中小企業が開放特許を活用する仕組み 「川崎モデル」に注目が集まる!

中小企業が開放特許を活用する仕組み 「川崎モデル」に注目が集まる!

2007年、川崎市は全国に先駆けて、開放特許を活用した知財マッチングを開始。「川崎モデル」として、他の自治体のロールモデルとなりました。

その取り組みを成功に導いた、川崎市役所産業政策部の木村佳司氏(写真右側)と知的財産アドバイザーの高橋光一氏(写真左側)にお話を伺いました。

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開放特許を活用して自社の新製品を開発しよう

川崎市には、製造系の大企業と、その大企業の下請けとして受注生産をする製造系の中小企業が多数あります。

近年、時代の流れで大企業は製造拠点を海外に移すことも増え、川崎市の中小企業も全国の中小企業と同じように取引数が減り、厳しい状態に置かれるようになりました。

そうした厳しい時代の中でも“脱・下請け”を図り、自社製品を開発することで精力的に頑張っている中小企業が多数ありました。

 

それを川崎市が応援する形で、開放特許と中小企業をマッチングする取り組みが始まったのです。

開放特許を使い自社製品を開発するときには、コア技術である部分に大企業の特許を使い、その周辺部分に、自社が保有する既存技術を組み合わせて新製品を作ります。

研究開発費にかかるコア技術の部分を既存の大企業の開放特許を使えるため、制作時間や研究費用、失敗リスクを低減することができるのです。

 

川崎市の活動の中で、21件が成約(2017年3月取材時)に至りました。事例として、富士通(株)が保有する抗菌・抗ウィルス機能を持った「チタンアパタイトの光触媒」の開放特許があります。

成約した塗装等を事業内容とする企業は、塗装技術を使い「タッチパネル用抗菌フィルム」を開発。現在、「川崎ものづくりブランド認定」を受け、銀行ATMや京浜急行電鉄の一部駅で使われるなどの展開も進んでいます。

また、一方で畜産関連業者が同じ「チタンアパタイトの光触媒」の特許を使い、子豚の下痢死を防ぐ「家畜健康維持飼料」も開発されました。

大企業の特許を使うことで開発以外のメリットも生まれる

実は、大企業の特許を使うことによるメリットは他にもあるのです。

それは、ブランド力を活かした販売が可能になるということ。

さらに、大企業と共同開発をして新製品を製造することにより、社員の意識が高まり、社内の雰囲気が活性化したという事例もありました。

 

大企業と共同開発したという実績ができたことが一つの収穫であったという会社もあります。

私はいくつものマッチングに関わる中なかで、直接的に自社製品が製造できて販売される以外にも多くの隠れた効果があるということを、実感しました。

また、成約した事例は必ずしも最先端やハイテクノロジーのみではありません。専門的な知識がなくても取り組めるものもあるので、一つのチャンスとして見てみるのもいいですね。

これから開放特許を活用したい人へ4つのアドバイス

これから開放特許を活用したいという企業に、いくつかアドバイスをしましょう。

一つ目は開放特許を利用して、何を開発するかということ。

中小企業の多くが、売ることを苦手としています。

 

それまで下請け企業として発注されたものを製造していたので、当然かもしれません。

しかし、自社製品を製造するからに販売しなければなりません。

だからこそ、できるだけリスクの少ない道を進むことをおすすめします。

 

つまり、新たに販路を開拓する商品を製造するのではなく、自社における既存商品の販路をそのまま活かせるような製品やアイデアを作っていくのです。

二つ目は、開放特許は研究開発費等を低減できることはありますが、結局のところ、新製品開発なので労力や資金はある程度かかります。

本業の業績が落ち込んでいるため、一発逆転を狙って新製品開発を行うという施策は、リスクが高いのでおすすめしません。

 

三つ目に、マッチングにより成約できてからが本当のスタートです。

契約してからも熱意をもって相手との信頼関係を継続させ、新商品を開発していってください。

最後に、開放特許を使いたい企業にとって最も必要なことはと言いますと、抽象的ではありますが「やる気」だと思います。

 

川崎市では、これまでに21件のマッチングを成功させてきましたが、成約した企業以外にも「開放特許を使いたい」と申し出てくれた中小企業はたくさんありました。

そのなかで見事成約できた21件の企業に共通する特徴は「やる気」があること。

もちろん、それ以外の企業にもやる気がある企業はありましたが、「やる気」がないと絶対に上手くいかないということを実感しました。

やる気がある会社を応援する

川崎市は中小企業を支援していますが、全ての中小企業を支援することは不可能です。

成果を出していくであろう中小企業に、注力するのは当然のことです。

そのため、「開放特許を使いたい」「こうしたシーズがあれば教えて下さい」というように、積極的にはたらきかけてくれて、「やる気」のある企業を自然と応援していくことになります。

 

「やる気」のある企業に対しては、その熱意に圧倒されて「おせっかい」や「えこひいき」をしてしまうと思うのです。

今までそうした計らいで、バックアップにより成約した例も多くあります。

今、開放特許が注目され、川崎市だけでなく、各自治体の産業課などの機関が、知財マッチングに力を入れるようになりました。

 

これから開放特許を活用したいという人は、そういった機関のコーディネーターをうまく活用することが必要です。

大企業に直接「開放特許を使わせてもらいたい」と交渉するよりも、中立的なコーディネータが間に入ることでうまくいくことがあるからです。

開放特許に興味がある方は、地元の自治体や県などにぜひ問い合わせをしてみてはいかがでしょう。

 

担当者に「やる気」を見せて、「おせっかい」や「えこひいき」を引き出してくださいね。

きっと良いパートナー企業が見つかると思います。

出典:『中小企業が開放特許を活用する仕組み 「川崎モデル」に注目が集まる!』開発NEXT


弁理士。コスモス国際特許商標事務所パートナー。名古屋工業大学非常勤講師。1980年愛知県生まれ。名古屋工業大学大学院修了。知的財産権の取得業務だけでなく知的財産権を活用した製品作りの商品開発コンサルタントを行う。知財マッチングを展開し、ものづくり企業の地方創世の救世主として活躍している。著書に『社長、その商品名、危なすぎます!』(日本経済新聞出版社)、『理系のための特許法』(中央経済社)等がある。 特許・商標の活用を応援するWEBマガジン「発明plus Web」( https://hatsumei-plus.jp/ )を運営している。