リーガルコーポレーションの付加価値拡大戦略を学ぶ
製品開発で感性が問われる場合であっても、定量的な判断基準で客観性を高める工夫をする、という話です。
1.リーガルコーポレーションの製品開発事例
トヨタ自動車の最上級モデルではクラウンを思う浮かべる方が多いでしょう。
「いつかはクラウン」というキャッチコピーが1980年代に登場した車種であり、高級車として広く認知されています。
クラウン=高級車というブランドイメージが見事に定着しています。
ブランドイメージが確立された高級品の製品仕様、製法を大幅に変更することは従来のブランドイメージを混乱させるリスクもあり慎重さが求められます。
リーガルコーポレーションは牛革を使ったフォーマルな高級靴を製造している靴メーカーです。伝統的な製法にこだわり高級靴ブランドを確立しています。
そのリーガルコーポレーションが2016年3月に発売したウォーキングシューズに「紳士靴としては業界初」(代表取締役社長の岩崎幸次郎氏)のものを含む4件の新技術を投入しました。
このウォーキングシューズは300gと従来の60%程度の質量しかありません。
こうした軽量化に加えて、滑りにくさ、歩きやすさを維持するために新技術を投入しています。
靴底には、路面へのグリップ性の高いゴムとポリアミドフィルムを異種材料接合技術で接合した素材を使っています。
また中底は軽量で汎発性の高い繊維協が樹脂を使っています。
さらに靴の本体は、(牛革ではなく)人工皮革で、裏地は「GORE-TEX」で防水性と通気性を確保しました。
「牛革を使った伝統的な製法」と「業界初の新技術を含む4件の新技術」は相対する内容です。
ですから、この新製品は構築してきたブランドイメージを混乱させるおそれもありましたが、あえて新技術を投入した背景を岩崎氏は次のように語っています。
ニーズの多様化というよりも、成熟と言った方が近いかもしれないが、靴を履く人の考え方がさまざまに変わってきた。
流通経路も多様化した。
そのどこか一部に特化するのでは、当社の事業規模は維持できない。
高齢になれば足を持ち上げる力が減ってくる。
つま先を上げる力が弱まるから、つまずきやすくなる。
靴は少しでも軽い方が良いし、同時につまづきにくさなどにも最大限配慮する必要がある。
(出典:『日経ものづくり』2016年3月号)
2.リーガルコーポレーションの付加価値拡大戦略
「いつかはクラウン」のような一定の年齢に達したら高級な品物にあこがれる単純な価値観で市場をとらえられなくなってきたことへの対応策です。
そこで、ニッチを狙いにいこうにも、十分な事業規模を確保できない。したがって、外部変化(高齢化)に応じた新規製品を開発した。
リーガルコーポレーションのコア技術である、牛革の高級靴製造技術と外部の技術となる接合技術や新素材を組み合わせて新たな付加価値を生みだしています。
これもベン図のイメージです。(新たに生み出される付加価値をベン図で見える化する)
さて、新技術を外部から導入するに当たって、自社ブランドとの適合性を慎重に検討する必要があります。
新技術が単体として優れていても、ブランドイメージとあまりにかけ離れた状況を生み出してしまっては逆効果です。
リーガルコーポレーションは7年にもわたって試作と実験を繰り返しました。
履き心地という極めて感覚的な、しかしながら、靴にとっては極めて重要な機能を科学的に検証しています。
試作品を一定期間履きます。そして、下記の2つを実施しました。
1)高級靴としての履き心地の良しあしを感覚的に判定する。
2)足の発汗量などの物理的な特性を実験で定量化する。
両者の良好な結果になったら採用されます。
定量的に良くても、感覚的にNGならば採用されないことに加えて、感覚的に良くても、定量的にNGでも採用されないということ。
感覚的にNGならが、採用不可の考え方は理解できます。それだけでなく、感覚的に良くても、客観的裏付けがなければ採用しない。
科学的な裏付けなしに良しあしを判断しない、モノづくりへのこだわりです。
感覚的なことであっても客観的な判断を実践することで開発の方向性も見えやすくなります。
- 外部環境変化に対応するため既存技術に外部技術を組み合わせて新規製品を開発する。
- 製品開発で感性が問われる場合であっても、定量的な判断基準で客観性を高める工夫をする。
この2つがリーガルコーポレーションで実践された付加価値拡大の要点です。
なお、このウォーキングシューズは牛革の高級靴とは全く異なった製品です。しかしながら、同社は高級品で勝負する方針は変えません。
既存製品とは異なった価値、軽量化、滑りにくさ、防水性を提供する考えです。高級品というブランドイメージを堅持します。
(出典:『日経ものづくり』2016年3月号)
まとめ。
製品開発で感性が問われる場合であっても、定量的な判断基準で客観性を高める工夫をする。