世界を目指し成長している中小モノづくり企業の事例

世界を目指し成長している中小モノづくり企業の事例

挑戦的な目標を掲げていますか?

1. 今後の4つの課題を実践している企業の事例

一橋大学名誉教授で明星大学教授の関満博氏は、4つの外部環境変化を挙げています。

国内の中小製造業は4つの構造転換の中に取り込まれているというのです。

①グローバル化、②成熟化、③人口減少、④少子高齢

 

そして、今後の課題は次の4つです。

1)開発も加工も際立った先端の領域を視野に入れる

2)幅広い機能を身につけサービス機能を高める

3)オープンイノベーション

4)世界で稼ぐ

 

そして、関教授は4つの課題を実践している3社の事例を挙げています。

2. 株式会社市金工業社

株式会社市金工業は高分子化学工業用機械の製造販売をしている企業です。

本社は滋賀県草津市にあります。資本金1億円、従業員数85名。

繊維の幅出し機械のメーカーとして一時代を築きました。しかし、90年代半ばごろには、新興国製品に代替えされる事態に陥りました。

 

そこで、若い後継者は、異次元とも見られた高分子(フィルム)の延伸の技術に挑戦したのです。

10年という時間をかけ、比類のない技術を身に着け、復活を遂げました。

加えて、開発に関連する機器群を取りそろえ、世界の素材メーカーなどに開放しています。

 

HPを見ると「技術・研究開発支援」ページでしっかりと研究設備が紹介されていました。

経営者の目は将来に向いています。

3. 株式会社斉藤光学製作所

株式会社斉藤光学製作所は資本金1,000万円、従業員数43名のレンズ研磨を手掛けてきた企業です。秋田県仙北美郷町に本社があります。

レンズ研磨は、一気に台湾、中国へ移管される事態になりました。

そこで、若い後継者は、先端の半導体研磨の領域へ足を踏み入れます。人財を求めて、1980年代に軸足を首都圏から秋田へ移しました。

 

撤退する企業の設備を買い取り、開発機材を系統的にそろえ、テクニカルセンターを設立しています。

HPには、レーザー干渉計やX線回折装置、微分干渉顕微鏡等の紹介が載っています。

テクニカルセンターのメンバーの写真も掲載されていました。

 

テクニカルセンターの設備を、世界の研磨材メーカーなどに開放しています。

経営者の目は将来に向いています。

4. ゼノー・テック株式会社

ゼノー・テック株式会社は、粉末冶金型、精密冷間鍛造金型等を製造・販売している企業です。

岡山県岡山市に本社があります。資本金2億円、従業員数126名(単独)。

四半世紀ほど前、先代の企業(ゼノー工具)から自動車関連の鍛造型を引き継ぎ独立しました。従業員数30名からのスタートでした。

 

自動車メーカーがアジア展開するのに合わせて2005年には中国・江蘇省へ進出しています。

その後も、新たな市場を求め、マレーシア、インドネシアへも展開しています。

工場の一部は、撤退する日系金型メーカーをM&Aすることで取得しました。海外工場の従業員数は250人を超える規模になり、さらに欧米への進出を視野にいれているようです。

 

経営者は、次のように語っています。

「国内は縮むが、新しい分野に挑戦し金型技術の幅を広げる。そして海外で稼ぐ」

経営者の目は将来に向いています。

5. 小さな世界企業を目指す

市金工業社と斉藤光学製作所は、見事なまでに4つの課題のうち1)〜3)の3つを実行しています。

また、ゼノー・テックは、海外で稼ぐ方針を明確に打ち出しています。

3つの企業とも、先代から引き継いだ若い後継者は、従来路線にとどまっていません。

 

将来を見据えて、戦略的に意思決定をしています。

若い経営者の目は将来に向いているのです。

こうした企業の動きから、関教授は「小さな世界企業」を目指せと提案しています。

 

国内需要の縮小は、避けられない外部環境変化です。ですから、中小モノづくり企業も、その変化に対応して、変わらねばなりません。

今後の事業展開を考えるうえで、“現状維持”という選択はありません。外部環境が変化し、競合が前進している分、現状維持では、相対的に後退です。

これでは存続できません。

 

会社の大きい、小さいにかかわらず、存続のためには成長路線が不可欠です。

そして、その成長路線は、的を射た戦略でなければなりません。

シャープや東芝の事例を見るまでもなく、大企業であっても不適切な戦略は、従業員を不幸にします。

 

成長路線は、既存事業の延長線上にはありません。

思い切った挑戦がなければ、成長路線とはならないのです。

イノベーションの対象は、事業内容だけにはとどまりません。仕事のやり方でもいいのです。

 

従来とは違う、挑戦的な仕事のやり方を実現させて、圧倒的な効率アップを図る。

こうした挑戦も、イノベーションです。

挑戦的な目標は、現場の一体感を醸成します。そして、一体感のある現場は経営者の想いが浸透しやすいです。

 

経営者は、未知の世界に挑戦することを、自ら現場へ語ります。トップの想いを理解した現場は、頑張りたくなるものです。

自分の会社が、将来へ向けて、豊かに成長しそうだと感じて、頑張らない現場はありません。

挑戦的な経営者の想いに後押しされ、現場の一体感が高まります。こうして、現場は、成長するのです。

 

ですから、ウチには有能な人財はいないから、イノベーションは無理だ、という考えはあり得ません。

人財がそろっているから、挑戦的な目標(イノベーション)が達成されるのではありません。

挑戦的な目標(イノベーション)があるから、現場は成長するのです。現場が、経営者の熱い想いに共感するからです。

 

現場からやる気が引き出され、成長に至ります。経営者の挑戦的な目標が、人財を育て、一回りも二回りも大きくしていきます。

そうして、経営者が頼りにできる、力強いチームができるのです。

人財が育つ企業は、存続し、成長します。

 

世界を目指すことは、人財育成にもつながります。

現場を成長させるような挑戦的な目標を設定しませんか?

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)