人の命を救っている現場に、よくない要求はやめよう|元トヨタマンの目
トヨタの工場でもラインストップは日常茶飯事だ。
少しの時間のラインストップは「チョコッとだけ停止する」ということで、「チョコ停」と呼んでいた。
1つ1つのチョ停では、全体のライン運営に直接害は及ぼさない。
しかしこれが積もり積もれば、ラインへの影響だけには留まらず、会社損益にまで毒がおよんでしまう。
この1つ1つのチョコ停に対して真摯に向き合って、
その1つ1つから問題点を見つけ出して、
その真因を追求して、
その真因に対して対策を打って、
その成果を評価してみる。
そして思うような成果が出ない場合は、もう1度今やった問題解決のサークルをも一度回してみる。
できるまで何度でも回してみる。これがトヨタ工場の日常だ。
さて、このチョコ停で終っていればいいが、そのチョコ停が長時間停止したままで回復しなかったりする場合も当然ある。
これはドカッとした時間停止するので、「ドカ停」と呼んでいる。
もしドカ停が発生すれば一大事だ。
トヨタの部品メーカーも含めた全ラインの停止へと発展してしまえば、それこそ何千人、何万人という作業者を遊ばしてしまい、会社は意味のない労務費を払わなければならなくなってしまう。
もう全員必死だ。
保全作業者、製造部技術員、現場作業者、製造部係長、製造部課長などが寄ってたかって復旧するために最善の努力を尽くす。
生産管理課は、このドカ停が長引いてしまう場合、前工程や後工程をどのようにラインストップさせていくかのシュミレーションを大至急行なって関係部署に連絡しなければならない。
被害が大きくなればその度合いにより、偉い人に連絡しなければならない。
気が狂いそうな緊急事態時に、非常にわずらわしいと思われるかもしれないが、トヨタの場合は簡単だ。
「こうこうこういう理由でラインが止まりそうです。すぐ現場に来てください」
偉い人でも役員ほど偉くなってしまえば、現場なんかへ来たって付加価値をつけられないだろうから、後で責任だけ取ってもらえばいい。
役員などの責務は、日頃から実働部隊の訓練にきちっと工数を割き、怠りなくそれを実施させ、緊急事態発生時に彼らが最大の力を出せるようにしておくことではないか。
役員などは「緊急事態発生時に実働部隊100%を発揮できるか」ということで結果責任を問われるだけだ。
実働部隊が緊急対応に精一杯で連絡する余裕すらない場合などいくらでもある。
今回のイージス艦と漁船との衝突事故は人命救助という地球より重い責務が発生している。
緊急事態発生時、特に今回のような人命救助が必要な場合は、現場の人間で行うのは当たり前だが、それにも無理があるようなら、次に考えるのは実際に働ける機器や人員を召集することだ。
その段階で大臣や総理へは自動的に一報が入るようにマニュアル化しておけばいい。
今回、大臣や総理への連絡するのに1時間以上かかったからけしからんとどっかのマスコミが吼えている。
そんなことをあげつらっていると、幕僚長なりの指揮官はトップへの連絡に全精力を傾注することになってしまわないか。
指揮官の頭の中は100%どのような実働部隊をどう稼動させるかという思考が入っているべきではないか。
もしも敵が不意に襲ってきて、国民が犠牲になるような場合に、まず敵を撃破することに全力を傾けるのは当たり前だ。
そんな時でもマスコミは自衛隊に対して、最低10分後に防衛大臣に連絡を入れ、20分後には総理大臣に連絡を入れろという主張をするのか。
まさに平和ボケもはなはだしい。