モノづくり工場でビックデータを活かす2つの着眼点

モノづくり工場でビックデータを活かす2つの着眼点

データ収集、分析を通じて新たなサービスや新たな予知保全方法を創出し付加価値を拡大させる、という話です。

自社製品に関連した新たなサービスや自社設備の新たな保全方法のアイデアがありますか?

 

ウチの製品がお客さんのところで使われているトコロを実際に見る機会は少ないなぁ。

それと現場の設備はベテランに修理させているので、もしかしたら勘所を押さえているかもしれない。

新たなサービスや設備保全方法を考えるためにはどうすればイイだろう?

 

自社製品や自社工場の製造ラインを知り尽くすことです。

顧客先で自社製品がどのように使われているか、また現場ベテランがどのように対応しているのか調査します。

1.インダストリー4.0とインダストリアル・インターネット

ドイツのインダストリー4.0と類似した概念があります。

アメリカのインダストリアル・インターネットという概念です。

ドイツのインダストリー4.0が発表されたのが2011年です。

 

アメリカのインダストリアル・インターネットは2012年に提唱されました。

インダストリー4.0の方が若干先輩です。

インダストリアル・インターネットを提唱したのはGeneralElectric(GE)です。

 

この概念を世界に広げる取り組みをしているのがインダストリアル・インターネット・コンソーシアムです。

GE社などのアメリカ企業を中心に設立された民間企業主導の団体です。

インターネットを産業に利用しようとする各種ブロジェクトには、ビジネスモデルの構築、基礎技術の開発に関連して多くの共通点があることが分かり、各社がバラバラでやるよりは一緒に取り組んだ方がヨイ、という考えに至りました。

 

GEが提唱するインダストリアル・インタ―ネットはドイツのインダストリー4.0よりは、概念に具体性があって理解し易いです。

GEが掲げる全体像は次のようなモノです。

 

1)センサーを埋め込んだ各種機器からネット経由でビッグデータを採取する
2)ビッグデータを蓄積する
3)ビックデータを分析し、洞察を導く
4)具体的な行動へ移す

 

ビックデータの分析、洞察したことを現場ですぐに使える「アクショナブル・インフォメーション」に加工するところがポイントです。

具現化できそうな事例がいくつかあります。

 

1)航空機エンジン

商用航空機は全世界で2万機、ジェットエンジンは4万台程度存在しており、今後も増えるようです。

離発着時の遅延時間の遅延やトラブルの41%がメカニカルエラーであり、これによる航空業界の負担コストは一日あたり4500万ドル(!)です。

その一方で、航空機のエンジンは大量のデータを生成していますが、実際に利用されているのはごく一部に過ぎません。

 

そこで、このデータをリアルタイムに収集・分析すれば、負担コスト削減を実現したい航空会社へ有益なサービスを提供できます。

早い段階でエンジンの不具合を見つけ、メカニカルエラーを予知できれば、トラブルを防止でき、コスト負担が減ります。

また、同様な事例として、発電システムで稼働中のタービンの動きをネット経由でリアルタイムに監視し、故障の予兆を見極めるトラブル防止サービスがあります。

 

ビッグデータ分析で故障を先回りし、オペレーターが対処に当たることを目指します。

日本GEの田中豊人GEコーポレート専務執行役員は、「定期保守が不要になる日が来るかもしれない」と語っています。

コトが起きてから動くのではなく、トラブルを未然に防ぐわけです。

 

工場運営でもこうした仕組みを目指します。

 

2)3Dプリンター

今後、3Dプリンターで造るものが大型になると製造プロセスの効率が求められる。

そこで、3Dプリンターの製造プロセスデータを収取・分析すれば、最適な形状や素材が見つかり、経済性が向上します。

さらに、3Dプリンティングで注目すべきはオープンソース化です。

 

自社で開発した製品形状データなどをインターネット上で公開して、それをもとに多くの人に3Dプリンターで試作をしてもらいます。

オープンソース化によって、世界中の知恵を集められやすくなるとともに、自社製品を広く世界中に知ってもらうことが可能になります。

インダストリー・インターネットと3Dプリンティングは、とても相性がイイです。

 

3)医療の効率化

心拍計測装器と携帯電話を連携させて、遠隔地の医師が患者の心拍を常時監視できるようにする。

そうすると、医師が遠方の患者を訪問しなくても体調を把握できます。

何か異常があると警報が出るので、そうなったら医師は患者に連絡をとれる。

 

医療費負担が増えている昨今、技術で医療の生産性を向上させる発想も必要です。(出典:「ITpro日経テクノロジー コラム」2015年4月6日『日経ものづくり』2015年11月号)

