中小企業の強みを活かし超短納期化に挑戦する

中小企業の強みを活かし超短納期化に挑戦する

付加価値拡大のために、中小企業ならではの強みである小回り性や機動性、自社工場の強みに焦点を当てた時、納期短縮化は付加価値拡大に繋がりませんか?

 

付加価値を拡大するために、従来にない製品を開発できればイイけど。

今のところは思いつかないし、そもそも、ウチの製品にはあまり、カスタマイズ化や多品種化のニーズはなさそうだ……。

工場の製造過程で、何か付加価値を高めることはできないだろうか?

 

過程品質という観点から考えると、「短納期化」も顧客に喜ばれる可能性は大いにあります。

1.製造過程から顧客ニーズを探ってみるのも手である

消費者の嗜好の多様化と希望する仕様・品質レベルの高度化の流れに対応して、モノづくり工場が目指すべき姿の一つに、マス・カスタマイゼーションがあります。

製品の高付加価値化を狙う時には、今後、外せない論点になります。

ただ、中小企業のモノづくり工場の中には、自社工場で生産している製品の性質上、こうした特徴が出し難いモノもあるのは事実です。

 

標準化された部品や一部の工程を担っているケース等では、製品の仕様自体で独自に差別化を図るのは難しいです。

こうしたケースの工場でも、中長期的には、自社ブランドを持った製品を開発し、価格決定権を自ら握るビジネス展開を目指したいです。

とはいっても、限られた経営資源でもあり、「今」そこまでは手が回らん、という工場も多いです。

 

この場合、製品仕様に加え、製造工程を眺めます。

そこから、顧客が喜んでくれそうなネタがないかどうか探します。

 

自社製品の良し悪しを判断するのは、当然、顧客です。

顧客の主観に基づきます。

我々、製造する側の理屈ではありません。

 

こうした顧客の主観に基づいて評価された品質を知覚品質と呼びます。

そして、この知覚品質は、2つの側面があります。

 

おいしかった、楽しかった、便利になった等顧客が得た結果がどれだけ優れているか。

マス・カスタマイゼーションはこれに相当します。

これを結果品質と呼びます。

 

もう一つ、過程品質というのがあります。

これは、結果品質がどのように提供されたかに関する卓越さのこと。

 

旅館に泊まった時の女将のおもてなしが最高だった、

顧客との会食の際、絶妙なタイミングで料理を出してくれた、

出前を頼んだら時間ピッタリに持ってきてくれた、等々です。

 

つまり、顧客の知覚品質 = 結果品質 + 過程品質 ということ。

そこで、過程品質として、即、頭に浮かぶのが納期です。

2.驚くほどの「超短納期」なら高付加価値となる

中小企業の強みは小回り性や機動性にあります。

戦艦大和ではなく、駆逐艦としての強みです。

そこで、頭に浮んでくる、顧客に提供できそうな価値は、短納期化。

 

ただし、人並みの短納期化では付加価値になり得ない。

だから、単なる短納期ではなく、「超」を付けた「超短納期」を提供する。

 

競合や業界、地域が驚くほどの「超短納期」なら、プレミアムが付いても、そのサービスが欲しいという顧客は必ずいます。

さらに、超短納期なら潜在的な顧客からのアプローチも期待できる。

ちなみに、アマゾンでは希望する顧客に、「お急ぎ便」「当日お急ぎ便」というサービスを有料で提供しています。

 

私も、急に読みたくなった書籍の購入で当日お急ぎ便のサービスを使ったことがありますが、なるほど、受け取る側として、満足感は高かった。

今、増えつつある電子書籍の場合、家に居ながら瞬時に購入完了となりますが、紙の本へのニーズはなくならないと考えられるので、こうしたサービスの価値が下がることはありません。

ピーター・ドラッカーは、短納期化の価値について、下記の事例で説明しています。

卓越して行うことのできる事項が、極めて平凡である場合もある。

何千という企業が優れた仕事をしているが、その中にあって、その企業だけが、さらに優れた仕事をしているというケースである。

ある有名な大企業において、ある事業部が他の事業部よりもはるかに高い利益を一貫してあげていた。

しかし、その事業部は、世界中の何十万という金属加工工場と同じ機械と工程によって、何百万という金属片を切ったり、曲げたり、削ったりしているにすぎない。

だがその事業部は、この平凡な仕事を非凡にこなしている。

自慢は、顧客が欲しいものを説明し終わらないうちに見本をつくってしまうことであり、顧客の腹積もりの半値を超えることは稀であることであり、顧客が帰り着く前にさえ出荷を開始できることだった。

