ロボットの導入が進んでもティーチングマンが足りない! 企業はソフトなどの工夫で対応すべき
足りないティーチングマン
現在、ロボットのティーチングマンが日本中で足りていません。ティーチングマンとは、産業用ロボットをティーチペンダントで操作しながら、その位置を記録させる作業者をいいます。この作業でロボットにプログラムが作成されるので、あとはそのプログラムを再生させれば、ロボットを動かす事ができます。
最近は、ティーチングレスといって手でロボットの先端を動かして簡単にティーチングできるロボットばかりがニュースなので挙げられておりますが、その種のロボットでできる事は、精度などの理由で搬送等の一部の用途に限られておりますし、搬送できるモノも軽量に限られます。つまり、それ以外の用途である溶接・バリ取り・シーリング・ローラーヘム・カット・穴あけ・溶射・塗装・洗浄・肉盛り・搬送(軽量でないもの)などではティーチングが必要となります。
しかも、これらの用途では熟練のティーチング技術が必要とされ、加工したい製品に対してある一定の姿勢をとりたい、もしくはサイクルタイムを少しでも短くしたい、もしくはカーブしている個所を細かくティーチングしたい、などの事を実現するには多くの現場での経験を要します。したがって、熟練のティーチングマンを育てるには1年や2年では難しいとされています。
さらに、ティーチングマンを育てるのが困難という問題もあります。時間をかけてティーチングマンを育てたくても、自社で訓練させるしかないのが実状です。
なぜなら、実務経験を積ませたる為に客先に派遣をしようとしても経験が浅いとお客様からNGを出されてしまうためです。この数年の訓練の人件費も膨大な為、よほどの体力のある会社でないと厳しいです。
ロボットを導入する企業の目的は、作業効率UPや人件費削減のはずなのに、ティーチングマンを育てる為に費用や時間のロスが生じてしまうというジレンマをかかえている企業は少なくありません。
ティーチングマンを呼ぶと高額
ではティーチングマンは外注で呼べばよいかというと、大変高額になってしまうのが現状です。景気が良くなってきた事情もあり、ティーチングマンの需要に対して供給がまったく間に合っていない為に、ティーチングマンを呼ぶ金額は近年うなぎのぼりです。
私の知り合いで経験7年のフリーの熟練ティーチングマンがおります。彼は月に5日以上の休みをしっかり取っておりますが、それでも月収はなんと250万円です。信じがたいかもしれませんが、それでも企業から数か月先まで、連休は1年先まで予約されております。
ちなみに、その彼だけが特別なのではなく、同レベルのティーチングマンは同じような収入です。
体力がない会社が、月250万円を払えるでしょうか? 中小企業がロボットを導入したくても、このティーチング問題により諦めるしかないという事をよく耳にします。
ティーチングマンを要請される「あるある」話
また、お金に余裕のある大企業がお金にモノを言わせてティーチングマンを外注することにも効率の問題があります。先日もこのような事がありました。
私が経営しております富士ロボット株式会社にもティーチングマンの要請がよくきます。先日、要請があった工場は誰もが知っている自動車メーカーの工場です。その工場のラインの移転に伴い、数日間で複数のロボットのティーチングを行うという案件です。
よくある話ですが、作業日の2〜3週間前に「ティーチングマンが足りないので、何とかならないか」という急募です。
ティーチングマンの予定は平日でも1〜2カ月前には埋まってしまうので、このように作業日の直前に依頼されますと、経験年数1年もしくは2年くらいのティーチングマンしか残っておりません。
こちらとしては「これだけのスペック(ティーチングマン経験や能力)しかありませんが、よろしいでしょうか?」とメールや見積もりにスペックを記載しました。断られると思ったのですが、「それでも来てほしい」という要望を頂いたので、受注することにいたしました。
しかし、最悪の結果を招く事になりまして、工場のティーチングのリーダーに派遣されたティーチングマンのスペックが正しく伝わっておらず、そのリーダーから「話と違うから、帰ってくれ」とのことでしたので、帰らせる事になってしまいました。
原因としては、その工場のエンドユーザ様との間に入っている商社様がロボットに無知で、エンドユーザ様にスペックを伝える事の重要さがわかっていなかったのです。
これはティーチングマンを要請される「あるある」話で、派遣を要請した会社もティーチングマンが足りないまま作業、また派遣した会社も要した時間や費用の損失を被る、という生産性としてはマイナス事態になってしまいます。
ティーチングマン不足を解決するには
ティーチングマン不足の解決方法として、ティーチングマンを増やせばよいと言われる方もいらっしゃいます。しかし、前述のとおり熟練のティーチングマンを育てるには数年かかりますし、過酷な作業ですので、人口が減少している状況で絶対数を増やす解決方法は厳しいです。
解決方法の1つ目に、先ほどの例にお話ししたスペックの食い違いが起きないように、派遣先の担当者と派遣されるティーチングマンが直接会話できる環境を用意することです。
言い訳になりますが、先ほどの例ではエンドユーザ様との間に複数の商社様が入っており、何より急募であった為お互いの空いている時間が確保できませんでした。現場の事情でなかなか難しい事は承知していますが、時間に余裕をみてティーチングマンを確保する努力をするべきです。ただし、この方法は根本的な解決法とは言えないです。次の2つ目こそ私が特に勧める方法です。
2つ目に、ティーチングソフトの活用です。ソフトである程度プログラムを作成していれば、現場で微調整をするだけで済むので、かなりの時間短縮になります。
ただし、市場で出回っている殆どのティーチングソフトは、操作が難しい、現場向きの機能が無い、などの理由で工数削減にならないそうです。さらにソフトを活用するには3D(3次元)のCADが必須なのですが、多くの企業が未だに2D(2次元)のCADしか持っていないというのが、日本の現状です。よって、3D化を急ぐことも重要です。
実は先ほどの実話でも、弊社が現場のデータの提出を依頼すると、信じられないかもしれませんが「まだ全体の一部しか2Dから3D化できていないので、2Dしか出せない」との事でした。
先進国でまだ2Dが残っているのは日本だけらしく、恥ずかしい事だと思います。
ティーチングマンを外注できても
多額の費用をかけてティーチングマンに外注をできたとしても、所詮は原始的な力わざです。理由は、その作業が終わった後に、その企業に何か生産性UPのモノが残らないからです。
今、ものづくりの世界で効率UPを求められている状況に対し、何の根本的な解決になっておりません。このような原始的な方法が20年以上続いているのが、現在日本におけるロボット現場の悲しい状況です。
日本の企業様は、早く最先端のソフトで効率UPする努力を行ってほしいと思います。