中国でのトヨタ生産方式|元トヨタマンの目
トヨタ生産方式は性悪説に立つ。
中国で次のような質問を受けた。
「日本人はまじめだとよく言われます。しかし中国人はあまりまじめでない人もいます。このような中国で、トヨタ生産方式の導入はうまくいくでしょうか?」
私は次のように答えた。
「たとえばトヨタの機械加工ラインなどに不良品が入った場合、ポカヨケや順次点検でその不良品は必ずすぐに発見されます。
日本のまじめな作業者でも、長時間の作業を行なっていれば、必ずと言ってよいぐらい、ポカミスを起こしてしまいます。
そのような場合、その後工程ですぐにその不良は発見されるわけです。
ですから、外注メーカーから入ってくる部品についてもトヨタでは一切納入検査をしません。
それは工程の中に投入してしまえば、不良があぶりだされるからです。
また外注メーカーから納入される部品の数量チェックも、トヨタは行いません。
なぜなら、工程内に不要な在庫が一切ないため、もし数量不良があったなら、ラインが止まってしまって、それが分かってしまうからです。
ここから分かるように、工程が清流化していけばいくほど、雑務がなくなっていき、相乗効果的に費用がかからなくなってくるのです。
トヨタは、『人は故意ではないにしても、かならずミスを発生させてしまうものである』という性悪説のもとに、工程を作ってきました。
だからトヨタは今、アメリカ、カナダ、ブラジル、トルコ、アルゼンチン、ロシア、フィリピン、オーストラリア、イギリス、南アフリカ、中国などで生産していますが、どこでもうまく生産されています。
それはこのような人のミスを発見してくれるトヨタ式の工程があるから可能なのだと思います。
したがって今導入がうまくいってないのは、天守閣づくりにばかり目が行って、石垣づくりがおろそかになっているためです」
このような質問がくるように、中国でのトヨタ生産方式の研究は非常に熱心に行なわれている。
今回、天津でのTPS大会が終わった翌日、ご招待主の中国のトヨタ生産方式のコンサルティング会社で、中国人TPS教師の皆さんに私から講義を行なった。
彼らは彼らなりに、手探りでトヨタ生産方式を習得し、中国企業で教えているのだ。
その中身を教えていただいたが、やはり天守閣づくりが中心で、石垣の部分が非常に弱いことが分かった。
いやいや中国の場合は、地盤固めからやらなければならない。
そのあたりも中国人教師たちには十分理解させることができたと思う。
もしも今もトヨタに在籍していたとすると、きっと今頃ロシア工場か南アフリカ工場ぐらいで働いていただろうと思う。
そこでの勤務も当然意味はあるが、今の活動の方がTPS浸透のためにはより効果があると思う。
なにせ教師達に教えるのだから、自分ひとりの活動よりネズミ産式に多くの効果が期待できる。
ムダを排除するというTPSの思想が浸透してくれば、今のような、使い放題、汚したい放題のやり方は必ず改められる方向に行く。
そうすれば、偏西風で日本へ飛んでくる汚染物質もなくなってくるのではないだろうか。
それを期待しつつ、一歩一歩やっていくしかない。