞』2016年3月20日の特集記事はとても興味深かったです。

1日8時間労働という常識を問い直す取り組みがスウェーデンで広がっています。

 

トヨタ自動車系の販売社会トヨタ・センター・イエーテボリのエンジニアは午前と午後の2交代制で1日6時間だけ働くというのです。

8時間勤務の時は大変だった。

車の修理で従業員達は疲れ、納車は最大1ケ月待ち。

 

顧客の不満も募った。

そこで労使で話し合い営業時間を延ばす一方、1人当たりの労働時間を6時間に減らした。

給料は減らさず人員を2割増やしたのだ。

 

改革の成果はすぐに出た。

「6時間なら集中力が続く」と現場が活気づき、納期は最短で4分の1に短縮。

顧客の評判も高まり、人件費が増えても売上高と利益は5割超増えた。

 

「働き方のカイゼンの結果だ」

経営者のマルティン・バンクは胸を張る。

(出典:『日本経済新聞』2016年3月20日)

 

付加価値生産性を向上させた事例です。

2つのことに気が付きます。

 

・やる気を引き出す環境を作り出せば、現場はそれに応えようとすること。

(それが画期的であればあるほど頑張ろうとします)

・常識を問い直す程の視点でアイデアを絞り、それに挑戦すること。

(ここでは、1日8時間労働という常識を問い直しています)

 

3-1.やる気を引き出す環境を作り出す

勤務時間を8時間から6時間へ25%短縮したにも関わらず給料据え置きを決断した経営者は、人間の本質を理解していた。

それに加え、経営者の期待に応えて成果を出した現場もスゴイ。

現場と経営者との信頼関係があってこその結果です。

 

人件費を増やしてでも実行して成果を上げようというのは投資の発想です。

人件費を費用としか見ない人には絶対に思いつかない観点です。

人件費(主に固定費)をいかに効率よく使って付加価値を生み出そうかと考えることにより、仕事を時間で測ることは無くなります。

 

そして経営者は現場が最大のパフォーマンスを発揮できる環境を作り出します。

この事例では、それが給料は従来通りで勤務時間25%減。

これにより、投資を上回る成果を出すことができました。

 

今後は自社工場の現場を信じて画期的な場を作り出すセンスが求められます。

現場を信じればやる気を絶対に引き出せます。

 

3-2.常識を問い直す程の視点でアイデアを絞る

1日に8時間は働くものだという思い込みを捨てることで画期的なアイデアが生まれました。

さて、8時間労働が定着したのは20世紀初めだそうです。

1919年国際労働機関が「1日8時間・週48時間」を労働基準に定めています。

 

こうした労働基準が定められることになる背景をたどると、18世紀半ばから19世紀にかけてイギリスで起こった産業革命までさかのぼるらしいです。

当時のイギリスでは「労働時間が長ければ長いほど生産性が上がる」と考えられていたため、労働時間は1日14時間で、長いときでは16時間から18時間にもなったそうです。

そこで、健康上の問題等で労働者による8時間労働制導入が要求される中、1919年に開催された国際労働機関第1回総会で「1日8時間・週48時間」が国際的労働基準として定められました。

(出典:『Gigazine net』2014年07月23日「8時間労働が誕生した経緯と労働時間を短縮すべき理由」)

 

要するに1日8時間労働は100年も前の社会情勢を踏まえて決まったことであり、付加価値を生み出す原動力が「肉体・体力」となっていた時代が基準というわけです。

一方、今後は、現場も一緒になって知恵を絞って付加価値生産性を上げねば、少子化、高齢化、人口減少等、様々な外部変化へ適切に対応できない時代です。

100年前と同一の基準で考えることの方が不自然です。

 

人件費を投資と考え、過去の慣習にとらわれることなく、その効率を向上させようと知恵を絞ればアイデアが出ます。

アイデアが画期的であればあるほど、現場は盛り上がりやる気を出し、経営者といっしょになって挑戦する雰囲気が醸成されることをスウェーデンでの事例は教えてくれます。

まとめ。

付加価値生産性を向上させるための2つの考え方。

・やる気を引き出す環境を作り出せば、現場はそれに応えようとすること。

・常識を問い直す程の視点でアイデアを絞り、それに挑戦すること。

 

常識を問い直す程の視点でアイデアを絞って、やる気を引き出す環境を作り人件費という投資の付加価値生産性を上げる。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)