(出典:『創造する経営者』、ピーター・ドラッカー)

 

そして、ドラッカーは

「差別化の源泉、および事業の存続と成長の源泉は、企業の中の人たちが保有する独自の知識である」

とも言っています。

 

ドラッカーが「知識」と表現しているところは、「知恵」と言い換えられます。

現場メンバーが持っている貴重なノウハウを見直して、アッと驚くような「超短納期」システムを構築することに挑戦するのは、付加価値拡大のテーマの一つになります。

3.付加価値拡大にはモノづくりの総合力アップが欠かせない

現場メンバーの持っているノウハウを生かし、納期短縮を極限まで極める際には、製造過程に加えて、製品設計の側面からも考える必要があります。

いわゆる「組立容易性」に代表される作りやすさというのは、設計段階でほぼ全てが決まるからです。

 

自工場の製造部隊と設計部隊の連携はしっかり取れていますか?

こうした連携ができる組織能力は、モノづくり工場での強みです。

 

以前、勤務していた工場では、新製品を受注する度に、必ず、デザインレビュー(DR)を実施していました。

各工程の現場責任者と設計担当者が一堂に会して、開発を開始する前に問題点をつぶしておくことが狙いです。

つまり、トラブル発生を未然に防ぐ仕組みというわけです。

 

この活動はモノづくり力を強化するにはとても効果的でした。

現場部隊は設計部隊が持っている顧客情報や製品情報に触れます。

一方、設計部隊は現場部隊の持っている生産ラインでのノウハウについて情報を得ます。

 

互いの情報が交錯する中からさまざまな解決策が生まれたことを思い出します。

若手人財には最高の学習の場でもありました。

 

昨今、新たな製造プロセスとして3Dプリンターが注目されています。

少し前までは、実験レベルの記事しか目にしていませんでしたが、最近は実用段階の情報が飛び交うようになってきました。

この3Dプリンターは、イノベーションを引き起こすきっかけになりそうです。

 

技術動向には注目すべきだと思います。

さて、この3Dプリンターについてですが、メーカー等の関係者240名に次の質問をした結果が報告されています。

「最終製品/部品の製造手段として3Dプリンターを考えた場合、どのようなメリットがあると期待しているか」
(出典:『日経ものづくり』2015年8月号)

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「従来にない製品の形状・構造の実現」が最も多かった回答のようです。

まさに3Dプリンターの本領発揮といったところでしょう。

なるほど、これは付加価値が高そうです。

 

2番目と3番目の回答は、我々も付加価値拡大で注目している項目です。

「納期短縮」「製品のカスタマイズ化」。

 

これらは付加価値を拡大するのに有益であると考える関係者が多いということです。

そして、それを達成するための新技術として3Dプリンターが使えると判断している。

自社の工場で、「納期短縮」「製品のカスタマイズ化」の技術課題を検討する時には、まず、徹底的に「今」の現場を調べ尽くし、設備を使い尽くし、全てをしゃぶりつくしている状態であることが不可欠です。

 

「今」の製造現場で「何ができて」「何ができないか」を熟知していること。

設計部隊とも連携して製品仕様も徹底的に研究し、何が付加価値になり得るかを考え尽くします。

そうした経過を経ることによって、初めて「納期短縮」や「製品のカスタマイズ化」のその工場独自の技術課題が見えてきます。

 

まだまだ、やるべきことがあって、「今」も把握できていないのに、「なんとなく」新技術を導入しても、「なんとなく」時間が進むだけです。

付加価値拡大の取り組みは、全社挙げての総力戦です。

まとめ

製造過程で、何か付加価値を高めることはできないだろうか?

過程品質という観点から考えると、「短納期化」も顧客に喜ばれる可能性は大いにある。

付加価値拡大のために、中小企業ならではの強みである小回り性や機動性、柔軟性に焦点を当て、「超短納期化」にも挑戦する。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)