不良品から情報を引き出すための仕組みはつくる
不良品(不適合品)から得られる情報は多いので、仕組みを構築して無理なく、継続して「負の情報」を生かせる雰囲気を醸成する、という話です。
1. 「負の情報」を生かすために
現場にとって生産設備は動いてナンボノモノです。
どんなに最新鋭であろうが、完全自動化されていようが、停止していたら現場では全く価値はありません。
ですから、トラブルやチョコ停の発生履歴とそれへの対応策を見える化することは、安定稼働のために重要です。
さらに生産ラインの設備の個性(弱いトコロ)を把握できます。
また、設備の仕様を理解する上でも大いに役に立ちます。
設備の仕様を理解し設備の個性を知れば、知恵を生かすことができます。そしてカイゼンすべき点も明確になります。
このようにチョコ停や故障から、有益な情報を引き出せます。
同様に不良品(不適合品)からも、有益な情報を引き出せます。
不良品は、お客様から要求された仕様を満たすことができなかった製品。つまり製造技術面での“弱い”箇所を語っています。
ですから、不良品の発生原因を究明することで、生産ラインが抱えている生産技術、製造技術上の問題点が見えてきます。
その結果、生産ラインで活用されている技術への理解が深まり、技術開発をやり切る環境が整います。
チョコ停・故障にしろ、不良品(不適合品)にしろ、どちらも「負の情報」です。
技術のイノベーションを目的として、こうした「負の情報」を生かす仕組みを、技術開発の手法や手順に入れておきたいです。
このように「負の情報」は、現場の「今」を知るためには極めて有益な情報です。
とはいえ、誰でも、“臭いモノに蓋”したくなります。
「負」の現象には必ず原因があります。
そして、原因に属人的な要因を含むケースが中小の現場では多い。
したがって原因究明すれば、特定の「人」に焦点を当てざるを得なくなる。
原因究明者は、属人的な要因をもって、属人的な要因を分析せねばならない。
そして、わずらわしいことには関わりたくないのが自然な気持ちです。
そこで、負の情報を生かすために、一担当者の骨折りではなく、仕事上のルールで仕組みを機能させる状態を目指します。
まずは「負の情報」を大切にする雰囲気を醸成したいです。
管理者や現場リーダー、各工程のキーパーソンは現場に対して「負の情報」の価値を伝えて、必要な仕組みをドンドン構築します。
「負の情報」を生かすために、原因究明側の属人的な要因を排除していくのです。
発生した問題の原因は、それに対応できなかった「仕組み」にあるという発想。
こうして、「負の情報」を生かせば、有益な技術情報が手に入ります。
今が見えてくるとともに、未来に向けても将来目指すべき状態が設定しやすくなります。
2. 仕組みがないと手間がかかる
「負の情報」を生かすためには仕組みが欠かせません。
属人的な原因で発生した問題へ、客観的に対応するためです。
それに加え「負の情報」を生かす活動に要する工数、コストを小さくするためです。
例えば、不良品(不適合品)を分析するためには、発生した不良品を一時的に保管するスペースが必要です。
そして、分析作業を行うスペースも合わせて確保しなければなりません。
電子部品のような製品単品の容量、重量が小さい製品ではスペース問題は小さいですが、自動車の足回り部品、面積を要する板金加工品等では、スペース問題はかなり大きいです。
大部分の現場では、工場内スペースに余裕がありません。
正常品を正常に流動させるだけで手狭になっている現場もあります。
加えて、現場では仕掛品や中間製品、完成在庫品を置くスペースも確保しなければなりません。
ですから不良品を一時的であれ、現場で保管する余分のスペースはない。
さらに、不良品を保管していると正常品に混入する懸念もある。
現場としては、さっさと処分をしてしまいたいモノです。
こうした状況のもと、従来のルールのまま、不良品の分析を始めようとすると、手間ばかりかかります。
スペースを確保するところからやらねばいけません。
その結果、調整作業にも始終することになります。
仕組みのない状況下では、スペース確保作業一つ取り上げてもこうなってしまう。
切削加工と板金加工の現場管理をやっていた時のことです。
クレームが発生し、原因究明でスペースを確保するのに3時間あまりモノの移動作業を余儀なくされたことがありました。
その現場には、まだ、不良品の「負の情報」を生かすルールは未整備でした。
日常的に不良品(不適合品)を対象にした仕組みがあれば対応は違っていました。
不良品(不適合品)の「負の情報」を生かすならば仕組みです。
モノづくりを生業としている業界ですから、この仕組みは欲しいです。
技術のノウハウを見える化し、蓄積して、技術開発をやり切る土台をつくります。
3. 不良品(不適合品)の「負の情報」を生かす仕組み
製品の仕様やサイズ、重量、生産形態等によって、最適な仕組みはさまざまですが、下記4点は共通しています。
1)不良品(不適合品)置き場と分析スペースを確保する
2)不良品(不適合品)の置き場への搬送ルールを決める
3)分析スペースでの分析作業の内容と担当者を決める
4)不良品への対応策を定期的に議論する場を設定する
1)は3現主義です。問題となっている製品を手に取り、目で見て感じるところから始めます。
4)に上げた「定期的」な議論の場で情報を生かします。
PDCAを廻すという視点に立っても継続性は絶対です。
継続性のある議論の場を設定することで効果が定着します。
- 品質的な、技術的な課題を共有でき「共通語」で話ができる環境が整う
- 品質や技術を客観的に判断する指標が生まれ、変化を追いかけられる
前者の効果は極めて大きいです。
今を語るにしても、未来を語るにしても、品質や技術に関係した「共通語」のお陰で、関係者間で共感が生まれやすくなります。
日常的に情報交換するなかで、自然に情報の共有化が進むからです。
継続的な議論の場がない現場で、クレームが発生して、関係者が集まり議論しても、全体で共感、納得感を感じる結論に至り難いです。
さらに、結論へ至るためにかなりの時間を要します。
品質や技術に関する「共通語」がないからです。
さらに、後者は現場のモノづくり力を磨くためにも重要です。
品質的な、また技術的な課題を議論するための客観的な指標になります。
不良品の分析ですから、当然、「不良品発生率」という指標が浮かびます。
そこから始まり、その不良品発生の原因となっている生産条件は……。
生産サイクル(タクト)、速度、温度、時間、等々。
生産状況を技術的に語る指標が知りたくなります。そして、それらが日常的に変動しないか気になってきます。
こうした指標は、技術課題を検討するためには絶対に欠かせないデータです。技術開発に必要な指標となります。
不良品(不適合品)から得られる情報は多いです。
ですから仕組みを構築し、担当者の頑張りによらないで、不良品から有益な情報を引き出したいです。モノづくりで食べて行くならこの仕組みは持ちたいです。
現場で活用している技術への理解が深まります。
コア技術の強み、弱みも見えてきます。
そして、将来に目指すべき状態も設定しやすくなります。
「負の情報」を生かせば、今を理解しながら、未来を見通すことができます。
「負の情報」を生かせる現場は強いです。
まとめ
不良品(不適合品)から得られる情報は多いので仕組みを構築して無理なく、継続して「負の情報」を生かせる雰囲気を醸成する。