モノづくり工場の組織文化は経営者が意図的に造る

モノづくり工場の組織文化は経営者が意図的に造る

チームワークや組織風土は意図的に造るモノなので仕組みが必要であり経営者の想いが欠かせない、という話です。

1.外国人から見た日本の働き方、ここがYES

「少子高齢化が加速する日本で10年後、20年後、どのような働き方に変わるのだろうか。今から、改革に取り組み、どんな社会を目指していくべきか」

 

『日本経済新聞』の「働き方」の特集記事では、このように問うていました。

その中で、日本で働く外国人の日本の働き方への意見が掲載されていました。

外国人の目から見て日本の働き方で良いと思うこと、悪いと思うことを尋ねています。

 

国籍も年齢も職種もバラバラの4名の外国人の方が登場していますが、大変興味深いことに、“ここがYESと感じているトコロ”に共通点が見出されます。

 

日本精工経営企画本部ディラン・シード氏(32歳 ニュージーランド)
「高い技術力や品質を維持するために協力し合うチームワークは日本の強み。海外にも伝えたい。」

 

NECクラウドシステム研究所チャキ・プラカシュ氏(28歳 インド)
「共通の目標に向かい一つのチームとして仕事を進めていく点がいい。親切で協力的。海外から来た社員でも安心して働ける。」

 

日本マイクロソフト業務執行役員ショーン・チュウ氏(49歳台湾)
「プロセスが重視されるため、仕事に対して細やかさがある。結果がすべての米国プロセスが乱暴になることが多々ある。」

 

すかいらーくグループ・ガスト厨房担当劉夢達氏(24歳 中国)
「ミスや間違いがあっても叱らずに、親切に教えてくれる。皆で一緒に助け合って働こうという姿勢があって安心できる。」

(出典:『日本経済新聞』2016年3月22日)

 

4名の方のコメントに共通するのはチームとかパートナーという言葉で表現できます。

全くかかわりのない4名の方が、そろいもそろって同じような評価をしている事実は、ほんとうにおもしろい!

2.日本人だから自然とチームワークが生まれるの?

たしかにチームワークやパートナーを大切に思う姿勢は日本人の特性だと感じることは多いです。

島国という地理的な背景で生まれた民族性だとか、きめ細やかな日本文化の反映だとか、持って生まれた資質という説明もできます。

日本企業のチームワークの良さ、一体感の強さの要因に、こうしたことが挙げられますが、それだけでしょうか? つまり、日本人が集まれば自然と出来上がるモノなのでしょうか?

 

決して自然と出来上がるモノではありません。

たしかに、日本人の資質のお陰でそのようなチームができやすいということはあります。が、決して、黙ってできるものではありません。

そうしたチームが出来上がるのは、明確な意図や意思が存在しているからです。

 

サッカー日本代表のエース本田圭佑選手も次のように語っています。

「それ(フィロソフィー)がないと動物園になっちゃいますんでね」

 

先の4名の外国人の方が働いている企業名を確認してください。

4つの企業とも多くの方が耳にする知名度の高い大企業です。

大手企業は、集めた優秀な人財に活躍してもらうことに腐心します。人件費という固定費の資本効率性を高めようと工夫します。

 

その結果、さまざまな仕組みが出来上がり、従業員にとっては、業務に専念できる環境が整備されています。

そうした配慮で人財の能力の最大化しないと生き残れない時代だからです。

会社の規模に関わらず、どこも必死。

 

やる気を引き出してチーム力を向上させ、成果を出しやすい環境を“意図的”に造るわけです。

すべては、人財に成果を確実に出してもらうためです。

先の4名の方は、そうした仕組みが整備されている職場を経験した結果、そう感じた。

 

そもそも、大手企業は仕組みがなければ機能しません。

社長一人が云々したところで、数千人、数万人の従業員の力を引き出すことなど絶対に無理です。

ですから、大手は仕組みづくりをしっかりやろうという状況になります。

3.中小モノづくり工場の現場でも絶対に必要なモノ

中小企業の良さは小回り性や柔軟性や機動性です。瞬発力のようなモノ。

そうした背景には社員と社長が近い関係にあることがしばしば指摘されます。

確かに、物理的な距離の近さはポイントのひとつ。

 

大手企業の工場でエンジニアとして働いていた時、会社トップと言葉を交わす機会は、業務の発表会の時等、機会は限られていました。当たり前と言えば、当たり前。

その後、従業員数100名前後の企業を数カ所経験しましたが、こうした企業では工場勤務でも、少なくとも1週間に2度や3度はトップの顔を見ましたし、直接、お話しして相談することも可能でした。

ですから、社員と社長の距離が近いことのメリットは大いにあります。

 

ただ、それだけで、全てが上手くいくのか……。

チームワークの良さや一体感を醸成しようという意図がトップになければ絶対にそうなりません。

中小企業ではよく職場紹介で、“家族的な雰囲気”で働きやすいとか、職場は“イイ雰囲気”で働きやすいというコメントを目にします。

 

それは、会社の規模が小さいからそうなっているのではなく、トップの方が、是非ともそうした職場を作りたくて知恵や工夫を使ったからです。

規模が小さくてトップや管理者と現場の距離が近いから、チームワークが形成されるのでありません。

チームワークや一体感を醸成するための仕組みや工夫を導入すれば、規模が小さくてトップや管理者と現場の距離が近いから、チームワークが“形成されやすくなる”のです。

 

そして、この形成のしやすさが中小モノづくり工場が持つ、大手工場に対する強みです。

この勘違いに気が付かないと、中小モノづくり工場の現場の強みが発揮されずモッタイナイことに。

工場が大きかろうが、小さかろうが、組織の雰囲気をイイ方向へ導こうとするならば、明らかなトップの意図が必要であり、その意図にそった仕組みが欠かせないこと、経営者や管理者の熱い想いが欠かせないこと。

今一度、認識したいです。

まとめ

チームワークや組織風土は意図的に造るモノなので仕組みが必要であり経営者の想いが欠かせない。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)