2.自動車部品の製造現場を管理していた頃の話

自動車部品の製造現場を管理していた頃の話です。

その現場では特殊鋼製の部品を扱っていました。

手のひらサイズの小さな部品でしたが、毎月数十万個を納入していました。

 

その部品は顧客先でさらに加工されます。

油分が付着した状態で加工させると、顧客先で不具合が発生します。

したがって、場内では防錆用の油を塗布できませんでした。

 

全数検査して、製品梱包してから約2日後に納入していました。

その程度の在庫期間なら錆が発生するリスクは低かった。

しかしながら、出荷までの1〜2日間でサビが発生するケースも稀にありました。

 

そのような場合に備え、出荷前に抜き取りの外観再検査も行っていました。

サビが発生しやすい状況を把握できれば、効率的な再検査が可能になる。

そこで、データの収集を計画しました。

 

サビが発生するのは現場の気温と湿度が関係していると仮定をしました。

両者がある数値以上になったら錆びが発生するリスクが高まる。

そこで、データロガーで気温と湿度、そして、その時のサビ発生具合を調査し続けることにしました。

 

横軸に気温、縦軸に湿度のマトリックスにサビの発生具合の分布を記せば、気温-湿度-サビ発生状況の相関図が手に入ります。

実績を積んでいけば、気温と湿度の組み合わせからサビのリスクを判断できます。

当時は手作業で集計をしていたので、ビックデータと言うほどのデータ量はなかったわけですが、画像認識装置なども活用して、ネットワークでデータ収集し、データを蓄積していけば、まさに、(セミ)インダストリアル・インタ―ネットです。

 

ビックデータの収集・分析により、モノづくり現場で発生している現象を解明することが可能になります。

3.中小企業のモノづくり工場でIoTを活かす

インダストリー4.0よりもインダストリアル・インターネットの方が、その概念に具体性があって理解し易やすいです。

データを収集→蓄積→分析し対策・行動につなげるのは、カイゼン活動での問題解決手法でもあります。

情報通信技術(ICT)の進歩で驚くほどのデータ量を安価に処理できる時代がきました。

 

手元にデータベースが無くても、必要に応じて大容量のデータベースを安価に活用できるクラウドソーシングのサービスもますます進化します。

こうした技術を活用し高付加価値化を図れないか? これからの課題です。

2つの着眼点があります。自社製品と自社工場です。

 

自社製品が顧客先で継続して使われるモノであり、経時変化を伴うならそれをモニタリングすることを考えます。

そして、そのデータを蓄積・分析して、顧客にとって有益な情報を提供する。

GEのような大掛かりなサービスでなく、規模は小さくてもイイから顧客が望むサービスを提供することに知恵を絞る。

 

また、製造現場の設備でトラブルを未然に防止するために、モニタリングを考えます。

設備トラブルの有無を識別している「ベテラン作業者の五感」と同等の機能を有するセンサーを探索します。

顧客へ直接提供できるサービス、モノづくり現場でのトラブル防止の2つの視点で検討します。

4.とにかく使えればイイわけで磨くべきは自社工場のコア技術

情報通信技術(ICT)を使う側としては、インダストリー4.0でもインダストリアル・インターネットでも、使えればイイわけです。

あくまで大切なのは自社工場のコア技術の方です。

付加価値拡大のためには、当然こちらを優先して磨きます。

 

磨き上げた自社工場のコア技術を最大限活かすためにICTを使うのであって、ICTで自社工場のコア技術が磨かれるわけではありません。

せっかく満を持して自社工場内にICTを導入したにもかかわらず、結果が今イチだった、となってはモッタイナイです。

コア技術を優先して磨き上あげます。

 

ICTは使ってナンボのものですから、その技術自体を理解しようと悩む必要はないです。

インターネットにしてもスマホにしても今や仕事では欠かせない「道具」です。

ただ、それらが機能する仕組みを説明できる方は少ないです

 

要は使えればイイ。

ですから必要な場合は、その道の専門家にお願いすれば、それですべて解決です。

しかし、どのような目的で、どう使って、どのように成果を出すのか、これは、ICTを導入する側が事前に決めねばなりません。

 

優先して考えるべきコトは、これであり、自社製品や自社工場の製造ラインを、知り尽くしていないとできないことです。

しっかりと“今”を把握し、経験や情報を蓄積して、事前準備を進めておきます。

まとめ。

新たなサービスや設備保全方法を考えるためにはどうすればイイだろうか?

 

自社製品や自社工場の製造ラインを知り尽くす。

顧客先で自社製品がどのように使われているか、また現場ベテランが

どのように対応しているのか調査する。

 データ収集、分析を通じて新たなサービスや新たな予知保全方法を創出し付加価値を拡大させる。

出典:株式会社工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)