中長期計画は経営者のためだけにあるのではない

中長期計画は経営者のためだけにあるのではない

中長期計画の大切さを理解している経営者は現場からやる気を引き出す重要性を知っている、という話です。

 

中長期計画を作成していますか?中長期計画は現場の動機付けになることをご存知ですか?

1.半数以上の中小経営者は中長期計画を策定している

中長期計画を策定している中小企業はどれくらいあるでしょう?

 

2016年版中小企業白書(p446)に帝国データバンクによる調査結果があります。

「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」2015年12月実施から。

調査対象の企業数はn=3,962。

 

中長期事業計画作成の有無を尋ねています。結果は下記です。

 

策定している:2,102(53%)

策定したことがない:1,860(47%)

 

半数以上の中小経営者は中長期計画を策定しています。

 

さらに、中長期計画を策定する理由を尋ねています。理由のトップ3が下記です。(複数回答)

「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」2015年12月実施から。

調査対象の企業数はn=1,735。

 

1.従業員と共有し成長への動機づけが行えるため(70.8%)

2.実績値と計画値を比較し、自社の課題を明らかにできるため(66.5%)

3.事業の見直し、組織体制の構築に役立つため(58.9%)

 

中長期計画を策定したからと言って、必ずしも利益が出るわけではありません。

逆に、中長期計画が無くても立派に利益を出し続けている経営者の方々も多数いらっしゃいます。

  • 今のやり方でも利益が出ているのだから、計画の必要性を感じない。
  • 計画は自分の頭の中に入っている。

こうした声をお聞きします。

これまでの実績に敬意を表しつつ、それでもやはり中長期計画を策定して事業を展開することをお勧めしたいのです。

 

2.中長期計画をお勧めする理由

中長期計画をお勧めする理由は明確です。

今後、5年先、10年先、製造業の現場が大きく「変化」するからです。

 

人財力やモノづくり力に代表される現場力の大切さは、今後も不変です。

現場力の重要性は、これからも変わりません。

そうした経営環境のもとで、現場力を磨き上げる「道具」がドンドン進化しています。

 

今後、従来にも増して、生産/製造技術に関連した制御や計測の固有技術に磨きをかけねばなりません。

工学的因果関係をより深く明らかにするためです。

これがモノづくりの原理原則にかかわる最重要課題に他なりません。

そして、磨きをかける道具として、IoT、AI、ビッグデータ等のITがドンドン加わってくるのです。

 

確かに、こうしたITを活用しなくても、モノづくりの原理原則にかかわる最重要課題の検討はできます。

しかし、こうした道具を上手に活用した現場とそうでない現場を比べるとどうなるでしょうか?

数年のうちに、挽回不可能な程の差が表れてくると思いませんか?

そこで、中小製造業の経営者の方々には、先手を打って、存続、成長が可能な状態に至っていただきたいです。

 

企業は、そもそも、変化適応業とか変化創造業と言われます。

ですから「変化」に上手く対応する道具を持っていただきたのです。

それが、中長期計画であり、モノづくり事業という航海をするための羅針盤です。

羅針盤を持つことによる効果は、理由のトップ3で見事に表現されています。

 

3.理解している経営者は知っている

先のアンケート結果を眺めます。

まず3位は、「事業の見直し、組織体制の構築に役立つため」です。

意思決定の判断基準を提供してくれるということです。

現状を打破して、事業活動を1ランクアップさせたい、といつも考えている前向きの経営者は、現状維持をよしとしません。

ですから、事業の見直しや組織体制の再構築を常に考えています。

そうした時、何を判断基準にして事業の見直しや組織体制の再構築をするのか?

経営者が設定した将来の目標、夢が判断基準です。

それは中長期計画で明確に表記されています。極めてクリアです。

 

次の2位は、「実績値と計画値を比較し、自社の課題を明らかにできるため」です。

現状と比較する客観的な数値を提供してくれるということです。現在の立ち位置を把握するためです。

「比較」は大切な作業です。儲かる工場経営では極めて重要な論点です。現状を常に何かと比べます。

今の立ち位置を知る、進捗を知るために欠かせません。現場の作業標準のような役割を果たします。

 

「カイゼン」の著者で有名な今井正明氏は、標準がないところにカイゼンはないと言い切っています。

儲かる工場経営に当てはめると、計画がないところに儲かる工場経営はないと言ったところです。

 

そして、1位は「従業員と共有し成長への動機づけが行えるため」です。

中長期計画の存在が現場のやる気を引き出すということです。

中長期計画の大切さを理解している経営者は現場からやる気を引き出す重要性を知っています。

工場経営の本質は、他人に動いてもらって自分の想いを実現させることです。

この原則を、多くの経営者の方々と共有したいです。

 

中長期計画は経営者のためだけでなく、実は現場のためにも役立ちます。

工場経営は、経営者が一人で汗をかくものでありません。他人に動いてもなんぼのものです。

ですから、現場にいかに自発的に、意欲を持って動いてもらうかどうかは、将来の豊かな成長に大きく影響します。

やる気を引き出す仕掛けや工夫が必要なのです。

そうした中でも、優先順位を上げて取り組みたいのが、現場が抱く将来への不安への対応です。

 

4.見通しを示せば現場は頑張れる

人生をかけて、会社を信じて、現場の仲間は汗をかいています。

この先、5年後、10年後、20年後、どうなるのだろう、というのは現場の素朴な疑問であり、不安です。

 

ですからその不安を、まずは取り除きます。そのために「見通し」を示すのです。

「見通し」を示すことで、今がつらくとも、現場は頑張れます。

会社のトップが将来の夢に向かって頑張ろう!と宣言してくれたのですから。

現在、少々厳しい対応があろうとも、皆で頑張れば将来の夢に近けるのです。

中長期計画は、そうした経営者の意思を現場に示します。

 

10年ロードマップでは、カイゼンとイノベーションを組み合わせた中長期の計画を策定し実行します。

実行するための仕組みを作り上げます現場のやる気を引き出す多様な仕掛けをします。

そうすれば、経営者の方々の不安も払拭できるのです。

 

中長期計画を作成していますか?

中長期計画は現場の動機付けになることをご存知ですか?

 

まとめ。

中長期計画の大切さを理解している経営者は現場からやる気を引き出す重要性を知っている。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)