三重県桑名市(株)HMEから問題解決型事業を学ぶ
事業の高付加価値化で問題解決型の事業展開を目指すならば「地域の技術の御用聞き」に挑戦する、という話です。
1.問題解決型の事業形態
機械加工を主業とする現場の管理者をやっていた頃、当事者が考えている強みと、顧客が評価しているコトとは一致しないモノだなぁ、と強く感じたことがありました。
100%受注生産であり、原則、24時間365日、現場ではお客様からの相談に対応していました。
当然、通常業務は9時から17時まででしたが、それ以外の時間帯の突発依頼にも可能な限り対応していました。
窓口担当者は携帯電話が手放せず、現場もいつ担当者から連絡が入るかもしれないわけですが、こうした関係者の踏ん張りのお陰で、こうした突発対応が可能なサービスが強みになっていました。
ですから、当然に、これがお客様に真っ先に評価されているコトだろうと考えていました。
しかし、意外にもお客様が、いの一番に評価してくれたのは、困りごとを図面化し、解決策を提案し、具体的な形にしていたエンジニアリング的な対応の方でした。
顧客視点で付加価値を高めるのにはこのエンジニアリングの視点は有効です。
イイものを安く効率的に造るだけの事業形態では、家電や半導体産業に見られるように早晩、価格競争に至るリスクが高いです。
数値で評価される技術は機能勝負となり競合も攻めるポイントを絞りやすい。
一方で、エンジニアリングの要素が強い問題解決型の事業形態ではお客様が評価してくれるポイントはブラックボックス化されています。
お客様は自社の担当者との関係で何かを評価してくれているわけですが、それは外部からは認識されにくいのが一般的です。
- 担当者が持っている専門的な経験と知識が頼りになる。
- 担当者が信頼できる。
- お願いすると直ぐに対応してくれる。
- 長年、担当してもらっているのでウチの現場を良く知っている。
等々、このような内部の要因によってお客様との関係性が強化され、これらもまた顧客視点と考えられます。
付加価値を拡大する上で考えたい事業形態のひとつがこうした問題解決型です。
2.オープンイノベーション
現在は顧客自身が自らのニーズを認識できないような複雑化した時代です。
ですから、表に現れているニーズのみならず、隠れている、認識されていないニーズをも喚起して自社が主導権を握る新たな市場の創出を目指します。
そこでは、視野、技術、考え方の深さとともに幅も求められます。
顧客のニーズにはピンポイントに応えねばなりませんから、コア部分では深い対応力が必要です。
その一方で不確実性が高い多様なニーズへ応えるため、あらゆる場面を想定した幅広い対応力も必要です。
ただし経営資源に制約のある中小モノづくり企業では、深さも幅も含め、全ての対応力を自前でそろえるのは困難なことです。
東京大学教授の元橋一之氏は次のように語っています。
国際競争力の激化に対応するにはイノベーションの効率やスピードを上げることが重要です。
将来の不確実性が大きくなる中で、研究開発の幅を広げることも必要になってきます。
この「スピード」と「幅」の両立を今江で達成することは困難です。
そこで、多くの日本企業にとってオープンイノベーションが重要な経営課題となっているのです。
(中略)
必要なのは、製品の性能向上を追求する「モノ」モデルから、顧客価値を最大化する「ソリューション」モデルへの移行です。
複合的な製品を組み合わせ、顧客ニーズの変化に対して最適なサービスを提供することで、模倣されにくい持続的な競争優位を作り出せます。
ここで大事なのは、パーツをすべて自前でそろえるのではなく、最適なものを外から探してくることです。
(出典:日本経済新聞2016年7月8日)
外部の経営資源を活用することの重要性が高まるとともに、今後は、外部資源を使いこなせるモノづくり企業が成長する機会をたくさん持つことになると予想されます。
ただし、外部資源を活用するには相手も存在することに注意です。自社が相手にとっても提供先として魅力のある企業でなければ、連携先として選ばれません。
その意味で、自社の魅力(価値)を上げるために、コア技術を磨き続け、確固たる強みを持つことは、どんな時代でも絶対に必要なことです。
また、工場オペレーションとしては多様な価値観、異質な価値観をうまく取り込み、自社で化学反応を引き起こす土壌を醸成しておくことも重要です。
自社にしか通用しない言葉でのみ話し、考えるのではなく、外部の異質な、多様な価値観とうまくやり取りする機会を増やしコミュニケーション力を鍛えたいです。
外部資源を現場で活用するためには、現場リーダーや各工程のキーパーソンの多様なコミュニケーション能力がカギを握ります。
3.三重県桑名市にあるHMEに学ぶ
東京大学教授の元橋一之氏は、外部資源を生かしてる事例企業として三重県桑名市にある半導体製造部品の精密研磨加工や赤外線センサーの応用製品などを手掛けるHMEを挙げています。
現社長は、メッキ中心の表面処理事業を営む会社を引き継いだ2代目社長で、外部連携を通じて多くの技術や事業を取り込み、新規事業を集めHMEとして別会社化しました。
自社開発と産学連携などの外部連携を組み合わせて、常に技術力の向上を図っているのが特徴です。
また、新事業を創出するために企業間連携も常に行っており、社長は地元の中小企業ネットワークの代表も務めています。
(出典:日本経済新聞2016年7月8日)
HMEは資本金1,000万円、従業員数80名の企業です。
HPに掲載されている同社の経営理念は下記です。
「我々は地域から必要とされ地域一番の会社を目指します。」
今後、成長のために求められ新たな事業形態では、必ずモノ以外の問題解決型の要素が欠かせなくなることが予想されます。
そして問題解決型は、強みをブラックボックス化しやすいことに注目です。
そうした事業形態を構築すると持続的な優位性を維持できるので、多くのモノづくり経営者の方には挑戦していただきたい事業形態です。
こうした事業形態に挑戦する際、全国展開する必要はありません。
HMEの経営理念のごとく、地域で一番になればイイのです。
機械加工を主業とする現場の管理者をやっていた頃も数万人規模の地方都市の工業地区でしたが、十分に個性を発揮して事業展開できました。
新たに問題解決型の事業を展開しようにも何をキカッケにすればイイだろうと、感じている経営者の方には、まず、第一歩として「地域の技術の御用聞き」を実践されることを提案します。
身近な地域、同業者へ困りごとを聞いては、それを具体的に解決するには?と考え続けます。
具体的な話から、具体的に必要な外部資源が浮かんできます。
大企業はこうした動きを、自前でグローバルに展開しているだけです。
GEはモノのインターネット(IoT)を活用して、航空機エンジンやタービンの故障、寿命予測の問題解決型のサービスを提供しています。
我々中小モノづくり企業の規模ならば地域一番の事業展開で十分に存在感を示し、商売として成立されることができます。
ぜひ豊かな成長を目指す事業形態として挑戦したいです。機動力と小回りの利く強みを生かすならば、地域の問題解決型事業です。
まとめ。
事業の高付加価値化で問題解決型の事業展開を目指すならば「地域の技術の御用聞き」に挑戦する。
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